第五章 たとえヒーローにはなれなくても Knight(s). ⑪

「学園都市第一位だとか言っているが、オマエは過去に何度か敗北を味わっている。例えばはら数多あまた。あらゆる攻撃を『反射』させるオマエの特性を逆手に取って、意図的にこぶしを手前に引く事で『反射』させた拳をオマエの体の方へと招き寄せる」


 何が言いたいのか、一方通行アクセラレータは理解した。

 黒夜の背後で、大量の腕がさざ波のようにうごめく。


「でもってェ、私の『腕』はサイボーグだ。機械だ。デジタルな数値で完全に操れる人工物だ!! はら数多あまたのパラメータを挿入すりゃあ、オマエへの対抗策にそのままつながるのは言うまでもないよねェ!!」


 過去のきようと対面させるもの。

 その口調、思考もあいまって、一方通行アクセラレータを削り取るには最適の相手。


「さァてどォする第一位。木原数多の場合はあくまで生身のこぶしだが、私の『やり』なら一発でアウトだ。死にたくなけりゃあ全力で来いよ。その上でバラバラにしてやるから」


 ガシャガシャガシャ!!!!!! と、数千の『腕』が一斉に身構える。

 そのすべてが『窒素爆槍ボンバーランス』を自在に生み出し、さらに群体として周辺一帯の気流を完全にしようあくする。

 こうげきパターンは数十万。その全てに一方通行アクセラレータが苦手とする『木原数多のベクトル』を挿入する事で、絶対の『反射』を貫いて確実なダメージを与える事ができる。

 全方向、三六〇度からのとつの乱舞。

 たとえどこへ逃げても、空中へ飛び上がったところで安全地帯などない。シンプルな『窒素爆槍ボンバーランス』自体は届かなくても、群体としての気流制御は上空にまで及ぶ。

 防御もかいも不可能。

 となれば、一方通行アクセラレータ辿たどる道は確定である。

 対して、学園都市第一位の怪物はと言えば、


「……ふン」


 軽くき捨てると、彼は道をゆずるように、一歩横へれたのだ。

 そのしゆんかんくろよるうみどりは彼の行動の真意を理解できなかった。その思考パターンの一部分を植え付けられているからこそ、違和感をぬぐえない。この局面で、いやどんな状況においてでも、あの怪物が『譲る』など絶対にありえない。その行動には必ず何かしらの裏があるはずだが、何を当てはめればこんな状況に繫がるのか、候補を思い浮かべる事すらできない。

 あるいは。

 それこそが、悪の道にとどまり続ける黒夜と、その道を捨てた一方通行アクセラレータの差異なのか。


「何だ? どォいう……?」


 だからこそ、黒夜は疑問を発した。

 対する一方通行アクセラレータは、特に表情を変えずにこうつぶやいた。


「オマエはかんちがいしている」

「……?」

「機械の兵器の一番の特徴は、完全に数値で操れる事じゃねェ。単純な兵器には思想や主義なンてないってところだ。全てはそれを運用する側の意思によって決定される。クソが使えばクソな結果しか生まねェし、まともな野郎が使えばまともな結果を生み出すかもしれねェ。……ま、『兵器を運用する』って時点で、完全な善とは程遠いがな」

「私ではこれらのサイズのサイボーグを操り切る事ができねェとでも?」

「だから、俺はゆずる事にした訳だ」


 質問には答えず、第一位は適当な、面倒くさそうな調子で続けた。


「言っておくが、オマエに、じゃねェぞ」


 ガシャン、という音が聞こえたのはその時だった。

 廃ビルの三階の窓から、何かが飛んできた。地上に落下し、何度かバウンドし、くろよるの足元近くまで転がってきたのは、グシャグシャにひしゃげたシルバークロースのコレクションの一つ……つまり駆動鎧パワードスーツだった。

 じゆうげきの音が途切れている。

 さらに、窓から顔をのぞかせたのは、ひときわ金のかかってそうな……、


(ファイブオーバー……?)


