第一章 まるで遊園地のような Red_Wear,Big_Bag,and_Flying_Sledge. ③

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 勝算はある。

 こういう時までやたらスタイリッシュ(笑)なクラッシュ画面で埋め尽くされるレベルのエラー自体は実際に起きているのだ。つまり、どこに格納されているんだか正確な話は知らないが一応携帯電話の中にはエラー報告くらい記録されているだろう。かみじようとうは全身全霊でもって補習授業を受けるつもりだったが、インフラを用意した方に不備があった。見えないオシャレ、お姉さんの黒下着がその動かぬ証拠である。だから敵も味方もない、ノーサイド! 大丈夫!! 留年なんかしないさっ!! これ以上二四日につべこべ言うなら少年の心の奥底からおばちゃんのスピリットを呼び起こして舌戦の弾幕を張るだけであった。あらゆる国や地域を日本語だけで渡り歩いてきたかみじようとうは一度吹っ切れればとことん強い。

 だから自信を持ってツンツン頭はこう切り出した。

 何でだろう? 心の中は超幸せなくせに、さっきからアスファルトの地面が綿菓子みたいにふわふわしてちっとも落ち着かないんだ。


「どこ行きますか?」

「キラキラな所!!」


 あのインデックスが食べ物の名前を連呼しなかっただけでも奇跡である。やはりクリスマスイヴとは魔性なのだ。予測不能な何か、言い換えれば小さな奇跡がバカスカ発生している。確か偉い人のお誕生日だった気がするが魔性でいのかクリスマス。

 とはいえ、だ。

 学区そのものが巨大遊園地と化した第六学区など、観光地も観光地のバリバリな所(?)へ予約もなしに足を運んでも地獄を見るだけだろう。こんな日にわざわざレンガと土の間に潜り込む必要はないが、一応チケットとか行列とかがいらない場所というのを線引きにした方が安全かもしれない。


「となると特別な場所に行くんじゃなくて、いつもの第七学区を見て回るのが一番分かりやすくクリスマスを満喫できるかなー」

「何で?」

「ビフォアとアフターでどこがどれだけキラキラしてるか分かりやすいだろ」


 何しろ見栄みえとプライドの高校生である。もっともらしい理屈を述べている時は、大体それとは別に本音が隠れている事に注意しなくてはならない。……だって最大の繁華街第一五学区とかはオシャレさんばかりでおっかないから近づきたくもなかったのだ。クリスマス、ハロウィン、バレンタイン。これらのタイミングでそんな所に行ってみなさい? ただでさえ高難易度エリアに変な期間限定がのっかってるものだから、バランスなんか完全に崩壊している。もう見えているじゃないか、ネトゲで知らずにイベントボス戦を踏んづけた人みたいにコテンパンにやられるところがッ!! そして恥じる事はない、とかみじようとうは念じている。むしろ正しいのはこっちだ。クリスマスイヴに堂々とあんな所を歩いている人達はね、ブランドバッグとか毛皮のコートとかリアル生活で廃課金して全身の装備固めているんだからそもそも最初から太刀打ちなんかできないの! 真面目に人生を張り合うだけ無駄!! 革製品とか毛皮とか、みんな安っぽいビニールになーれっ!!


「とうま、何で笑顔に暗い影が差しているの?」

「何でもない。おかしな所なんか何もないんだよインデックス」


 という訳で、こんな事になるくらいなら、腐った倒木をんで掘り進めたおうちから出なければ良かった……なんて結論をせっかくのイヴに出したくないかみじようとしては、己の身の丈を優先する。地元でいのだ、クリスマスなんて。知り合いと一緒に外を自由に歩き回っているだけで十分楽しいし。

 ビフォアとアフターの違いで街の飾りつけを見て楽しむ。

 という話でまとまったので行き先は自然と決まった。何の変哲もない一軒家がこの日だけ突然ビカビカに光を放っているのもトラック野郎みたいで笑えるが(←どっちに対しても失礼)、やはり人の多い場所の方が派手だろう。ひとまず駅前の方に足を向けてみる。

 あちこちにある三枚羽根の風力発電プロペラについては、流石さすがに電飾ケーブルなどは取り付けていなかった。結構な寒さだが元気なもので、凍結している様子もない。水滴のせいで表面がキラキラ輝いていた。もしかして融雪用に電熱線でも仕込んでいるのだろうか。一体誰がやったのか、クリスマスリースの代わりに自転車のチェーンロックが柱に巻きつけてある。

