第一章 まるで遊園地のような Red_Wear,Big_Bag,and_Flying_Sledge. ⑥

     5


 大丈夫だよ。

 深く考える必要はないんだ。

 赤い帽子をかぶって洋モノのパーティゲームをやってりゃ日本のクリスマスは完成だよ。


「雑」

「うるせえ何とでも言いやがれ」


 さかことから短く評価され、かみじようもまた即答で返していた。それでも一応『ダメ』とはならずに内心ホッとしているのは中学生の前では絶対内緒である。

 そういう飾りなのか建築上の都合なのか、外から見るといくつかのコンテナをつないだような建物だった。しかし中に入ってみると木目調の床や壁、天井でくるくる回るシーリングファンなどちょっとクラシックな香りが漂ってくる。

 インデックスは昼前だというのに薄暗い店内をあちこち見回して、


「これなにー? ダーツ?」

「コーコーセーが頑張って背伸びした結果です。笑わないでね」


 これについては小声の早口で言っておいた。カラオケではあまりにもベタ過ぎて逃げた結果であった。ダーツについてはボウリングやバッティングセンターなんかが一体化したアミューズメント施設なんかでたまに見かけるが、そっちはそっちで明るすぎる。こう、なんていうか、背伸び感が欲しかったんですッ!!

 そんな訳で。

 純粋なダーツ屋さんなんてないだろうから、おそらく本来はバーなのだろう。割と高校生が入ってみると場違い感がすごくて心臓に悪い内装だ。ただ時間帯が時間帯なので、今はちょっと早めのランチメニューしか並べていない。やたらとサイドメニューのおつまみ系が充実しているのはその名残だろう。まだ爪を隠している。

 ちなみにかみじようとう、自分で背伸びしていると言うだけあってダーツに全くみはなかった。だって高校生はバーなんて行かないもの! なので何となく小さな矢を手で投げて丸いピザみたいな的に当てるゲーム、というざっくりしたイメージしかない。場所を貸す店員さんは当然知っているものとして扱ってくるので特に説明はなく、一人でやってきていたら疎外感のカタマリになっていたかもしれない。

 結局お嬢のことに教えてもらう羽目になった。


「まず一番メジャーなゼロワンは点を増やすゲームじゃなくて、点を減らすゲームなのよ」

「……何だって……?」

きようがくがおをするにはまだ早いっ。全部で三〇一点、一ラウンドにダーツを三本投げて、このノルマをいかに早く消していくかで競っていくの」


 説明されてもピンとこない辺り、いよいよだ。確か代わりばんこでダーツを投げるはずだが、あれは一回ずつなのか。ひとまず三回連続で投げるのか。


「そもそも誰かと競うゲームだったんだな……」

「ねえそこから? ダーツは一つのボードしかないから分かりにくいかもしれないけど、基本的に対戦ゲームよ。プロのコントロールチェックでもない限り一人でテニスコートに出かけても意味ないでしょ、それと一緒」


 もしも一人でやってきていたら疎外感のカタマリ、なんて次元ですらなかった。かみじようとう、何にも知らねえのに危うく店員さんから無駄に玄人くろうとあつかいされるところであった。多分最初の一投で幻想が砕け散り、生暖かい視線に耐えられずうずくまっていた事だろう。


「ようはど真ん中に当てれば一番なんだろ」

「だから全然違うってば。一〇ラウンド制で一回に投げられるのは三本まで、これで先に三〇一点をゼロぴったりに合わせて『上がる』ゲームなの。だからバカスカ点を削ったって、やり過ぎてマイナスになったら『上がり』に失敗する。バーストって言って、そのラウンド始めの点数まで巻き戻して次のラウンドへ送られる羽目になるのね。つまり一ラウンド丸々無駄に使ったって扱い。だから残りの点数次第で、ボードのどこが重要になるかはその都度変わってくるわ。そのラウンド三本目で残り一点の人にとっては、最少の一が絶対りたい最優先になるでしょ?」

「でもあれっ、ほら真ん中のー」

「はいはい! バカ大注目のド真ん中はブルズアイで五〇点、だけど外側の真ん中辺りに一回り大きな円があるでしょ」

「あのピザ切り分けたようなヤツの?」

「そうそれ。その真ん中にあるライン上なら普通の得点に三倍加算されるのよ。だから一七点から二〇点の一般点でも三倍加算を利用すれば、中心のブルズアイを抜けるって訳。序盤で大量に削りたい時であれば役に立つわ」


 言いながら、ことは適当なダーツをつかんだ。長さは一五、六センチほど。金属製だけどあんまり重たい感じはしない。ちょっとゴツいボールペンにプラスチックの尾翼をつけた、というイメージか。


「私はコイン派っていうか、こういうのはくろのオモチャなんだけど……」

「?」


 スコアを起動する前のまっさらなボードに向け、ことは気軽に針の先を向けた。

 雑なようだが、それでサマになる辺りがやり慣れてそうだ。


「投げる時は肩からじゃなくて、肘の曲げで投げ放つ。これについては、紙飛行機を飛ばす感じが近いかな」


 すとんっ、という音が聞こえた。

 針が刺さる響きにおびえたのか、インデックスの頭の上にいた三毛猫がピンと尻尾を立てている。

 距離は三メートルもないはずだが、ぐというよりは傾斜のなだらかな放物線といった方が近い弾道だった。時代劇に出てくる忍者のクナイとは全然違う。ゲームだからそれで正解なんだろうが、果たして飛び道具としては成立しているんだろうか?

