第五章 たとえヒーローにはなれなくても Knight(s). ⑩

 確かに一機一機の性能は、ファイブオーバーよりも劣るかもしれない。

 だが、それらがまとめておそいかかってきたら。あるいは、ファイブオーバー一機よりも恐ろしい戦力として機能するかもしれない。

 そもそも。

 どんな機種だって、どんなモデルだって、たった一機でも、駆動鎧パワードスーツというものは全力で応じなければならないほどの戦力なのだ。

 半蔵はあわてたように弾数を確認し、


「……弾は七発。だが全て必中できる保証はないし、向こうの強度によっては何発もち込まなくちゃならねえかもしれねえ。これで残りを全部相手にするのは難しいぞ!!」

「でも、これ以外に無人の駆動鎧パワードスーツを無力化できる火力はありません」


 この隠れ家に何を保管しているのかは、持ち主であるくるわが一番分かっているはずだ。


「サブマシンガンやアサルトライフルでは、いくら撃ってもはじかれるだけです」

「どうすんだ浜面! しやげきとさっきのトラップで確実にやれると思うか!?」

「俺に考えがある」


 ガシャガシャガシャガシャ、というサスペンションのきしむ音が、複数の方向から聞こえてきた。

 取り囲まれようとしている。

 時間はもうない。

 唯一の救いは、はまづらが今着ているものの『規格』だけか。


    7


 バガバガバガバガバガッッッ!!!!!! という爆音が連続するのを、くろよるうみどりは耳にしていた。こうしている今も廃ビルのいくつかの窓からふんじんが噴き出し、外壁にれつが走り、建物自体がほんのわずかに傾き始めている。

 きぬはたさいあいとじゃれていたせいで多少手間取ったが、こうして見ている限り、シルバークロースのコレクションは有効に機能しているようだった。突入して数十分。すでに内部はかいされ尽くしている事だろう。


「……そろそろころいかにゃーん?」


 つぶやく。彼女がイメージしているのは、人肉を耕す巨大な農作業機械だ。人間の手では面倒な重労働も、機械がはしから端までていねいに行ってくれる。ネックと言えば、生死の判定が少々ファジーで、『とりあえず確実に死亡確認を取れる』よう、肉体をグシャグシャにしてしまうところぐらいか。


(……掃除機が無人になる時代なんだから、クソ仕事なんざ全部マシンに回してしまえば良いのに)


 その『人間』と『機械』の扱いがあいまいになっているのがシルバークロースと黒夜な訳だが、彼女はその皮肉には気づいていない。

 とはいえ、このまま放っておくと、人肉がすべてペースト状にされてしまいかねない。『肉眼で見て分かる程度』に体を保っていられる内に、中の様子を確認した方が良いかもしれない。

 無人機の作戦行動中にみ込む事は、誤射や誤判断によるしゆうげきの可能性も否定できない訳だが、


「ま、その時はその時」


 新しく膨らませた予備のイルカのビニール人形を軽くでながら、


「……たかが機械のオモチャごとき、その気になれば一〇秒でスクラップにできるんだし」


 ぞぞぞぞぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞぞ……と、黒夜のゆっくりした歩みの背後から、たいのしれない音が続いた。

 彼女を補強しているもの。

 サイボーグ。

 大量の赤子の手が、付き従う巨大なマントのように、数を増す事で威圧感を手に入れるイナゴの大群のように、くろよるうみどりを追ってくる。

 そのすべてが黒夜の能力の発射デバイスであり、砲台。

 数百数千に及ぶ『発射地点』は単なる『窒素爆槍ボンバーランス』を放射するにとどまらず、一つの群体として『一定範囲の気体の流れ』全てに干渉を起こす。ばくだいな一本のちつやりを生み出す事も、逆に窒素を奪った空間を用意する事で、その他の酸素や水素をれ込ませて爆発させる事も自由自在である。

