第四章 善人になる権利と突っぱねる権利 Black. ⑬
『
「オモチャの飛行機か」
ハンドルを握る浜面は、スピーカーフォンに設定してから携帯電話を助手席の
「速度は?」
『時速一五〇キロ。相手がF1並にチューニングしてりゃあ振り切られる。だがこっちは道の制約はない。どんな土地でも
「見つけたぞ……」
「五キロ先だ。デカいダンプカーにピッタリ張り付く形で、例の
半蔵は突然割り込んできた声に
『まずいな。MAVは空からの監視だし、オモチャ用の電波じゃそう遠くまで操縦できない。仕掛けるなら早めにしてくれ。見失ったら元も子もない』
浜面はわずかに目線を
「……巻き込んだ俺が言うのもなんだけど、あの子は良かったのか」
「どのガキの事を言っている。さっきからガキばっかり俺に
「ええと……」
浜面は先ほどの事件現場にいた少女の特徴を頭の中で思い返しながら、
「歳は一〇歳ぐらいで、髪は茶髪のショートヘアで、全体的に能天気っつーかぶっちゃけ
浜面が突然変な音を出したのは、
「……そのガキなら心配はいらねェ。あそこにゃ俺の連れがもォ一人いたからな」
「お、親御さん……? 今、運転中だって事には気づいていますかね?」
「トンネル、か」
「学園都市第一位の能力があれば、ちゃちゃっと解決できるもんじゃねえのかよ」
「……、」
手の内をさらす事に抵抗はあったが、不良達のリーダー、
「その気になりゃあ
(……ロシアじゃチラッと見たが、一体、どこまでやれる力なんだ?)
『あの』
ともあれ、
「じゃあ、その能力はあてにはならねえか」
「……条件が悪いっつってるだけだ」
「同じ事だろ」
「
ゴムの悲鳴を鳴り
巨大なダンプカーと、四本脚の
「トンネルに入るぞ」
浜面達も数秒のラグを空けて、同じように飛び込んでいく。
視界がオレンジ色のライトで満たされる。
がくん、と助手席の
「……ダミーで中は空洞とはいえ、重量差は一〇倍以上あるぞ」
「真正面からぶつかっても吹き飛ばされるだけだってんだろ」
「仕掛け方は分かるか?」
「あんまり
ばぐん、と。
目の前で、ダンプカーの荷台が開いた。『積み荷の鉄鉱石が』とか、『積み荷を載せている台の部分が』とかではない。それらをひっくるめて、本来ではありえない中途
ダンプカーと
四足の脚の一本をダンプカーの内部へ引っ掛けた時、
確かに重量差一〇倍のダンプカー相手に、チャチな2ドアを突っ込ませても意味はないだろう。文字通り、
ただし。
どんなに大きかろうが、ダンプカーもまた地面に四ヶ所の接点を持ち、高速回転する車輪によって力を得ていて、そして何より前へ進む乗り物である。となれば当然、どの方向から力を加えられても同じ結果を招くという事はない。例えば、時速二〇〇キロ近い速度で走るダンプカーは
では問題。
ダンプカーの斜め後ろから
ギャギャギャギャリギャリ!! というタイヤの悲鳴が
レールに支えられたジェットコースターのように安定していたダンプカーが、
決して力任せに車体を
むしろ相対速度をできるだけ合わせた上で、一度金属製のボディを標的に優しく密着させ、そこから一気に力を加えて『押す』のだ。
本来は暴走車両を強制的に停車させるために、
浜面がそれを知っていた理由は簡単。
「昔さんざんやられたんだ! 巨乳でジャージの
大きな力は必要ない。
元々、ダンプカーは巨大な力を蓄えている。その流れをわずかでも揺らがせれば、後は勝手に制御を失う。
ここが街中なら二次被害の恐れもあるが、ここはトンネルで、両側は分厚いコンクリートの壁だ。
火花が散った。
制御を失い、壁にダンプカーの側面が擦りつけられているのだ。今まさにその内部へ
「チャンス!!」
窓の向こう、手の届きそうな位置に、巨大な
「ダッシュボードの中を
「……そォも言ってられねェみてェだぜ」
今まで壁に
迫り来る鋼鉄の壁。
車体がバランスを失うのを覚悟で、浜面は急ブレーキを掛ける。大質量が目の前を横切り、バンパーが
だが。
バランスを失ったのは浜面達だけではなかった。急に車体を振ったダンプカーの方も、自分の重量に振り回される形で、今度こそ
直線状のトンネルに対し、ダンプカーは斜めに広がる。
どうにか軌道を戻すため、まるでS字を描くような
しかし、その前輪はすでに浮いていた。