第五章 たとえヒーローにはなれなくても Knight(s). ⑫
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「終わったか?」
「残党は目つきの悪いクローンが片付けているところだ。っつっても、メインの二人はオマエが
「まあな。今は
特殊なスーツを着た浜面と内部スペースの間に、ケーブルが接続されていた。おそらく一度ファイブオーバーのシステムを
同一規格だからこそ可能な、
「オマエ、情報処理のスキルでも持ってンのか?」
「やろうと思う発想と、具体的な手順を並べるのはどっちが賢いと思う? ちなみに後者は全部機械がやってくれた」
「……炊飯器で何でもかンでも料理しよォとする女に着せたら、一から家庭料理を作るよォになンのか?」
黒夜海鳥が倒れていた。
かなりの数の『破片』が突き刺さり、出血も少なくないが、五体満足の状態だった。あれだけの掃射を受けて、実際の弾丸は一発も
「これで『新入生』の
「フレメア=セイヴェルンっつーガキは?」
「大金庫の中。タイマー制御だから半日後までは開かない」
「……面倒
「俺も動くか。
そんな風に言い合い、二人は
それが災いした。
彼らは自分の戦っているものの本質を
サイボーグ。
機械。
ガトリングレールガンの掃射によって、そのほとんどが粉砕された。だが、例えば機械に必要なABCのパーツの一つが欠けても、機械は動きを止める。その場合、『腕1』『腕2』『腕3』からAとBとCのパーツをそれぞれ接続する事で、『腕4』を作り出す事ができる。
つまり。
スクラップにしたからといって、それで『腕』を無力化したとは限らない。
「……は」
息を
倒れる黒夜が、その小さな右腕を前へ伸ばすのを、確かに
同時。
互いの機能を無理矢理に補い合う一〇〇前後の『腕』の
標的は浜面
フレメア=セイヴェルン。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
ボン!! という気体の爆発する音が
複数の気体の
だがそれで充分。
出現させた槍を右から左へ振るだけで、廃ビルそのものが両断される。完全な
これが学園都市製。
科学の
「くたばれ最後の希望!! これが、このどす黒い真っ黒が、学園都市の『
その
彼らは共に。
最後の選択で、
(……ちくしょう……)
浜面は歯を食いしばり、黒夜を止めようとするが、もう遅い。そもそも、たとえ特殊なスーツを着ていたとしても、ファイブオーバーのない浜面では
(……やっぱり俺じゃ、俺みたいな
『槍』が、
浜面は何もできず、ただその先へ目をやった。
暴風が吹き荒れた。
ただ目撃するという、その最後のあがきすらも封じられた。彼は暴風の余波を顔に当てられ、思わず目を
絶望の色で視界が染まる。
これまでやってきた事の全てが、たった一撃で否定されるのを実感する。
フレメア=セイヴェルンはもう助からない。
彼は勝敗条件の選定を間違っていたのだ。
シルバークロースや黒夜を撃破する事が勝利なのではない。
フレメアの命と笑顔を守り切る事が勝利なのだという、一番簡単な事を見失っていた。ファイブオーバーや黒夜の撃破に、心が浮かれていたと言わざるを得ない。
守れると思ったのだ。
強敵を倒したと確信したその時、フレメアの安全を手に入れられたと思ったのだ。
その結果が……、
「くそォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫び、絶望し、しかしそこで浜面は気づいた。
だが、それ以上がない。
廃ビルが
(何が……?)
恐る恐る、その目を開ける。
おかしな光景が広がっていた。
確かに、『槍』はあった。全長数百メートル、不自然な気体のうねりが作り出した暴力の
しかし。
実際には、フレメアの隠れている廃ビルには傷一つなかったのだ。
倒れていない。
何かが
それは少年だった。
より正確には、少年の右手だった。
上条当麻。
その手に幻想殺しを宿した一人の少年が、『窒素爆槍』を受け止めていたのだ。
結末は明快だった。
まず最初に、あれだけ強大だった
完全な静寂。
危険性を取り除かれた世界。
彼はこの世で最も不可解な右手を軽く振って、
「久しぶり」