 もはや、その力量ははんちゆうに収まらない。

 そして黒夜自身、ちんなナンバリングに興味がない。


「……私も私で、敵味方の区別なくやり過ぎるって評判だからなあ。今回の場合、人命と引き換えに金をつぶしそうだが、さてどっちの方が怒られるのやら」


 幼い女王は戦局にさらなる混乱を招くため、廃ビルへと近づいていく。

 そこでふと、その歩みが止まった。

 ニヤリと、あざけるような笑みを浮かべる。


「ま、出てくるとすれば、ここがお似合いかな」


 現代的なデザインを突く、白い人影がそこにいた。

 一方通行アクセラレータ

 学園都市の第一位。正統なナンバリングであれば、七人しかいないのさらに頂点。

 黒夜はニヤリと笑って、


「しかしまぁ、思っていたよりしんちようだったね。それとも戦争を経て人格変わった? バッテリー温存のために立ち止まって情報収集にてつするなんて、私の知ってる思考回路とはちょーっとズレてる気がするけど。てっきり、に飛び回って無駄に力を消耗するものだとばかり思ってたよ。……まぁ、おかげで間に合わなかったみたいだけどさ」


 あからさまな挑発。


「守りたいのはフレメアだったのかな? それともはまづら? ま、どっちにしても、中でもうくたばっているしラインも『確定』している。死亡した浜面も含めて『アンタ達』は一つの反乱分子。まとめて殺害したって『上』は怒らない」


 だが、一方通行アクセラレータが着目していたのはその言葉ではなく、黒夜そのものだった。


「……足りねェ力を、無理矢理に補い続けたなれの果てか」


 き捨てるようにつぶやいた第一位の言葉にも、黒夜は気に留める様子を見せない。


「いつもいつもタイミングは悪かったんだけどさ、ようやくまっとうな条件が揃ってきたんじゃない?」


 共に強大な力を持つ者同士。

 黒夜を進ませればの死は確定し、留めれば生存の可能性が出てくる。


「っつっても、放っといてもいまごろ、中でグッチャグチャになってんだろうけど。はは、それとも、人間の形を保っているか保っていないかを線引きにしちゃってる? 墓の下に詰め込んじまえばみんないつしよだってのに」

「……楽しいか?」

「あん?」

「まだそンな所にとどまり続けているのが、そンなに楽しいか?」


 そんな所。

 悪党の領域。

 今まで、とあるはこういう風に自分を眺めていたんだろうか、と一方通行アクセラレータは思う。

 当然ながら、くろよるの方はそんな思考に気づかない。

 一方通行アクセラレータの質問に対し、彼女の反応はシンプルだった。

 その口調が、変わる。


「決まってンじゃン。楽しいさ。それはそれは楽しいさ!! ここが世界の頂点なンだ。悪を極めたこの場所に、私の求めるすべてがある!! 殺しのためならいくらでも金をつぎ込める。あごで使える人員の数もはんじゃない。おまけにこのサイボーグ。私の肉体は、私の生き様は、学園都市のだれよりも突き抜けている!! これが楽しくない訳はないよねェ!!」

「……、」


 一方通行アクセラレータの思考の一部分、特にこうげきせいを植え付けられた黒夜の言葉は、学園都市上層部のあくしゆなセッティングで実現された、自分自身との対話にも近い。

 彼女へのけんは、そのまま自らへとひるがえる。


「ひょっとしてェ、自分は第一位のだから、チカラァ使った勝負なら絶対に負けないとか考えてる?」


 あざけるような声が続く。

 イルカのビニール人形が、内側からゆがんでいく。


だよねェ。そォじゃないンだよねェ!! 私の後ろに控えている『こいつら』の本質は、物量でもかいりよくでもねェ。サイボーグだっつーところにあるンだよねェ!!」


 破れたビニール人形からあふれた十数の腕を、右半身へ接続させる黒夜。

『体を動く人工物で補っている』の先へ進んだ、兵器のかたまり

 人のシルエットを無視するどころか、人の体の枠がどこまで膨らむのかさえあいまいになっている生命体。

刊行シリーズ

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