序章 イヴの最初に交差点で Prepare_for_Xmas_Eve! ②
しかしズレが生じた事に女教師は気づいていない。
「リモコンと言われましても、これはかまぼこ板ですわよ?」
だがツインテール少女が
「いいや確かにあれはリモコンだった。どこかにあるはずだ、必ず!」
「かまぼこ板でしてよ」
「リモコンだろっ!!」
不自然なくらいどうでも良い事にこだわりまくる二人。
一方で、本当に本物のリモコンを手にしている蜂蜜色の少女はくすくすと笑っていた。もちろん両者の視界の中だが、誰にも言及はされない。相変わらずと言えば相変わらずだが、悪趣味な事この上なかった。
生徒と教師で軽く言い合いになった事で隊列が乱れ、世間知らずのお嬢様達がわらわらと集まってきた。元凶である
「モバイルグラスはあ?」
「干渉済み」
行方を
ここからが本番だ。
自分のものと一緒に、ついてきた
これが学園都市の超能力。
電気、薬品、暗示。ありとあらゆる科学的アプローチを用いて『当人が見ている現実』を
「まだまだ第一ステップってところダゾ☆」
ビルの屋上まで上がっても安心はできない。せいぜい五階建て、追っ手がこちらに気づけば垂直の壁を一秒で駆け上がる方法などいくらでもある。
「わざわざ危険を冒してまで
「うーん、
「まあもっとも?
「他にも色々追っ手を振り切るコースはあったのに、どうして真っ先にビルの屋上を選んだと思う?」
はい? と金髪少女が何度か
「やる事やったら速攻で縁を切って一人で逃げるためよ?」
「ああっ!? ちょ、みさかさっ、まさかこんな所に私を置いていくつもりい!?」
ようやく気づいた
「あーっはっはあ!! 一人で罪を
「ぜっ、絶対ヤル!! ほんとに根っこの根っこから根絶してやるわあ
全力の泣き言には舌を出すしかなかった。
どうせ向こうだって適当に逃げ切ったら
下から見れば真っ暗だった学園都市も、改めて上空から観察してみれば電飾の海で埋め尽くされていた。住人の八割が学生という学園都市は終電終バスが出る時間もかなり早いはずだが、それでも大学生や教師達は夜の街を満喫しているらしい。
「っ」
ようやく実感が追い着く。
自由自在のクリスマスが始まったのだと。
「~~~っっっ!!」
圧倒的な解放感にぶるると幼い背筋を震わせたため、危うく制御を失ってそこらのビルの壁に激突するところだった。革靴の底を壁面に押し付け、磁力を使って速度を殺しながら地上の街並みへと降りていく。
両手を上に上げ、背筋を伸ばして、改めて
クリスマスの繁華街なんて恋人だらけというイメージがあった
(ふうん。バレンタインもチョコレートの扱いが大分変わったってニュースは良く聞くし、そんなものなのかな……)
もちろん小中学生が深夜〇時の街を笑顔で歩いているなんてまともな状況ではない。そう、二四日はまともな日ではないのだ。教師達の中から志願して治安維持を務めるオトナの
『ケーキを買って帰るのは構わんがこの場で食うのは買い食いとみなす。繰り返す、買って帰るまでだ! ピピピピーっ!! そこのバカップル、手を
カタブツの塊みたいな先生さえこの調子だった。携帯電話やスマホで撮られる事が前提なのか、どうにもお説教がパフォーマンス臭い。
見るのも耐えがたいようなバカップルも大量にいるのだが、この分だと少なくとも一人で街を歩いているだけで変な注目を浴びる心配はなさそうだ。
街の時計を見れば深夜〇時。
(自由にできるのは最大でもイヴと当日の四八時間ってとこか。とりあえず一人で遊べるところは今の内に全部消化しちゃって時間を潰しつつ、朝になってからになるかしら。
しれっと頭に浮かんで、だが直後にハッと我に返る
背伸びはしたい。試してみたい事だってたくさんある。少なくとも大人達に管理されたクリスマスなんて真っ平だ。……しかしやってみたい事リストの相方として、
(いやいや)
ショーウィンドウを見るのはやめよう、と
より正確には、そこに映る今の自分の顔だけは。
(いやいやいや!! これは、そう、とりあえず置くだけ。マネキンみたいなものだから! クリスマスにやってみたい事がある、そのために相方が必要。ただそれだけの話だし……っ!!)
しかしもうイヴは始まっているのか。
夢見る少女の前に、いきなりのミラクルがやってきた。
横切ったのだ、目の前の交差点を。
なんか全裸の幼女を抱えた
「な……」
思考が止まった。
しかし現実の時間はそのままだった。