第一章 〝彼〟のいない平和的な学園都市 City. ④

    5


 第一〇学区。学園都市の墓地の前。

 はまづらたきつぼきぬはた達がどこか密度のうすい、スカスカな印象のある会話をしていると、『墓地』のビルの自動ドアが開いた。浜面達がそちらへ目を向けると、むぎが出てきたところだった。

 彼女の表情に変化はない。

 涙が伝ったような跡も、目が充血している様子もない。

 とはいえ、確実に中では何かがあったのだろう。

 そのこんせきすらも、浜面達には伝えたくないと考えている程度の、何かが。


「終わったか?」


 浜面が尋ねると、麦野は『おう』とそつなく答え、


「終わったよ」


 実際には何も終わっていないのかもしれない。

 だが、麦野はそう付け足した。

 何かを区切るように。



 ところで。

 彼らがしんみりしているところ申し訳ないが、第一〇学区というのは学園都市の中で最も地価が安く、治安も悪い事で有名だった。唯一の墓地がこの学区にある事自体、方々で建設拒否された施設が、巡り巡って第一〇学区に落ち着いた、という経緯がある。

 そんな訳で。

 としごろの女の子を三人も引き連れている(ように見えるが実は全く逆の)浜面あげクンときたら、辺りにたむろしている不良少年達からすれば格好のマトなのだった。


『バスと電車、どっちで帰った方が早いんだっけ?』という話をしていた浜面達の行く手をはばむように現れたのは、五人の男達。

 戦隊モノなら全員イエローに認定されてしまいそうなふんの不良少年達は、何やら出鼻をくじいて話の主導権を握りたがっているのか、唯一の男手であるはまづらへ威圧的な視線を投げかけつつ、


「ちとちと待て待てそこのお財布クン。今ボク達バイト中なんで協力してくんね? クソをなぐると成績に応じて金が入るバイトなんだけど」

「ちなみにだまって財布渡してもぶん殴るから。逃げようとしてもぶん殴るしいのちいしてもぶん殴る。状況分かった?」

(まずい……そこそこヤバそう)


 頭の中身が死ぬほど軽そうな言葉を発する少年達だが、浜面はスーパーヒーローではないので、素直に体にいやふるえが走った。特に危険アリなのが二番目にしゃべったヤツ。どうも構えや腰の落とし方から察するに、プロレス系だ。レフェリーもおらず、柔らかいマットもない路上のケンカでは、あの手の投げたりめたり関節をめたりするタイプは、に鈍器や刃物を持った素人しろうとよりも危ない事を、浜面は実経験から理解している。

 とはいえ。

 一方で、浜面は安心してもいた。かくとうたよっているという事は、おそらくこの不良達は、浜面と同じく『無能力レベル0であるがゆえに不良になったタイプ』の人間だ。重力を操って投げ技の威力を一〇倍増しにするグラヴィティレスラーなんていう反則キャラでもない限り、『学園都市で最も恐ろしいタイプ』ではないだろう。

 そして、たきつぼはともかく、連れのむぎきぬはたは、まさに『学園都市で最も恐ろしいタイプ』だった。

 麦野は第四位の、絹旗もじゆうげきせんに対応できるクラスのだ。言ってみれば、不良のケンカに戦車や爆撃機を平気で持ち出すような状況に等しい。相手が反則第一ヒールレスラーだろうが人喰いぐまを投げ飛ばす柔道の達人だろうが、基本的に真正面から戦った場合、麦野や絹旗達の敵ではない。

 なので、


「……おいおい、やめておけよ」


 浜面は純粋に、からんできた不良少年達をあわれに思ってこう助言した。

 自然と世紀末帝王モードになった彼は、


「小僧ども。これは親切心から教えてやる事だから、一言一句完全に覚えておくんだ。そうしないと命の保証もできない。……この世の中には、かかわり合っちゃあならないものがある。アンタらは今、そいつの一歩手前までみ込んでいる。あと一歩だ。そのきよでアンタらは終わる。そいつを理解したら、ここは素直に回れ右しておけ」


