第五章 たとえヒーローにはなれなくても Knight(s). ⑨

 そのしゆんかん、彼がニヤリと笑っている理由を、AIのストレートな思考は判定できなかった。だがAIは別の事をあくしていた。彼が両手で抱えているもの。AC一〇〇ボルトの家庭用電源ケーブルでつなげられているものの正体を、ほぼ正確に。

 金属のかたまりだった。

 平面的な照明を何重にも重ね、何万ものLEDを束ねて作った、一つの塊だった。

 より正確には、主要フロアの照明をかき集めて手に入れた部品の一群だった。

 電磁波照射装置。

 鉄板を組み合わせて装置全体をラッパのようにおおったその形状は、前方へ強い指向性を与えるであろう事もシミュレートできた。

 結果。

 しかし。

 リスク判定にはこう出る。強力な電磁波は電子機器にあくえいきようを及ぼす。ただし数万のLED程度のものであれば、専用の対策がほどこされたファイブオーバーの諸機関へ致命的な損傷を招く恐れはない。そもそも、『強力なレールガンを武器とする』ファイブオーバー自体、磁気や電磁波を大量にばらくモデルであるからだ。

 一人ずつまつさつする。

 AIの判定は、あくまでも『単純な行動の結果、いつかは届く』。それをてつていする事こそが、ファイブオーバーにファイブオーバーという兵器の特性を与えている。

 だからこそ。

 ファイブオーバーのAIには判定できなかった。

 そもそも。

 恐怖も打算も持つ生身の人間が、ガトリングレールガンなどという冗談のような兵器に真正面から立ち向かおうと考えるのは、どのような心境の時にき上がる思考なのかという事を。


 つまり、圧倒的な勝利の確信。

 それなくして、わざわざ怪物の前に立つ人間などいるはずがない。


 ファイブオーバーは直前に段ボール箱をかいしていた。中に入っていたのは真ん中の所から切られ、半球状になった大量の果物。そして、『おかしな事』があった。そこには対戦車ライフル、メタルイーターM5に使われる巨大な弾丸が縦に突き刺さっていたのだ。

 プログラムのリスク判定が受け流していたのは、発砲につながる因子がなかったためだ。

 果物の半数以上は粉砕されたが、残りは四方八方へと散らばり、転がっている。

 当然、ファイブオーバーのふところ、胴体下部にも。

 そしてわざわざ果物に突き刺しているのは、安定した平面が床と接する事で『弾丸のせんたんが、常に上を向くように』仕向けるため。

 はんぞうは言っていた。

 メタルイーターM5でファイブオーバーを貫くためには、ほぼゼロきよからつしかないと。

 だが、いくら弾丸を近づけたとしても、発射するための装置がなければ意味がない。

 ところで。

 火薬を起爆するための方法として、最も頭に浮かべやすいのは『火をける』事だろう。

 しかしそれだけではない。

 例えば、


 強力な電磁波は、過敏なタイプの火薬をゆうばくさせる。


 ファイブオーバーがかまを動かすより早く。ガトリングレールガンがはまづらの肉体を建材ごと粉々にするより早く。

 爆音がさくれつした。

 ドガガガガガガガガッ!!!!!! という空気をふるわせるだいおんきようは、遠くはなれた浜面の耳どころか、腹にまで食い込んできた。

 輪切りにした果物の中央、半球の頂点から飛び出す形で弾丸を刺したのだ。自然と、多くの弾丸は上を向く事になる。

 しかし半数近い果物はガトリングレールガンでかいされたため、それ以外の方向にも銃弾は飛び散った。

 ファイブオーバーの真下から、全方位へと。

 それこそ一つの巨大な爆発のように、ありとあらゆる方向へ破壊のあらしき散らす。


「ちくしょう!!」


 電磁波照射装置を構えていた『標的』は、あわてたように身を伏せた。

 だがファイブオーバーについげきするだけの余裕はない。

 装甲にオレンジ色の火花が散る。

 リスク判定が作業を終える前に途絶し、データが破損する。

 銃身によって火薬の爆発力を整えていない以上、弾丸の威力は当然がれる。だがきよが距離だ。ほとんどゼロ距離射撃に近い状況は、それ相応の破壊力を生み出す。

 装甲に巨大なれつが走り、なおもギチギチと脚を動かそうともがき、そこへてんじようから大量の建材が降り注いできた。ファイブオーバーに当たらなかった分の弾丸は、フロアの天井へじんだいなダメージを与えていたのだ。

 今度こそ。

 ファイブオーバーが、止まる。

 スペック上、第三位を超えるとまで言われた駆動鎧パワードスーツが。

 その直前、AIのストレートすぎる思考は、決して判定のできない音声をとらえていた。

 つまり。

 生身の感情の込められた、人間の声を。


「……俺の知ってる第四位は、もっともっと怖かったぜ」


    5


 きぬはたさいあいは、オフィスビルの屋上で、逆さまになってぶら下がっていた。

 鋼鉄でできた給水タンクは内側かられつしたようになっていて、屋上一面には広大なみずまりができている。彼女の着ているニットのワンピースの一部が、タンクのとがったざんがいに引っ掛かっているのだ。

