第四章 善人になる権利と突っぱねる権利 Black. ⑪

    10


 時間がない。

 その一部始終を見ていたはまづらあげは自衛のためにへし折れた鉄パイプ───おそらく駆動鎧パワードスーツかいしていったものの一つだろう───を拾い、一方通行アクセラレータの方へと走った。

 使える戦力は何でも使う。

 たきつぼむぎきぬはたと違って、あの第一位には巻き込みたくないと思うほどの義理は存在しない。

 フレメア=セイヴェルンがさらわれてしまった以上、一刻のゆうもない。

 彼女を守りたかったこまを殺したのが、一方通行アクセラレータだ。

 ならば、あいつにはフレメアを守らなくてはならない『理由』がある。



 人混みにまぎれて街を歩くくろよるうみどりは、ほくそ笑む。


(フレメア=セイヴェルンそれ自体には何の価値もない。あれは単なるだ。本来であれば、この街の『やみ』にかかわる必要もなかっただろう)


「第一位!!」


 はまづらは叫んだが、一方通行アクセラレータは振り返りもしなかった。

 麦野以上の怪物に対してどこまで意味があるのかも分からなかったが、浜面は折れた鉄パイプを構える。


「時間がない。協力しろ。バラバラにあの子を追うよりは効率が良くなるはずだ。少しでもあの子を助けたいって思う気持ちがあるなら協力しろ!! あの子がだれだか分かっていないようならここで教えてやる。聞けば、お前も参加するべきだって分かる。あの子は……」

「───、」


 一方通行アクセラレータは軽く手を振った。

 それが浜面の持つ鉄パイプに触れたたん、形勢は逆転していた。

 ゴギン!! という鈍い音。

 いつしゆんで彼の手から鉄パイプが飛ばされるどころか、その体が地面へとたたきつけられていた。一方通行アクセラレータは首筋にあるスイッチを切り替えながら、倒れた浜面へとのしかかってくる。

 確実に、無力化させるために。

 最低でも両腕の関節を外し、これ以上のせんとうを一切行わせないために。

 敵の敵が味方なんてルールはない。

 そもそも、その場限りで助ける事と、継続的に行動を続ける事は、心理的な原動力が全く違う。



 黒夜はフードだけ頭に引っ掛けた状態の白いコートを左右に揺らしながら、計画のしんちよくを再確認する。


(……重要なのはその人脈だ。フレメアはこまとく関連で彼を殺した一方通行アクセラレータと接点を持ち、しかも同時にフレンダ=セイヴェルン関連ではまづらや『アイテム』のむぎ辺りともつながりを持つ)


(……甘く、見てた……)


 浜面は押し倒されたまま、歯を食いしばる。

 一方通行アクセラレータの手が、浜面の首へ伸びる。

 このままけいどうみやくでもめられたら一発で意識を奪われる。そしてフレメアがさらわれた今、そんな事で時間を浪費すればどれほど事態が悪化するかは想像もつかない。

 何としても、逆転しなければならない。


(……何でも良い。とにかくこいつを俺の上からどかす材料は……ッ!!)


 やみくもに手を振るうと、右手が硬い感触をつかんだ。地面に落ちている物にぶつかったのだ。それはけんじゆうだった。おそらく警備員アンチスキルさわぎの中で落としたのだろう。

 だがこれだけでは足りない。

 大型の駆動鎧パワードスーツを片手でかいするような怪物だ。たかが九ミリを真正面からった程度でどうにかなるとは思えない。



 くろよるは携帯たんまつを取り出し、『上』のふんきゆうしているやり取りを確認する。


(そう、浜面あげ一方通行アクセラレータ。この二つの点を結び、太いラインを構築させる事こそが重要だった)



 その時だった。

 一方通行アクセラレータの視線に異変を感じた。彼は浜面の方を見ていない。いかに小者とはいえ、制圧途中の相手から意識を外すなんてまともな事態ではない。

 浜面は倒れたまま、目線で一方通行アクセラレータの見ているものを追う。

 人混みの中に、だれかがいた。

 小さな少女だった。

 浜面は知らなかったが、それは打ち止めラストオーダーと呼ばれている少女だった。


(……使、えるか……?)


 手の中の拳銃が、ズシリという重さを改めて伝えてくる。

 第一位は確かに怪物だ。

 だが、自分自身の身を守る能力と、他者を守る能力は全くの別物だ。

 あの少女が第一位の知り合いなら、きようはく材料として使える可能性はある。

 人混みやうまの中でも、はまづらと少女までの射線は通っている。きよは一二メートルほど。じっくりねらっててば確実に当てられる。それを材料に、あの怪物と交渉もできる。


(……どうする?)


