第四章 善人になる権利と突っぱねる権利 Black. ⑬

はまづら。今、こっちで無線操縦のカメラを空に飛ばした。映像はライブでお前の携帯に送る。駆動鎧パワードスーツを格納するほどの大型車なら、数はそう多くない。上から見ればかなり目立つはずだ』

「オモチャの飛行機か」


 ハンドルを握る浜面は、スピーカーフォンに設定してから携帯電話を助手席の一方通行アクセラレータへ投げた。今もアクセルは底までんでいる。片手で運転を続ける余裕はない。


「速度は?」

『時速一五〇キロ。相手がF1並にチューニングしてりゃあ振り切られる。だがこっちは道の制約はない。どんな土地でもぐ最短コースを突き進める』

「見つけたぞ……」


 一方通行アクセラレータが、ひざに載った携帯電話の画面をにらみながらつぶやいた。


「五キロ先だ。デカいダンプカーにピッタリ張り付く形で、例の駆動鎧パワードスーツが走行していやがる。ダンプの中身は空だ。山積みに見える鉄鉱石はダミーで、おそらく中に広い整備場が備わっている。その先はトンネルだ。走りながらでも回収できるよォになっているはずだ」


 半蔵は突然割り込んできた声にじやつかんげんそうなちんもくを返したが、すぐに会話を再開させた。それどころではないと気づいたからだろう。


『まずいな。MAVは空からの監視だし、オモチャ用の電波じゃそう遠くまで操縦できない。仕掛けるなら早めにしてくれ。見失ったら元も子もない』


 浜面はわずかに目線を一方通行アクセラレータの方へ向けた。


「……巻き込んだ俺が言うのもなんだけど、あの子は良かったのか」

「どのガキの事を言っている。さっきからガキばっかり俺にかかわってきてやがるから分からねェよ」

「ええと……」


 浜面は先ほどの事件現場にいた少女の特徴を頭の中で思い返しながら、


「歳は一〇歳ぐらいで、髪は茶髪のショートヘアで、全体的に能天気っつーかぶっちゃけ鹿っぽそうゴギュフワ!?」


 浜面が突然変な音を出したのは、一方通行アクセラレータが彼の鼻をつまんで軽くひねったからだ。


「……そのガキなら心配はいらねェ。あそこにゃ俺の連れがもォ一人いたからな」

「お、親御さん……? 今、運転中だって事には気づいていますかね?」


 一方通行アクセラレータは舌打ちして指をはなしながら、


「トンネル、か」

「学園都市第一位の能力があれば、ちゃちゃっと解決できるもんじゃねえのかよ」

「……、」


 手の内をさらす事に抵抗はあったが、不良達のリーダー、こま一方通行アクセラレータの弱点を突いた戦い方をしていた。すでに知られているものと判断し、一方通行アクセラレータはチョーカー型の電極を軽くさする。


「その気になりゃあせんとうと追いかけっこできるがな、電波障害で力の制御を失うリスクがある。トンネルって条件は好ましくねェ。使う力がデカければデカいほど、暴走した時の反動も大きくなるモンだ」

(……ロシアじゃチラッと見たが、一体、どこまでやれる力なんだ?)


『あの』むぎしずを第四位としてしまうほどの人間だ。ろくでもない能力なのは間違いないだろう。

 ともあれ、


「じゃあ、その能力はあてにはならねえか」

「……条件が悪いっつってるだけだ」

「同じ事だろ」


 はまづらはタイヤを半ば空転させるような格好で広いバイパスへと合流し、


で仕掛けるしかねえって事はな!!」


 ゴムの悲鳴を鳴りひびかせながら、スポーツカーは一気に加速していく。法定速度でチンタラ走っているファミリーカーの間をい、前へ前へと突き進んでいくと、目的のものが見えた。

