第一章 まるで遊園地のような Red_Wear,Big_Bag,and_Flying_Sledge. ①
1
夢であって欲しかった。
だが、寝不足の頭と全身の筋肉痛が昨夜の出来事は現実であったとしっかり証明してくれている。
「……不幸だ」
学生寮の一室で
ガラステーブルの上には電源ケーブルと
ビデオチャットであった。
今月の通信容量をガリガリ削る格好で映し出されているのは、身長一三五センチ、ピンク髪の謎過ぎる女教師・
『はーい。それじゃあ出席日数が全く足りてねえ
声は
「お互い学校まで行くの面倒臭いなら補習なんて開かなきゃ
『これ開かないと
「是非とも補習でお願いします!! 絶対そんな
そんな訳でお休みの日まで勉強である。学園都市とはその名の通り学校の街。カップルでカラオケボックスに入り、オプションのジョークグッズは鼻メガネを選ぶかネコミミカチューシャを選ぶかできゃーきゃー言い合う並の繁華街とはやる事が違う。
……そっちに行きたい、切に願ってもよろしいか?
『学園都市製の超能力の根幹には量子力学がありますー。これは原子よりもさらに小さい陽子や電子、さらに言えば強い力、弱い力、重力、電磁気力の四つの力の振る舞いを説明する段において効果を発揮するものなのですが、同時に一般生活の中で観測がもたらす変化を自覚する事はほぼありません。リンゴに消えろと念じても実際に消える訳ではありませんからねー。言ってみれば虚数のようなもので、それがないと説明できないが、それそのものを実感する機会はない、といった感じでしょうか。……通常ならば』
文句だらけの補習授業だったが、始まってしまえばやはり本職の先生だ。
すらすらと流れるような言葉でありながら、重要な単語だけ抑揚を変えて
おかげでノートを取り、蛍光マーカーで色をつける作業も苦にならない。変な達成感がついてくるので、手動マッピングのRPGでダンジョンの構造を暴いていくような気分になる。
……何もイヴだけの特別授業という訳ではなく
『学園都市製ではここを強引にずらす事で、ニュートン力学では説明できない現象を引き起こします。いわゆる超常現象。薬品、電気、暗示、ありとあらゆる手段を使って人が世界を見るための認識を
「ん、あれ?
なんか今、映像がカクカクになったような。
嫌な予感がして
『この、認識を
「待って待って待って。何が起きて、うわあーっ!?」
テレビ画面が完全に固まって数秒経ったと思ったら、まさかの黒一色に白の英文字だらけと化した。訳の分からん英文がずらずらと出てきて、ついでにカウントダウンが続いている。何かしらの選択肢を選ばなくてはならないらしい、猶予は一〇秒。
というか、逆に新鮮だった。
あったんだ。パソコンならともかく、ケータイOSにクラッシュ画面……。結構簡単に割れる液晶画面を筆頭にハード面の
ついでに携帯電話のクラッシュ画面は例の青一色ではなかった。さっきも言ったが黒である。こんな非常事態までスタイリッシュ(笑)とか完全にふざけている、見えない所のオシャレか。こっちについては汗を拭いてあげようとしたらなんか意外な下着を見てしまったようだ。気まずい。お、お姉さん……ッ!! あなたほんわかキャラだと思っていたのに!!
「……、」
そして
なんかの罰みたいだった。
最新鋭のケータイOSは優柔不断男がお嫌いなのかもしれない。普段はほんわかだけどどこか妖しい香りを隠しきれないお姉さんにまで
「ええーっと……」
途方に暮れた。
でもって
「インデックス、ちょっと外に出ようか?」
2
インデックス、という少女がいる。
正確にはIndex-Librorum-Prohibitorum……禁書目録。
一見すると長い銀髪と白い修道服が特徴の、やや幼児体型の香りが漂う小柄な少女ではあるのだが、実際には一〇万三〇〇一冊以上の魔道書を完全記憶した『魔道書図書館』としての役割も持っているけったいな人物であった。所属はイギリス清教第零聖堂区『
魔術。
科学を極めた学園都市が世に送り出す超能力とは対となる、もう一つの異能。
「くりすますーだっ、くりすますうー♪」
やたらとクリアな冬の青空の下、足元には昨日の雪がまだちょっと残っているほどの寒さだというのに、当の本人は白いフードの上に三毛猫をのっけて何やら笑顔で口ずさんでいた。イギリスからやってきたくせに思いっきり日本語の歌だった。どこで仕入れたかは知らない。完全記憶能力を持つ彼女の場合、テレビに映る街の電器店の店内放送であろうが、一瞬でも耳目が捉えればその全てを正確に覚えてしまうのだから。
あらゆる魔術を極めた先に、『魔神』という存在がある。
彼女の頭の中にある魔道書を全て駆使すれば、人間がそんなモノに化ける恐れすらあるらしいのだが……。
「ふんふふーん。すいへーりーべー」
「待てインデックス、クリスマスはどこ行った?」
(ちくしょうケータイはヘンテコなボタン同時長押しで何とか再起動したけど先生にゃ
「いいかインデックス、まずは