第三章 わずかな余白と次へと繫がる予兆 Girl. ④
2
八本脚の
そこで、通信が入った。
『おしまいだ。シルバークロース』
「もう良いのか」
『作戦の目的は達せられた』
「おいおい、必要なのは二人だけだったはずだ」
八本脚は通信相手の言葉に対し、
「つまり、フレメア=セイヴェルンと
『あそこまでやれば十分だろう。ここから再び
通信相手は鼻で笑ったような息遣いの音を発し、
『やられ役は大変だな』
「まったくだ。キャニスター弾を使っていれば
『そもそも、そのモデルは向いていなかったんじゃないか? ロシア平原での野戦を想定した広域電波照準は入り組んだ都市部では精度が落ちるし、それだけの火力だと殺さないようにするのも大変だっただろう』
「インパクトが重要だったんだよ。その点ではこのモデル……エネミーブラスターが最適だ。これでも私はTPOを
「これから帰還するが、もう片方はどうなっている? あっちも動かない事には始まらないんじゃなかったか」
『心配はない』
その言葉を聞きながら、
ところが、
「応答しろ。どうしたカメレオン、応答しろ。……くそ、何が起きているんだ」
『だから言っただろう、心配はないって。向こうも動き出しているよ』
『やられ役は大変だな』
「どう思う?」
そう
二〇〇メートルほど先の地下街出入り口からは、煙突のように黒煙が立ち上っていた。しかし彼女の目線の矛先は、あからさまな事件現場ではなく、目の前にある大型バスの中だった。
正確には、『暗部』の工作車両である。
あっという間の制圧。
一見すると窓の部分に黒い日差し
作業服を着た男達が数人倒れていて、内部には特徴的な工具の
その工具や留め具などから察するに、
「
当然ながら、
自分の手で
「……また面倒
「う……」
工作車両の中で倒れていた男達の一人が発したものだ。もっとも、これは男の体力が
「『
「人員を
「……『新入生』さ」
「あン?」
「すぐに分かる」
それだけ言うと、男の手足から力が抜けた。目は開いたままだったが、明らかに意識がない。
「頭に
「放っておけ」
「ここは油性マジックの出番だぜ?」
彼は工作車両の壁へ目を向ける。
いくつかの地図があり、建物や道が蛍光マーカーで色分けされていた。どうやら何者かの行動範囲を調べているようだった。
わざわざお高い写真用印刷紙にプリントされているのは、金髪に青い
写真の中、顔の横にはやはりマーカーで名前が書かれている。
フレメア=セイヴェルン、と。
3
三人とも、息が上がっていた。
「浜面……」
疲労の色を見せながらも、それでも笑みを作って顔を上げた浜面に対し、半蔵は彼の
「ふざけんな!! 浜面、何であそこで出てきた!? よりにもよって、何でお前が
ギリギリと、半蔵は歯を食いしばっていた。
それは浜面に対する
彼を関わらせてしまった、自分自身に向けた怒りだ。
まるで、今日、街で彼に話しかけてしまった事、
「……お前は、
ある程度抑えようとしていた半蔵の声は、途中で爆発した。
「オンナができて、『先の事』を考えるようになったんだろう!? まともな道を進もうとしていたはずだろう!! ロードサービスの勉強はどうしたんだ!! 何でここにきて、もう一度『
「……知らねえよ……」
対する浜面の瞳には、明確な意思などなかった。
ただ彼は、弱々しく首を横に振っただけだった。
「俺だって、本当はあんなもんに
格好なんてついていない。
ボロボロの言葉は、逆にそれが
「でも、放っておけなかった」
「……、」
「
自分でも考えがまとまっていないのか、浜面の言葉は断片的だ。
やがて彼は、自分の意見を
最も重要な事だけを。
「……放っておけなかったんだ……」
くそっ、と半蔵は
壁に背をつけたまま、浜面はずるずると地面に座り込む。彼は半蔵の顔を見上げながら、こう質問した。
「これからどうする?」
「俺の使っている隠れ家は全部使えないと考えた方が良い。
「……隠れ家って、その辺の不良に求めるようなもんか……?」
言いかけて、そこで浜面は何かを思いついた。
「いや、あるな」
「どこだ?」
半蔵が尋ねてくる。
浜面
『アイテム』。
今は学園都市の手先としての活動はしていないが、当時のコネは今でも少しは残っている。
その『アイテム』が隠れ家として使っていたのが……、
「第三学区にある個室サロン。多少値は張るが、あそこなら使えそうだ」