第四章 善人になる権利と突っぱねる権利 Black. ⑲
『なるほど』
通信だ。
『
互いの間で通信ができるのも、そのためか。
浜面は大型バイクを操りながら、小さく、だがはっきりと
『フレメアを返してもらおうか』
『
『もう一度爆発を起こす』
補助ブースターを片方失い、バランスの崩れつつある『ドラゴンライダー』だが、四足の
一方、シルバークロースはわずかに笑い、
『大事な人質はこちらの手にある。勝敗条件を握られている事には自覚はあるか?』
『アンタはフレメアに手は出せない』
しかし、
『それは自動車でも戦車でもなく、
論理は浜面のものだが、それを支える根拠は別物だ。
浜面が『こうしよう』と表層的に考えるまでもなく、もっと心の深い部分を読み取って、機械の方が勝手にオフラインデータベース内の情報を
これがすらすらと出てくる事、これが正しいと自信を持って言える事に
『そうだな』
シルバークロースは短く答える。
とはいえ、ここで素直にフレメアが返ってくるとは思えなかった。必ず何か次の一手が来る。浜面はそう思い、全方向へ神経を
『確かにこの状況はおいしくない。不都合だ。なら、多少の段取りは変更してでも、私は私の身の安全を保障させてもらおうか。……「ヤツら」の事もあるし、ここで私達「新入生」が消耗する訳にもいかないからな』
だが、
『つまり、だ。簡単に言わせてもらおう。ここは逃げるよ、どんな手を使ってでも。幸い、このライフアーマーにはそれを実現するだけの耐久性はあるからな』
直後。
四足の前面ハッチが開き、アルマジロのような小型
四足の内部にフレメアを残したまま。
時速五〇〇キロを超える
『こ、の……野郎!!』
そして走行中の四足の分厚い前面ハッチが、再び閉じてしまう。
操縦者がいなくなれば、この
『私を気にしている場合か? 彼女の意志を尊重して即席の「チップ」も取り外した。だがそのハイウェイチーターは二本腕と二本脚ではない。彼女に正確なコントロールはできないだろう』
ようは、わざとフレメアに恐怖を抱かせるために
『
『くそっ!!』
アルマジロを気にしていても仕方がない。
今は一刻も早く四足の前面ハッチをこじ開け、フレメアを救出しなければならない。
どういうモニタをしているのか、ここで再び整備員から声をかけられた。
『そのモデルの腕力はあくまでも操縦用だ。前面ハッチをこじ開けるほどの出力はない』
『ならどうしろってんだ!! このまま見送れっていうのか!?』
『削り取れ』
整備員の言葉は短く、そして的確だった。
浜面の知識や経験を補強しているコンピュータよりも。
『四足はトンネルの壁面に押し付けられているだろう。モデルを押して斜めにし、前面ハッチの端を接触させたら、その状態を維持し続けろ。壁から
『……ッ!!』
浜面は改めて『ドラゴンライダー』のスロットルを調整し、相対速度を合わせて指示に従う。シルバークロースがいなくなった後の四足は、元々『滑って移動』する性質も手伝って、斜めにするのは簡単だったし、その状態でも前進を続けた。
こうしている今も四足はトンネルの壁に接触し続けていた。金属を
(地形の凹凸に対応できなくなってきているのか)
ガコンッ!! と
操縦者のいなくなった四足が、わずかな勢いに流されるように、壁から
ガリガリガリギャリギャリ!!!!!! と
いける。
根拠もなく、いや外部から与えられた知識によって浜面は確信する。
四足の前面ハッチを
だが、そこで異変が起きた。
先ほどの補助ブースターの爆発に巻き込まれた四足の一本が、いきなりガクンと沈んだのだ。肩の関節が外れたような感じだった。大きな爆発と、壁に接触し続ける事で発生する振動にさらされ続けた結果、内部の機構に重大な損傷が発生したのだろう。
バランスが大きく崩れる。
浜面の力だけでは支えられなくなる。
共倒れになる事を
速度が落ちるのなら、それはそれで喜ぶべき事だ。
脚の先端がどこにも触れていないのなら、その分だけ減速する。四足が完全に止まらなくても、壁にぶつけても問題ない速さになれば、フレメアは安全に保護できる。
ところが、
(
浜面の見ている前で、あれだけ頑丈だった前面ハッチが不自然に揺れる。カタカタという振動は、装甲が削り取られ、太いボルトが今にも折れそうになっている様を
このままでは開く。
フレメア=セイヴェルンが放り出される。
ようやく減速を始めたとはいえ、
生身の人間が転がされれば、大根おろしのようにすり
『ふ、ざけん、な!!』
浜面は叫ぶと、今一度『ドラゴンライダー』のスロットルを一気に開放させる。
フレメアを助けるためには、四足に直接乗り移るしかない。
浜面は『ドラゴンライダー』をガタガタ揺れる四足の右前脚へ近づける。その手で脚の装甲を
乗り移れば、当然『ドラゴンライダー』のバイクを失う。
両手で四足の脚を摑み、両足を完全にバイクから四足に移し、浜面は高速移動を続ける