 トラックベースだが物を運ぶというよりは広告用に使われる事が多い、でっかい液晶画面を荷台にのっけた宣伝カーがかみじようたちの横を通り抜けていった。

 ニュースは語る。


『クリスマスには生クリームでデコった自慢のカスタムドーナツを食べよう! こちらニューヨークではケーキの代わりに一風変わったお菓子が流行はやっているようです。これは核家族化が進む中でホールケーキ丸々一つでは一人あたりのカロリー摂取量が理想の値を大きく超えるとして、ビバリーヒルズの富豪達を診る主治医達が広めた運動が形となったもので、合衆国のロベルト=カッツェ大統領も自身のSNSで……』

「死ねばーか!! 知らねえんだよテメェらのキラキラしたプライベートなんか海の向こうまで押し付けんな! そんなにカロリーが気になるならろうざいの食品サンプルでもかじっているがよい!! 本当に本物のノンカロリーなんてのはな、それだけ食べてたらえて死ぬって事なんだよお!!」

「とうまが怖いよう。……レギオンと名乗りし負の塊よ、あの獣に乗り移って崖に向かうがよい!」


 インデックスが両手を組んでなんかけっぽい事をぶつぶつ言い始めたが、生憎あいにくかみじようとうは何か良からぬモノにひようされた訳ではない。そんなヒカガクテキな。素でコレの方が下手なオカルトよりよっぽどヤバいという意見はひとまず無視させていただく。

 しかし実際に駅前まで出かけてみるとあちこちに変な行列ができていた。

 増えてる。

 冬休み前から流行のきざしはあったが、こんなじゃなかったはずだ。

 なんか知らない内に似たようなドーナツ屋さんがアメーバ系のモンスターみたいに増殖していた。どうやらプリン的な甘いドロドロでドーナツ全体を浸してババロアのように柔らかくしてから、その上にしこたま生クリームを始め、カラフルなチョコの粒やシロップなどをお客さんの好みに合わせて盛りつけていく仕様らしい。何の好みだって? 味なんか何をどう組み合わせて選んだって甘いに決まっている、SNS映えの好みだとさ!!

 ちなみに海を渡った時点で伝言ゲームのように何かがゆがんだのか、本家にはない特徴が勝手に追加されていた。やっぱりこの国のうぇいうぇいは全体的にいい加減だ。


(大丈夫なのかな、あれ。生年月日や血液型からラッキーカラーを決めるって話だけど、そんな写真ネットに公開したら自分の個人情報が全部分析されちゃうんじゃあ……?)


 というか何で運と色に関係があると思っているんだろう?

 それで確率や統計のデータにブレが生じるなら、量子論を使った学園都市製の超能力開発なんかいらなくなるような気もするが。

 そもそも手で持って食べられないような品をドーナツと呼ぶ事は許されるのか。

 紙の小皿に置いたドーナツの上に生クリームを盛りまくり。てのひらサイズのウェディングケーキみたいになったそれがのっかった紙皿を恋人達は楽しそうに囲み、スマホを駆使してスカイブルーとピンクが混ざり合って大変毒々しくなったドーナツの写真を撮りまくっている。ものによってはパチパチ光る花火なんか突き刺しちゃうらしい。

 写真が目当てなので、どっちが食べるかについてはなんか二人でイチャイチャしながら互いに押し付け合っていた。どうやら苦労して並んで買ったお菓子が罰ゲーム扱いのようだ。もはや寝言のレベルがマリー=アントワネットを超えている、食べ物を粗末にしてはなりませんという思想はどこかのタイミングで消滅していた。何でこの人達は爆発しないんだろうとかみじようとうは思った。少々言動が過激でびっくりされたかもしれないが、今この時、少年の心におばちゃんの魂が浮かび上がっていたのだ。ここは優しい寮の管理人のお姉さんではなく、がさつでおっかないが苦学生のために世の中がどうなろうがお値段据え置きをこっそり死守する定食屋の主である。


「あ……」


 しかもかみじようは気づいた。景色の違和感に。

 とにかくケーキを売りたいコンビニや洋菓子店はもちろんの事、カラオケボックスやら回転寿司(!?)やらまで、今日この時に限ってやたらと店先の路上で増殖していてありがたみのなくなった真っ赤なサンタ少女達はいったん脇に置いてだ。


「とうま?」

「あああっ!? 待てよ、うそだろ、おいってえ!?」


 鉄道ガード下でひっそりと営業していたラーメン屋がなくなっている。

刊行シリーズ

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