第二章 変わる学園都市、前夜 the_24th,Showdown. ⑦

「三〇〇メートル西にある、ぶたくさ不動産オフィスビル。ここなら直線的にダーツバーを見下ろせるし、例のプロペラを鏡のように使えば邪魔なシネコンをかいしてこっちまでのぞむ事ができる。待ち伏せに使えるスポットはここしかない!」


 方針は決まった。

 かみじよう打ち止めラストオーダーの小さな背中を片手で押して、解決までの勢いをつけようとする。

 しかし、そこでだった。

 不意にわずかな引っ掛かりが、ささくれのように心を刺激した。


(……いや、ちょっと待った)


 今、視界の中におかしなものが混じっていなかったか? 喫茶店の割れたガラス、緊張感のない店員、避難していた恋人達。それらは違う。たとえとばっちりで高層階からガラスの雨が降ってきたとしても、窓が砕ける前に早い段階から屋内避難していれば難を逃れる事はできただろう。一方で、上条達が無事だったのは最初から地下にいたからだ。

 だけど一人。

 


「ま、素人しろうとさんの名推理じゃこの辺りが限界でしょうかね」


 どすっ、と。

 感触というより、まず鈍い音があった。


「がっ……?」


 右の脇腹に、容赦なく一発。突き刺さっているのは、何だ? きりやアイスピックとも違う。ボールペンよりも細いが、それはれっきとしたナイフだった。ひょっとしたら、本来は装甲ジャケットの隙間から急所へ滑り込ませるように刺すものなのかもしれないが。

 それよりも、まず持ち主。

 至近、吐息の熱まではっきりと伝わる距離まで踏み込んできた相手は、大昔の忍者や電子迷彩で風景に溶けた暗殺部隊ではない。最初から視界に入っているはずだった。入っていたのに、見過ごした。

 アルバイトの少女。

 ケーキ屋さんの手持ち看板を手にしたミニスカートのサンタクロース。


「テ、メェ……ッ!?」

「恨みっこはナシでお願いしますよ。別にあなた方が憎いって訳じゃあない、こっちもなんでね。しくじると『上』がうるさいんです」


 長い金髪をざらりと揺らし、この状況で感情もなく誰かがささやいた。

 ハロウィンにせよクリスマスにせよ、過剰なコスチュームはかえって本人の目鼻立ちを覆い隠してしまう。。真正面から襲われたにもかかわらず、後になって振り返ってみたら赤い服やミニスカートしか思い出せない……なんて事態を誘発させるために、だ。


(遠くから、こっちまで見渡していたんじゃない……)


 一二月の青空に、ギラリと太陽光を照り返す何かがあった。

 飛行船。

 おなかの部分に大画面を張りつけた、学園都市の名物でもある。そして、分厚い保護ガラスで覆われた画面は光を反射する。しかし地図アプリを見ているだけでは、あんながある事には気づけない。

 もう一つ。

 光の反射や屈折で視界を確保し、エリア全体を見渡せるポイントがあったのだ。


(……最初からここにいて、俺達が自分の所までやってくるのをじっと待ち構えていたッ!?)

打ち止めラストオーダーッ!!」


 最後の力を振り絞って、かみじようはとっさに小さな少女を遠くへ突き飛ばした。

 しかし、


「無意味」


 道路に亀裂が走った。一本の直線ではなく、蛇がのたくるように。それはサンタクロースの暗殺者と打ち止めラストオーダー、そしてかみじようとを明確に切り分けてしまう。

 ゴッ!! と。

 大地が持ち上がる。天空に向けて小さな少女がさらわれるようだった。

 そしてかみじようとしても見送る余裕すらなかった。一緒になってらされた土砂が散弾のようにぶつかり、少年一人分の重量がきりじように回転する。

 脇腹には、まだナイフが刺さったままだった。

 今のまま地面に激しくたたきつけられれば、今度こそ無事では済むまい。衝撃でナイフがまわされ、体の中をズタズタにされてしまう。

 そうなれば、ここで終わり。

 追跡の流れが途切れてしまう。一体誰が打ち止めラストオーダーをさらっていったのか、それさえ分からなくなってしまう。


「ち、くしょ……ッ!?」


 どうにもならなかった。

 両足が地面から離れた段階で、すでにかみじようとうはコントロールの権利を放棄していたのだから。

 ごりごりという体内の異物感が、まだ地面に激突する前からかみじようの魂をえぐりにかかる。

 ぶつかり、衝撃が走れば、そこで全てが破断する。

 今さら手足をどう動かしても、間に合わない。

 三秒後には真っ赤に埋まった死が待ち構えると、分かっていても。


 ぶわり!! と一切の感覚が消えた。

 最後の瞬間、むしろかみじようとうは羽毛のように柔らかな感触を誤認した。

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