序章 イヴの最初に交差点で Prepare_for_Xmas_Eve! ③
「ななななななあ!? ちょっと待って、アンタ、イヴの日に一体何やってんのよお!?」
何をやっているかと聞かれても、
問題、自分は何をやっているのだろう?
全裸。
今度は全部ハダカの女の子である。
いくら不幸体質っつってもモノには限度ってもんがあるだろう。
「くふふ」
腕の中の幼女はどろりと濁った瞳で、唇を三日月みたいに裂いて笑っている。ミルク色の肌にイチゴのような色の髪が特徴の、一〇歳くらいの小さな女の子……なのだが、善良とも
当人はお姫様抱っこしてもらってご満悦らしい。
シーツ? ドレス? ともあれ、申し訳程度の薄っぺらな赤い布を両手で胸元にかき抱いたままダウナーな上機嫌で
「うふ、うふふふふ。
「ちょっと待ってこんなのおかしいよ。いきなりキャラが濃過ぎるもん。今度は何だっ、
近くのコンビニへ出かけたのだ。
裏でなんかガサゴソしてるなと思って
幼女がいたのだ。
しかも彼女の小さな手で
ちなみにこの子は身ぐるみを剥ぎ取られた訳ではない。
出会った時からこうだった。悪い子はこのまんま夜の街を堂々と歩き回り、物陰からこっそりスマホを構えて、自分の意思でダウナーに状況を楽しんでいる。
学園都市は大丈夫なんでしょうか?
『てめっ、待て!! 今なに撮った、待てえ!!』
『あわわまずいよ兄貴アレ動画サイトに上げられちゃったら俺達ぃ!!』
『手錠と拳銃持ってる
冬でもタンクトップの人達は元気であった。多分装備リストの中にズボンとかパンツとかの他に『分厚い筋肉』っていうのが別枠で存在する。そして今時は『何ガンつけてんだよ』も随分とスマート化したらしい。スマホでやる事がないからと言って、あんまり見境なしにあれもこれもと撮りまくっているとケンカの引き金になりかねないのだ。特に犯罪の瞬間とか!
せっかくのイヴに何やっているんだ、と
こっちも向こうも!!
「冬だよ、雪降ってんだぜっ? この吐く息も真っ白な中でお前何してんの!?」
「別にこの季節だからという訳ではないのよ。早く春にならないかなと考えているくらいだし」
「……、」
「あら?」
子供は何も見ていないようでいて、実際には
春の話なんかついていけない。
何故なら夏より前の記憶がないから。
……しかしこれを彼女に言ったところで何も改善しない。今のところ、欠けているのは思い出だけで文字の読み書きや勉強の内容まで忘れている訳ではないので、日々の生活には困らないのだし。
でもって、
「どうやって逃げ切るつもりなの?」
どろり幼女(?)が三日月みたいな笑みで問いかけてくる。
たかが幼女、されど幼女。余計な荷物を抱えたままの
『どこだっちくしょう!!』
『車出せ車! 自動運転の待機させてたろ、逆サイドから回り込め!!』
『今ドローン飛ばしたぜえ……。
(えーん、馬鹿にハイテク渡すとろくな事にならねえ!! これなら森でデジカメ見つけて自撮りを始めたサルの方がまだマシだっ!!)
あとなんか一人だけいつまでも中二心を忘れない人が交じってるようだ。できれば無害な美少女であってほしかったが。
しかしまあ、そもそも事の発端からしてコンビニATMからお店の裏まで伸びてる光ファイバーをいじくっていた
ただ一方で、
(相手はテクノロジー頼みで、使っているのは自動運転の車と頭の上のドローン。そうなると、だ)
「地下鉄っ!!」
これで同時に振り切れる。
学園都市の終電終バスそのものは完全下校時刻に設定されているため早々に運行が止まってしまうが、構内店舗や連絡通路としての機能はかなり遅くまで
不幸慣れしている
「いいか出口は六つあるが全部無視しろ。ここの連絡通路をそのまま走れば隣の駅まで
「お兄ちゃん怖いよう」
「うるせえなこの野郎!! これ以上の譲歩はナシだッ!!」
「そして随分と作戦会議が長引いたわね。こんなにおしゃべりしている余裕はあったかしら」
「……?」
ようやく
ガかッッッ。
ドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォン!!!!!! と。
腹に響く、
前後左右ではない。上から、だ。
ビリビリと、鼓膜というより
雷。
高圧電流。
だが出血も
そう、外で何かあったのだ。
「……お前はここにいろ」
何か、とてつもないイレギュラーが起きている。これまでの、闇雲に逃げれば何とかなるレベルの話ではない。まず観察してルールを把握しなければ間違いなく死ぬ。これだけ科学万能の世の中で、そんな『予感』が見えない針のように
息すら殺して、少年は冷たいコンクリートの階段へ足を乗せる。
一段。
二段。
三段。
少しずつ地上へ向かうにつれて、ピリピリと全身の肌を薄く刺すような感覚が増していく。最初は緊張感のなせる業かとも思ったが、違う。物理的。スイッチを消したはずの蛍光灯が夜光塗料のようにぼんやりとした光を浮かべていた。空気そのものが帯電しているのだ。
鼻につくのは、わずかな異臭。
嗅ぎ慣れない、どこか消毒めいた印象を与える臭気の正体は……オゾンか何かか。
頭ではそう分かっているはずなのに、生理現象を止められなかった。
そして。
だから。
「ねえ」
それは、少女の声だった。