 銃撃が止まったという事は、内部の制圧が終わったのか。

 そんな事を考えた黒夜だったが、直後に間違いだと気がついた。

 その装甲には大きなれつが走っていた。

 人が乗るためのコックピットを守る前面ハッチはゆがんでいて、一部にすきが空いていた。

 まるで、無理矢理にこじ開けたかのように。

 そして、突入の直前、はまづらあげがまとっていた『ドラゴンライダー』用のスーツは学園都市製。つまり操縦体系はファイブオーバーと同一規格という事になる。

 という事は、


(まさか……ッ!?)


 かんが走った時にはもう遅かった。

 一方通行アクセラレータ身を退いたのか、その理由を黒夜は『身をもって』知らされる事になる。


 黒夜うみどりへ向けた、圧倒的な掃射。

 たった一発でも第三位を超えるレールガンが、毎分四〇〇〇発の勢いで連射される。


 電動カマキリの左右のガトリングレールガンは、まず始めに黒夜の背後に控える大量の『腕』を一気にいだ。それは死を招くおおかま。ただ振り回すだけで、超能力すら組み込んだ兵器の群れが麦のように刈り取られていく。

 弾丸の帯は、左右から一気に黒夜へと迫る。

 かんかくせばまりは、そのままギロチンの刃に匹敵する。


「く……ソ、がァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


 万全の状態であれば、ファイブオーバーと真正面からぶつかっても力押しでくろよるが勝っていただろう。だが出遅れた。その数秒の差が、彼女を特別にしていた『腕』を大量に消費させてしまっていた。

 それでも、迫り来る二条の弾丸鎌に対し、黒夜は即座に反応した。

 残った数百の『腕』を総動員し、大量の『窒素爆槍ボンバーランス』を生み出す。大気の制御によって生まれた暴風は弾丸の軌道をじ曲げ、複数の巨大なやりすさまじいかいりよくを持つレールガンの銃弾と激突し、次々と爆風を生み出していく。さらに気体だけでは対処しきれない事をこうりよし、じかに大量の『腕』を前面に展開し、たてとして機能させる。


(いける)


 防戦の中で、しかし黒夜ははんげきのための策を練る。

 あくまでも攻撃的に。


ぼうだいな電力を消費するガトリングレールガンは、同時に凄まじい熱も発する。永遠に連射し続ける事はできない。必ず安全装置が冷却期間を生み出す。そこをねらって反撃すれば、ファイブオーバーの破壊は難しく……)

「手札の選択を誤ったな」


 そんな思考を断ち切るように、一方通行アクセラレータそつない調子でつぶやいた。

 植え付けた思考パターンの大元。

 その能力の運用に最もけているであろう人物の声が。


「防戦ならまずは『反射』だろ。ピンポイントで力ァ集約させるベクトル操作じゃ、広範囲の連撃には向かねェ。そいつは盾を捨てて槍で弾丸の雨をはじく、曲芸みてェなモンだ」

「……ッ!?」


 攻撃性ではなく防護性。

 黒夜うみどりではなくきぬはたさいあい


「攻撃に特化していたンなら、素直にせんめつてつていしてりゃ良かったンだ。そこまでごまんの力があるなら、速攻で貫いて掃射を止めちまった方が手っ取り早い」


 貫けなかった、というへいがい

 生き様が揺らいだ、という結果。

 生物としての本能が、ガトリングレールガンという破壊のごんに対して、とっさに防御行動を選択してしまった事。

 その一連の動きを、一方通行アクセラレータは面倒くさそうな調子で評した。


「宝の持ち腐れだな。サイボーグ」


 大量の『腕』が砕かれ、機械のパーツが爆発した。

 くろよるうみどりはその破片の雨にたたかれ、路上へ叩きつけられる。

 勝敗は確定した。

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