 しかし。

 そこで、むぎきぬはたの二人が奇妙な目配せをすると、


「「きゃーん。こわーい、はまづら助けてえ」」


 黄色い声の意味が分からなかった。

 そして左右それぞれの腕に巻きつくように、麦野と絹旗の二人が腕を組んでくる理由が全く理解できない。

 彼女達の実情を知るはまづらが、とても真正直に全身から鳥肌を発する。



 が、五人の不良少年達やたきつぼこうはそれらを裏表なくストレートに受け取ったらしく、特にジャージ少女の方は何やら対抗心を燃やし始め、浜面の背中から首へ両腕を回し、おんぶスタイルでぎゅっと抱きめると、


「……勝手に取らないで。はまづらは、私のものだから」


 そのしゆんかん

 浜面あげは、人間の頭の中にある大事な線が切れる音を確かに聞いた。それは五人の少年達のものだった。


「お、おう」


 しばしパクパクと口を開閉していた不良の一人は、


「おうおうおうおうおう!! どうなってんだ!? テメェその大富豪っぷりはどういうつもりなんだぁええコラ!?」


 なんかアザラシやオットセイみたいな声を発しているが、きちんと殺気はマックスである。真正面からズンズン近づいてはまづらの首元を片手でつかもうとする。

 が。

 そこで、実は微妙に浜面の腕の関節をめていたむぎが、わずかに体をねじった。ひじに走る痛みから逃れるため、浜面は麦野の動きに合わせて、回転扉のように体の向きを変えざるを得なくなる。

 そして浜面の首をねらっていた不良少年の手の狙いがれた。

 首から肩へ。

 開いた五本の指が、ちょうど突き指する形で。


「にゅわああああああああああああああって痛ええ!? テメェ!!」

「きゃー、はまづらチョーかっこいー」


 ことさらバカっぽい声援を発する麦野は、とどめとばかりに浜面の腕をひねり、彼の腰をって不良達のど真ん中へとおどり出させる。一方、きぬはたの方はいつの間にか浜面の背中に張り付いていたたきつぼれいに引きがしていた。


「な、なんっ……」


 状況を理解できずに、いまだに目を白黒させている浜面だが、すでに不良少年達の覚悟は決まっている模様。


「冗談もたいがいにしろテメェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「そこのあくみたいな女に言えェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 浜面あげせんたくは一つ。

 逃げる。ゆえに歩道脇のだんの土を蹴り上げてプロレス男につぶしを決め、そのすきほうもうを一気に突破する。

刊行シリーズ

創約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある暗部の少女共棲(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある暗部の少女共棲(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある暗部の少女共棲(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある暗部の少女共棲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある科学の超電磁砲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(1)の書影
創約 とある魔術の禁書目録の書影
新約 とある魔術の禁書目録(22) リバースの書影
新約 とある魔術の禁書目録(22)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(21)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(20)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(19)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(18)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(17)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録×電脳戦機バーチャロン とある魔術の電脳戦機の書影
新約 とある魔術の禁書目録(15)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術のヘヴィーな座敷童が簡単な殺人妃の婚活事情の書影
新約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録SPの書影
新約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
新約 とある魔術の禁書目録の書影
DVD付き限定版 アニメ『とある魔術の禁書目録』ノ全テ featuring アニメ『とある科学の超電磁砲』の書影
とある魔術の禁書目録(22)の書影
とある魔術の禁書目録(21)の書影
とある魔術の禁書目録(20)の書影
とある魔術の禁書目録(19)の書影
とある魔術の禁書目録(18)の書影
とある魔術の禁書目録(17)の書影
とある魔術の禁書目録SS(2)の書影
とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録(15)の書影
とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある魔術の禁書目録ノ全テの書影
とある魔術の禁書目録SSの書影
とある魔術の禁書目録(13)の書影
とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある魔術の禁書目録(10)の書影
とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある魔術の禁書目録(6)の書影
とある魔術の禁書目録(5)の書影
とある魔術の禁書目録(4)の書影
とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録の書影