 ことのダーツが当たったのはど真ん中。


「ほんとはニアミスで二五点なんだけどね。日本で広まってる方式だと外枠も入れてブルズアイ扱いになってる」


 なら説明する必要なくない? とかみじようは思ったが口に出すと余計に脱線していきそうだ。まずは今ここにある基本を押さえておかないとのちのち大変な事になるのは目に見えていた。


「それから、大抵ダーツは電子で勝手にスコアを管理してくれるわ。ここのもそう。便利なようだけど、みんなで同じボードを使う事は忘れないで」

「?」

「ボウリングみたいに、次のセットまで勝手に機械がやってくれる訳じゃないって事。まず刺さった自分のダーツを抜いて、それからターン交代のスイッチを操作してちょうだい。刺さったままスイッチを動かしてから抜くと次の人に同じスコアがそのまま記録されちゃうから、ゲーム全体がぐちゃぐちゃになっちゃうのよ」


 分かった? とことが適当な感じで尋ねてきた。

 かみじようことではなく、同じ説明を聞いていたインデックスをチラ見した。不安であった。一人だけ分からなかったら置いてきぼりだ、どうしよう……。

 と思っていると、頭の上に三毛猫を乗っけたインデックスがおもむろに並べてあるダーツをつかんだ。そのまま三本ほど立て続けに放つ。

 五点、一〇点、一五点。

 たまたまの偶然じゃねえ。きっちり五の倍数で当ててきてる。

 ダーツは単純に的の中心へ当てるゲームではない。なんか今日に限って妙にオトナな中学生(?)さかことの話によると、最後は〇点でそろえないとバースト扱いになるというルールがあったはずだ。だとするとアクセルよりもきっちりブレーキをかける方が大事ではないか!?


「んー……」

「ちょっと待ってインデックスさん? 何そのスーパープレイ!?」

「彼我の距離とボードの直径から考えて、けど、まだ誤差があるかも。目で見て覚えるにはサンプルが少ないかな、もうちょっとお客さんでいっぱいだと色々参考になったんだけど」


 口の中でぶつぶつ言ってる人はこっちを見ていなかった。

 すでに勝負は始まっている。


「ヤバいー。完全記憶能力使って他人のモーションを取り込み始めている、だと!? そっそうか、空手とかボクシングとかと違ってガタイの必要ない肘だけのダーツなら頭で理解すればスポーツでも追い着けるのか……。早くゲームを始めようさか! このまま放っておくとインデックスが超速進化して手に負えなくなる!!」

「何も注文しないでそのままゲーム始めるつもり? どこまでストイックなのよアンタ達、プロ選手じゃあるまいに。店員さん、何か適当な食べ物を……ああここも例のドーナツやってるの? じゃあラッキーカラーのカスタムを


「やめろおそんなオシャレなものっ!!」

「?」


 かみじようとうの絶叫に首をかしげること。アレルギーまわりかな? と誤解されたのかもしれない。アレルギーはアレルギーだがカラダでなくココロのという真相は誰にも明かされなかった。今デキる中学生から真顔の『ばっかみたい』をお見舞いされたら石化した上粉々にされてしまう。


「それなら適当なおつまみのパーティシェアをお一つ。それからセットでついてるドリンクバーってそっちのカウンターで注文すれば良いの?」


 自分の事は自分で面倒を見るから安上がりなドリンクバーなのに店員さんに注いでもらうとはどういう理屈なのだ? などと考えている場合ではない。

 それがアリならAI社会を支配する恐怖のスーパーコンピュータのように学習を進めているインデックスに打ち勝つきっかけになるかもしれない。

 結論はこうだ。


「食べ物飲み物で釣って、横から集中を乱し、そして殺す!!」

「イヴでも容赦なさすぎのごんかアンタは」

刊行シリーズ

とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある暗部の少女共棲(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある暗部の少女共棲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある科学の超電磁砲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(1)の書影
創約 とある魔術の禁書目録の書影
新約 とある魔術の禁書目録(22) リバースの書影
新約 とある魔術の禁書目録(22)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(21)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(20)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(19)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(18)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(17)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録×電脳戦機バーチャロン とある魔術の電脳戦機の書影
新約 とある魔術の禁書目録(15)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術のヘヴィーな座敷童が簡単な殺人妃の婚活事情の書影
新約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録SPの書影
新約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
新約 とある魔術の禁書目録の書影
DVD付き限定版 アニメ『とある魔術の禁書目録』ノ全テ featuring アニメ『とある科学の超電磁砲』の書影
とある魔術の禁書目録(22)の書影
とある魔術の禁書目録(21)の書影
とある魔術の禁書目録(20)の書影
とある魔術の禁書目録(19)の書影
とある魔術の禁書目録(18)の書影
とある魔術の禁書目録(17)の書影
とある魔術の禁書目録SS(2)の書影
とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録(15)の書影
とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある魔術の禁書目録ノ全テの書影
とある魔術の禁書目録SSの書影
とある魔術の禁書目録(13)の書影
とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある魔術の禁書目録(10)の書影
とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある魔術の禁書目録(6)の書影
とある魔術の禁書目録(5)の書影
とある魔術の禁書目録(4)の書影
とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録の書影