 巨大なダンプカーと、四本脚の駆動鎧パワードスーツだ。


「トンネルに入るぞ」


 一方通行アクセラレータが宣言すると同時、標的は鉄筋コンクリートで作られたどうくつの中へとすべり込んでいった。

 浜面達も数秒のラグを空けて、同じように飛び込んでいく。

 視界がオレンジ色のライトで満たされる。

 がくん、と助手席の一方通行アクセラレータがわずかにふるえた。彼は何かに耐えているようだったが、浜面がそちらを見ようとすると、片手で制した。


「……ダミーで中は空洞とはいえ、重量差は一〇倍以上あるぞ」

「真正面からぶつかっても吹き飛ばされるだけだってんだろ」

「仕掛け方は分かるか?」

「あんまりめられた事じゃねえけど」


 ばぐん、と。

 目の前で、ダンプカーの荷台が開いた。『積み荷の鉄鉱石が』とか、『積み荷を載せている台の部分が』とかではない。それらをひっくるめて、本来ではありえない中途はんな位置にれつが生まれ、大きく上に開かれたのだ。おそらくだまし絵のようなものなのだろう。

 ダンプカーと駆動鎧パワードスーツは相対速度をぴったり合わせたまま、格納作業に入る。

 四足の脚の一本をダンプカーの内部へ引っ掛けた時、はまづらはスポーツカーを大きく前進させ、仕掛けた。

 確かに重量差一〇倍のダンプカー相手に、チャチな2ドアを突っ込ませても意味はないだろう。文字通り、はじき返されるのがオチだ。

 ただし。

 どんなに大きかろうが、ダンプカーもまた地面に四ヶ所の接点を持ち、高速回転する車輪によって力を得ていて、そして何より前へ進む乗り物である。となれば当然、どの方向から力を加えられても同じ結果を招くという事はない。例えば、時速二〇〇キロ近い速度で走るダンプカーははがねの凶器だが、相対速度をぴったりと合わせた四足の駆動鎧パワードスーツは、優しく脚を載せる事に成功している。

 では問題。

 ダンプカーの斜め後ろからこすりつけるように2ドアをぶつけると、どのような変化が訪れるか。


 ギャギャギャギャリギャリ!! というタイヤの悲鳴がさくれつした。

 レールに支えられたジェットコースターのように安定していたダンプカーが、とつじよとして車線から大きくはみ出したのだ。


 決して力任せに車体をたたきつけるのではない。

 むしろ相対速度をできるだけ合わせた上で、一度金属製のボディを標的に優しく密着させ、そこから一気に力を加えて『押す』のだ。

 本来は暴走車両を強制的に停車させるために、警備員アンチスキルなどが使う運転技術である。

 浜面がそれを知っていた理由は簡単。


「昔さんざんやられたんだ! 巨乳でジャージの警備員アンチスキルにな!!」


 大きな力は必要ない。

 元々、ダンプカーは巨大な力を蓄えている。その流れをわずかでも揺らがせれば、後は勝手に制御を失う。

 ここが街中なら二次被害の恐れもあるが、ここはトンネルで、両側は分厚いコンクリートの壁だ。

 火花が散った。

 制御を失い、壁にダンプカーの側面が擦りつけられているのだ。今まさにその内部へもぐり込もうとしていた四足の駆動鎧パワードスーツが大きく揺さぶられ、再び路上へ逃げ戻る。


「チャンス!!」


 窓の向こう、手の届きそうな位置に、巨大な駆動鎧パワードスーツが並走している。


「ダッシュボードの中をあされ、第一位!! 地図といつしよに書くものでも見つかったら、マジックへし折って中のインクをたたきつけてやれ!! レンズさえふさげりゃあいつはもう走れねえ!!」

「……そォも言ってられねェみてェだぜ」


 一方通行アクセラレータに指摘され、再び前方へ目をやったはまづらは、そこで目を疑った。

 今まで壁にこすられていたダンプカーが、死にもの狂いのはんげきとして、いきなりこちらへハンドルを切って来たのだ。

 迫り来る鋼鉄の壁。

 車体がバランスを失うのを覚悟で、浜面は急ブレーキを掛ける。大質量が目の前を横切り、バンパーがはじき飛ばされた。だが車体そのものはスクラップにはなっていない。ギリギリの所で浜面達は生き残っている。

 だが。

 バランスを失ったのは浜面達だけではなかった。急に車体を振ったダンプカーの方も、自分の重量に振り回される形で、今度こそかんぺきに制御を失ったのだ。

 直線状のトンネルに対し、ダンプカーは斜めに広がる。

 どうにか軌道を戻すため、まるでS字を描くようなちやな挙動で必死にハンドル操作する様が、外から見ていても分かる。

 しかし、その前輪はすでに浮いていた。

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