 彼女の『窒素装甲オフエンスアーマー』でも、ダメージは無効化できない。腹に何発もボディブローを受けたように、体のしんまでしようげきが通り、スタミナは失われていた。だが、これでもマシな方だ。能力の加護がなければき肉になっていただろう。


(……ビルの人間が上がってこないのは超ぎようこうですけど、これもやっぱり『上』がかかわっているんですかね)


 しかしそんな絹旗の考えは通じなかった。

 屋上と屋内をつなぐエレベーターの扉が開いたのだ。

 現れたのは、オフィスビルで働くサラリーマンでも、管理会社の作業員でもなかった。

 それにしてはとしが若く、何よりつらがまえが凶悪すぎる。


「……第一位、でしたっけ……?」


 現代的なデザインのつえをついた、白い髪に赤いひとみ一方通行アクセラレータは、面倒くさそうな調子で給水タンクの残骸に引っ掛かった絹旗を見上げる。


「『新入生』とやらが必死になって警備員アンチスキルの介入をしよォとしているのを、俺の連れが傍受してな。くろよるうみどり、あるいはシルバークロース=アルファ。どちらかと関わったな」

「本題は?」

「あいつらの行き先だ。『新入生』とやらがフレメア=セイヴェルンってガキをねらっている。殺される前に手を打ちたい」

「セイヴェルン……? くそ、あの超泣き虫が柄にもない事やってるのは、そういう訳だったんですか」

「行き先に心当たりはあるのか?」

「『新入生』の下っの通信を傍受できたんなら、そっちについても超分かるはずでは?」

「作戦に応じて機密ランクを設定してンだろ。何をするにも金がかかる。組織に関わるすべての通信に最高ランクのセキュリティを割り当ててたら、湯水のごとくってヤツになる。……何より、『新入生』ってのは『上』からのサポートを完全に受けているって訳でもなさそォだしな」

「超なるほど」

「で、心当たりは?」

「ええまあ」


 きぬはたはぶら下がったまま肩をすくめて、


「ここからそう遠くはないはずですよ」


    6


はまづら!!」


 通路の向こうから、はんぞうが顔を出した。


「やったな、おい。ホントにファイブオーバーを沈めやがった!! ……なあこれ、そっちに近づいてもだいじようか。これ以上暴発しないだろうな」

「大丈夫だ。残らず発射済みだよ」


 浜面は大量のLED照明を集めて入手した電磁波照射装置を放り捨て、通路を走って半蔵達の方へと近づいていく。


「急げ! 弾はあと何発残ってる? メタルイーターM5の弾丸だ!!」

「何言ってんだ浜面。電動カマキリはもう……」

「忘れたのか」


 浜面は半蔵の両肩をつかんで揺さぶりながら、


「ここへ来た駆動鎧パワードスーツはファイブオーバーだけじゃない。さっきの掃射でいくつかは巻き込まれたみたいだけど、まだ何機も残ってる!!」


 そしてそのすべてが、メタルイーターM5の火力がなければ応戦できないほどの強度を誇る。

刊行シリーズ

とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある暗部の少女共棲(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある暗部の少女共棲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある科学の超電磁砲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(1)の書影
創約 とある魔術の禁書目録の書影
新約 とある魔術の禁書目録(22) リバースの書影
新約 とある魔術の禁書目録(22)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(21)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(20)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(19)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(18)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(17)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録×電脳戦機バーチャロン とある魔術の電脳戦機の書影
新約 とある魔術の禁書目録(15)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術のヘヴィーな座敷童が簡単な殺人妃の婚活事情の書影
新約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録SPの書影
新約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
新約 とある魔術の禁書目録の書影
DVD付き限定版 アニメ『とある魔術の禁書目録』ノ全テ featuring アニメ『とある科学の超電磁砲』の書影
とある魔術の禁書目録(22)の書影
とある魔術の禁書目録(21)の書影
とある魔術の禁書目録(20)の書影
とある魔術の禁書目録(19)の書影
とある魔術の禁書目録(18)の書影
とある魔術の禁書目録(17)の書影
とある魔術の禁書目録SS(2)の書影
とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録(15)の書影
とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある魔術の禁書目録ノ全テの書影
とある魔術の禁書目録SSの書影
とある魔術の禁書目録(13)の書影
とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある魔術の禁書目録(10)の書影
とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある魔術の禁書目録(6)の書影
とある魔術の禁書目録(5)の書影
とある魔術の禁書目録(4)の書影
とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録の書影