序章 イヴの最初に交差点で Prepare_for_Xmas_Eve! ④

 それしかなかった。3Dプリンタで作った非金属のナイフや警棒、あるいは弓矢まで。ハイテクを極めた馬鹿どもは、たった一つの影の周りでゴロゴロと転がり、そのまま動かない。なんか内側からトラバサミのように大きく開いている金属の塊は……まさか、自動運転の車か何かだろうか?

 そして全ての元凶。

 何かしらの理由で街灯をやられたのか先ほどと比べて随分と暗かった。青白い鬼火のようなものが揺らいでいるのは、セントエルモの火、先端放電か。よくよく見てみれば、三枚羽根の風力発電プロペラの先っぽがぼんやりと光っていた。

 だけど蛍の光だけで夜の森を全部照らすのは難しいように、一点は光っていても全体は闇にまれたままだ。

 だから中心に立つ何者かは最初、シルエットしか見えなかった。

 パリッ、と。

 ゆうとうみたいな音を立てて青白い紫電がはじけ、最大で一〇億ボルトに達する膨大なエネルギー源の正体が明かされる。

 茶色のショートヘア、勝ち気な瞳、小柄なたい

 常盤ときわだいちゆうがくのもこもこダッフルコート、その下に制服の短いスカートの裾とまばゆい生脚をさらしている勝ち気な少女の正体は、


さか……?」

「全体的に説明をしてほしいんだけど」


 こっちの台詞せりふである。どうしてこんな真夜中に名門お嬢様学校の女子中学生が学生寮を抜け出して夜の街をはいかいし、何の脈絡もなく不良集団を高圧電流でしまったのだ? 大仰な計画を立てるだけが凶悪事件の全てではない。何かの弾み程度で人を死に至らしめる凶器があちこちに散乱している状況なのに。

 あるいは。

 彼女にとってはこの程度、脅威にすら感じないのだろうか。

 無能力者レベル0低能力者レベル1異能力者レベル2強能力者レベル3大能力者レベル4、そして超能力者レベル5

 街の八割、実に一八〇万人を一律で分類する六段階評価の、まさに頂点グループ。

 学園都市で七人しかいないな才能の持ち主。

 中でも第三位、『超電磁砲レールガン』。

 純粋な発電系であれば最強とされる少女にとっては。


「いやあの、説明って言われたって……俺だって事件に巻き込まれて逃げ回っていただけで何が何やらな状況なんだよ。それでも無能力者レベル0無能力者レベル0なりに頑張ってここまで逃げ延びたんだ。だかr

 言葉は終わらなかった。

 ドガッシャア!! と、音の塊というよりは空気の絶縁を破って解き放たれた衝撃波がかみじようの全身をたたく。あれだけやって、ことはまだ当てる気ではない。今のは、ついうっかり。力の制御を誤って前髪の辺りからぐにゃぐにゃの紫電の塊が飛び出しただけだ。

 あれだけでも、まともに当たっていれば人が死んでいたかもしれないが。

 そしてかみじようとうも死ななかった。

 ぱりっ、と。

 顔の前にかざした右手のてのひらで、光のざんはじける。推定出力一〇億ボルト強、並のレーダーならそばに寄れば余波だけで火花を噴き出す。にもかかわらず何の絶縁性能もない血と肉のてのひらだけで打ち消してしまったのだ。

 これが、


無能力者レベル0……? ふざけんじゃないわよ……」


 れんな少女にしては、うつむいているにせよあまりに低い声があった。

 とある少年が持つ唯一の力、『幻想殺しイマジンブレイカー』。

 効果は右手の手首より先だけだが、その効果はあらゆる異能を打ち消すというもの。

 かみじようとうの眼差しも好戦的な色を帯びていく。


「だから穏便に、お互い持ってる情報を出して探り探り状況を確かめようって言おうと思っていたんだけど、そういう雰囲気じゃあねえか……。ああもう、こういう力業は最後の最後まで取っておきたかったんだがなあ!!」

「……穏便に、ですって……」


 うつむいていた少女が、何か繰り返すようにつぶやいていた。

 そしてようやっと顔を上げる。

 いよいよ第三位の眼光が真正面から少年を射貫いていく。


「穏便って事はないでしょ何なのよあの裸の女の子アンタ今日が何の日か知ってんのクリスマスイヴはもう始まっているっていうのに一体何をどうしたらそんな道に突っ走るっていう訳変態界にさんぜんと輝く一番星にでもなりたいの馬鹿なの死ぬの探り探りって裸の幼女を暗く冷たいじめじめした地下に連れ込んで一体何を探って確かめるつもりだったのよ何とか言ってみなさいって言ってんのよおーっっっ!!!!!!」


 あらいやだ、とかみじようは心の中で思った。

 どうしよう。セレブな通り魔少女の方がまともな事を言っている。

 知らぬ間にすげえー遠くまでやってきてしまったのかもしれない。

 そしてぼうぜんと立ち尽くすかみじようとうの真後ろから悪魔がやってきた。なけなしの薄い布を片手で胸元にかき寄せたまま、ぱだかの幼女が少年の腰の横にひっついたのだ。

 三日月のように笑みを引き裂いたまま。

 パニックで両目がぐるぐる回っているさかことの目の前で。


「お兄ちゃん怖いよう」

「なっ」

「早く怖いのやっつけて。そうしたらヒミツの夜歩きしましょうね? うふふ、年に一度のクリスマスイヴはまだまだ始まったばっかりなんだから」

「……っ!!」


 かみじようが声もなく総毛立った直後だった。


 さかことからなんか出た。

 というより、軽く全方位へ青の大爆発が巻き起こった。

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