第一章 まるで遊園地のような Red_Wear,Big_Bag,and_Flying_Sledge. ⑥
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大丈夫だよ。
深く考える必要はないんだ。
赤い帽子を
「雑」
「うるせえ何とでも言いやがれ」
そういう飾りなのか建築上の都合なのか、外から見るといくつかのコンテナを
インデックスは昼前だというのに薄暗い店内をあちこち見回して、
「これなにー? ダーツ?」
「コーコーセーが頑張って背伸びした結果です。笑わないでね」
これについては小声の早口で言っておいた。カラオケではあまりにもベタ過ぎて逃げた結果であった。ダーツについてはボウリングやバッティングセンターなんかが一体化したアミューズメント施設なんかでたまに見かけるが、そっちはそっちで明るすぎる。こう、なんていうか、背伸び感が欲しかったんですッ!!
そんな訳で。
純粋なダーツ屋さんなんてないだろうから、おそらく本来はバーなのだろう。割と高校生が入ってみると場違い感がすごくて心臓に悪い内装だ。ただ時間帯が時間帯なので、今はちょっと早めのランチメニューしか並べていない。やたらとサイドメニューのおつまみ系が充実しているのはその名残だろう。まだ爪を隠している。
ちなみに
結局お嬢の
「まず一番メジャーなゼロワンは点を増やすゲームじゃなくて、点を減らすゲームなのよ」
「……何だって……?」
「
説明されてもピンとこない辺り、いよいよだ。確か代わりばんこでダーツを投げるはずだが、あれは一回ずつなのか。ひとまず三回連続で投げるのか。
「そもそも誰かと競うゲームだったんだな……」
「ねえそこから? ダーツは一つのボードしかないから分かりにくいかもしれないけど、基本的に対戦ゲームよ。プロのコントロールチェックでもない限り一人でテニスコートに出かけても意味ないでしょ、それと一緒」
もしも一人でやってきていたら疎外感のカタマリ、なんて次元ですらなかった。
「ようはど真ん中に当てれば一番なんだろ」
「だから全然違うってば。一〇ラウンド制で一回に投げられるのは三本まで、これで先に三〇一点をゼロぴったりに合わせて『上がる』ゲームなの。だからバカスカ点を削ったって、やり過ぎてマイナスになったら『上がり』に失敗する。バーストって言って、そのラウンド始めの点数まで巻き戻して次のラウンドへ送られる羽目になるのね。つまり一ラウンド丸々無駄に使ったって扱い。だから残りの点数次第で、ボードのどこが重要になるかはその都度変わってくるわ。そのラウンド三本目で残り一点の人にとっては、最少の一が絶対
「でもあれっ、ほら真ん中のー」
「はいはい! バカ大注目のド真ん中はブルズアイで五〇点、だけど外側の真ん中辺りに一回り大きな円があるでしょ」
「あのピザ切り分けたようなヤツの?」
「そうそれ。その真ん中にあるライン上なら普通の得点に三倍加算されるのよ。だから一七点から二〇点の一般点でも三倍加算を利用すれば、中心のブルズアイを抜けるって訳。序盤で大量に削りたい時であれば役に立つわ」
言いながら、
「私はコイン派っていうか、こういうのは
「?」
スコアを起動する前のまっさらなボードに向け、
雑なようだが、それでサマになる辺りがやり慣れてそうだ。
「投げる時は肩からじゃなくて、肘の曲げで投げ放つ。これについては、紙飛行機を飛ばす感じが近いかな」
すとんっ、という音が聞こえた。
針が刺さる響きに
距離は三メートルもないはずだが、
「ほんとはニアミスで二五点なんだけどね。日本で広まってる方式だと外枠も入れてブルズアイ扱いになってる」
なら説明する必要なくない? と
「それから、大抵ダーツは電子で勝手にスコアを管理してくれるわ。ここのもそう。便利なようだけど、みんなで同じボードを使う事は忘れないで」
「?」
「ボウリングみたいに、次のセットまで勝手に機械がやってくれる訳じゃないって事。まず刺さった自分のダーツを抜いて、それからターン交代のスイッチを操作してちょうだい。刺さったままスイッチを動かしてから抜くと次の人に同じスコアがそのまま記録されちゃうから、ゲーム全体がぐちゃぐちゃになっちゃうのよ」
分かった? と
と思っていると、頭の上に三毛猫を乗っけたインデックスがおもむろに並べてあるダーツを
五点、一〇点、一五点。
たまたまの偶然じゃねえ。きっちり五の倍数で当ててきてる。
ダーツは単純に的の中心へ当てるゲームではない。なんか今日に限って妙にオトナな中学生(?)
「んー……」
「ちょっと待ってインデックスさん? 何そのスーパープレイ!?」
「彼我の距離とボードの直径から考えて、けど、まだ誤差があるかも。目で見て覚えるにはサンプルが少ないかな、もうちょっとお客さんでいっぱいだと色々参考になったんだけど」
口の中でぶつぶつ言ってる人はこっちを見ていなかった。
すでに勝負は始まっている。
「ヤバいー。完全記憶能力使って他人のモーションを取り込み始めている、だと!? そっそうか、空手とかボクシングとかと違ってガタイの必要ない肘だけのダーツなら頭で理解すればスポーツでも追い着けるのか……。早くゲームを始めよう
「何も注文しないでそのままゲーム始めるつもり? どこまでストイックなのよアンタ達、プロ選手じゃあるまいに。店員さん、何か適当な食べ物を……ああここも例のドーナツやってるの? じゃあラッキーカラーのカスタムを
「やめろおそんなオシャレなものっ!!」
「?」
「それなら適当なおつまみのパーティシェアをお一つ。それからセットでついてるドリンクバーってそっちのカウンターで注文すれば良いの?」
自分の事は自分で面倒を見るから安上がりなドリンクバーなのに店員さんに注いでもらうとはどういう理屈なのだ? などと考えている場合ではない。
それがアリならAI社会を支配する恐怖のスーパーコンピュータのように学習を進めているインデックスに打ち勝つきっかけになるかもしれない。
結論はこうだ。
「食べ物飲み物で釣って、横から集中を乱し、そして殺す!!」
「イヴでも容赦なさすぎの