 あれほどの怪物に、まともな手段で対抗なんてできる訳がない。

 そして、フレメア=セイヴェルンを救出するためにも、今は一秒だって惜しい。


(……どうする)


 ぴくり、と浜面の右手が動いた。

 だが彼が具体的な行動に出るより早く、一方通行アクセラレータはんげきがあった。

 ゴン!! という鈍い音と共に、浜面の右手首と肘の間に鈍いしようげきが走る。

 腕の骨に全体重を預けるような格好で、一方通行アクセラレータは右手を浜面の腕へ強く押しつける。



 上層部の危機感がシナリオ通りの数値をたたき出している事に、くろよるは満足する。


(そりゃそうだ。第三次世界大戦の終結ぎわ、浜面と一方通行アクセラレータはそれぞれ学園都市の『上』と交渉した。それによって、『上』はおよび腰になっている。あんなにも危険なのに。あんなにもざわりなのに、『交渉』によって手出しができなくなった)


「ぎ、ぁ……ッ!?」


 五本の指からけんじゆうはなれたのを確認してから、一方通行アクセラレータはもう片方の手を電極のスイッチへ伸ばした。


「……こいつが切り替わったしゆんかんに、オマエは全身の血液が逆流して死ぬ」


 れいこくな声で、一方通行アクセラレータは告げる。


「その前に一つだけ答えろ」

「何をだ」

ためらった。あのガキに向かって引き金を引く余裕はあったはずだ。……実際に、弾が当たるかどォかはさておいてな」


 もっとも、そうなっていれば、彼はようしやなく浜面を殺害していただろう。当たる当たらないではなく、引き金にかかった指がピクリとでも動いたその瞬間に。

 浜面は、届かない拳銃などに目はやらない。

 一方通行アクセラレータの目を、正面から見据える。


「……理由がなかった」

「何?」

「用があるのはアンタだけだ。あの子は関係ない。巻き込む理由がない」

「俺がこの状況にどォ関係している」

こまとく


 はまづらが名前を呼ぶと、一方通行アクセラレータまゆがわずかに動いた。

 構わずに浜面は続ける。


「テメェがその手で殺した男が、最期の最期まで守りたかったのが、あのフレメアって女の子だ。……アンタは駒場のリーダーが何で学園都市の『やみ』と戦ったのかを知っているはずだ。だからテメェには何の関係もないのために一度は戦った。でもそれだけじゃ足りない。テメェが本当に駒場のリーダーの遺志をみ取ったっていうなら、テメェにはフレメアを助けなくちゃならない理由がある」


 くろよるの携帯たんまつに、メールの着信があった。

 おそらくシルバークロースの駆動鎧パワードスーツも同じ内容のメールを受け取っているはずだ。


(だから、安定した局面をひっくり返す)


 チッ、と一方通行アクセラレータは舌打ちした。

 浜面に掛けていた体重をどかし、改めて起き上がると、彼はポツリとつぶやく。

 過去のだれかにではなく。

 今、さくぼうを巡らせている何者かに。


「……俺の独断ではなく、駒場の遺志だと? クソ、そォいう仕掛けか」



 黒夜は文面に目を通す。

 それは上層部の決定。

刊行シリーズ

とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある暗部の少女共棲(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある暗部の少女共棲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある科学の超電磁砲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(1)の書影
創約 とある魔術の禁書目録の書影
新約 とある魔術の禁書目録(22) リバースの書影
新約 とある魔術の禁書目録(22)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(21)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(20)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(19)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(18)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(17)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録×電脳戦機バーチャロン とある魔術の電脳戦機の書影
新約 とある魔術の禁書目録(15)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術のヘヴィーな座敷童が簡単な殺人妃の婚活事情の書影
新約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録SPの書影
新約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
新約 とある魔術の禁書目録の書影
DVD付き限定版 アニメ『とある魔術の禁書目録』ノ全テ featuring アニメ『とある科学の超電磁砲』の書影
とある魔術の禁書目録(22)の書影
とある魔術の禁書目録(21)の書影
とある魔術の禁書目録(20)の書影
とある魔術の禁書目録(19)の書影
とある魔術の禁書目録(18)の書影
とある魔術の禁書目録(17)の書影
とある魔術の禁書目録SS(2)の書影
とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録(15)の書影
とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある魔術の禁書目録ノ全テの書影
とある魔術の禁書目録SSの書影
とある魔術の禁書目録(13)の書影
とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある魔術の禁書目録(10)の書影
とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある魔術の禁書目録(6)の書影
とある魔術の禁書目録(5)の書影
とある魔術の禁書目録(4)の書影
とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録の書影