第四章 善人になる権利と突っぱねる権利 Black. ㉑
爆発し、まともに機能しなくなった四足の、カメラのレンズが
炎の中に立つ影を。
小さな少女を両手で抱えるその影を。
『浜面、仕上……ッ!!』
シルバークロースは気づかなかったのだ。
浜面が四足の
だがシルバークロースは信じられない。
(どうして、どうやって生き延びた……? しかも、あれはフレメア=セイヴェルンか。浜面と違って、本当に装甲の恩恵を受けていないはずなのに!!)
炎の中に立つその人影の詳細を調べるため、彼は大破し使い物にならなくなった四足ではなく、アルマジロと地下鉄のセキュリティ
それが裏目に出た。
『そこにいるな』
声が刺さる。
視線がこちらを向いている。
モニタに映る映像が、スピーカーから聞こえる音声が、正確にシルバークロースを
(……
シルバークロースが乗っ取った監視カメラのレンズへ正確に視線を投げる
向こうはこれみよがしに監視カメラの前に立ち、電子的な『
当然、単なる不良少年にできる領域を超えている。
だがシルバークロースは知っている。その足りない知識や技術を、具体的な経験のレベルまで強制的に補強させる機構を。
彼はアルマジロの
(……
あくまでも一時的。
炎の中の人影が、動く。
駅からトンネルを伝ってきたのか、それともシルバークロースと同じく工事作業員用の出入り口を使ったのか……
浜面から少年へと、フレメアが預けられる。
彼女は生きている。そしてフレメアの身柄が移されてしまえば、シルバークロース達が掲げる『作戦』は失敗に終わる。
だが、もはや気にしている余裕はなかった。
シルバークロースは、何にも増して最優先で考えなければならない事ができてしまった。
生き残る事。
それを真剣に考えなければならない段階へ、いつの間にか追いやられていた。
『……俺が何をしようとしているかは、言わなくても分かるな』
言葉と共に監視カメラは
同時、通信を介した音声も完全に
追う者と追われる者が逆転した、その
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ピンク色のジャージ少女・
手にしているのは単なる缶ジュースではなく、有名喫茶店お
(……足が痛い。歩くの疲れた……)
理由としてはとてもシンプルな理由で、滝壺はここにいた。
相変わらず
彼女がその能力をフルに使うには、強力な副作用のある『
なので、何かしらの『見えない力』の後押しがあるとはいえ、結局彼女を動かしているものの正体は、
……これで学園都市の『
「んー……」
滝壺はぼんやりと頭上を見上げ、
(北東から信号が来てる……。多分あっち)
その時、携帯電話が着信メロディを鳴らした。
てくてくと街を歩き続ける滝壺は、小さな手でポケットから電話を取り出す。
相手は絹旗
『やほー。そっちは浜面超見つけられました?』
「んーん」
『麦野も警備会社の
「きぬはた、はまづらがどこにいるか分かったの?」
『ええまあ』
電話の声は、そこでわずかにトーンを落とした。
『……ただ、近くに超面倒
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ところで。
シルバークロース=アルファは、過去に制裁で顔を焼かれた事がある。
人間は中身が大事だとかいう寝言が実生活では何の役にも立たない事を、彼はそこで身をもって知らされる。
そこからのシルバークロースの人生は、ただひたすらに顔を取り戻す事に費やされた。いくつもの『仕事』をこなすたびに学園都市の
しかしそこで彼は気づいたのだ。
元の
たとえどれほどの技術と資金を使って、
顔を焼かれた時のあの
シルバークロースは基本的に、自己の肉体に対して美的感覚を有さない。
何を飾っても内側から
数々の
四本脚の
八本脚の
間にプログラムを
生身の二本の足で八本脚を操るための挙動は、当然ながら二足歩行時には何の役にも立たない。その『八足歩行法』に慣れてしまうと、今度は生身の二本の足でどうやって歩くのかを忘れたり、命令が混乱してしまう。
足のたとえだけでこれだ。
この問題が『全身』に広がれば、どこまで深刻化するかは言うまでもない。
自分の体の形は何なのか。それはどう動くのか。
しかし。
そこまで自己の肉体を切り捨てていた彼は、ふと思ったのだ。
燃え盛る炎の中で、フレメア=セイヴェルンを抱えて立ち上がったあの男。
その光景、その立ち位置。
それは、シルバークロースがどんなモデルの