第三章 黒い陰謀と障壁の消失 Enemy _Use_XXX. ④
今さら全力で走り出したところで落雷は避けられない。はずだ。しかし
はるか頭上で行われる、舌打ちの音まで聞こえてくるようだった。
今度はこちらの番だ。
「見つけました」
防災上の都合でもあるのだろうか。屋内階段やエレベーターではなく外に面した清掃用ゴンドラを使って屋上へ運んでいた大きな木箱を『
そして気づいたのだろう。
箱の中身は職人の仕事道具であると。
日本のクリスマスは聖夜などという厳かな雰囲気からは程遠い。
真夜中のカウントダウンイベントに使う、本格的な打ち上げ花火が刺激に触れる。
「ひゅう!!」
口笛一発と共に、恐るべき爆発があった。
耳をつんざく爆音。そして真昼の空が白っぽい濁った煙幕に包まれる。あの程度では死なないかもしれないが、花火は炎色反応……つまり特定の物質に火を浴びせる事で炎に色を付ける技術を応用している。そして花火に使う炎色反応は、銅、リチウム、
つまりは、
(……激しい衝撃と
爆発の衝撃でまたもや屋上の看板が砕けるが、少女は頭上に人差し指を当てただけだった。それだけで重さ二〇キロ以上ある金属製の看板がビタリと空中で止まり、指を軽く横に振ると近くのコンクリ壁へ鋭く突き刺さる。スマホの画面でも操るような気軽さだ。
街全体に広がる地下構造体を直接
念動力。
PKとESPの二大分類を引き合いに出すまでもなく、あまりにポピュラーな能力。外部向けのサイトやパンフレットを作るとすれば、スプーンを曲げるPKと伏せたカードを言い当てるESPがまず挙げられるだろう。そもそも
中でも純粋にゼロから力を生み出す出力だけで言えば、おそらく最強。
それでも
彼女の能力は。
あまりにも殺しと破壊に特化され過ぎているのだ。
NBC兵器同様に、保有を宣言する事がそのまま国際上のリスクに
「さ・て」
金髪サンタ少女は視線を振った。
鏡のように磨かれたガラスの一部が砕けている。銀髪のシスターを抱えた標的の女は壁面へデリケートに張り付く事を諦め、適当なビルの一室へ飛び込んだようだった。応急処置としては悪くないが、こちらのスペックを甘く見ている。
たかだか五〇階建ての高層ビル如き、丸ごとへし折れないなどと誰が言った?
「推定死亡者二〇〇〇人弱。本日限りの容量無制限って素晴らしい、ですっ☆」
にたりと笑って、
ズンッ!! と。
高層ビルの高さが半分ほど縮んだ。
まるで空き缶を靴のカカトで踏みつけたような破壊だった。
だがまだ本命ではない。今のはドアや窓を
(標的が力任せに風穴空けて表に飛び出してくる様子もない。まあ、もはや図面はあてにならないし。コンクリの壁くらいぶち抜けるはずだけど、生き埋めの人達を消し炭にしちゃう可能性を恐れたかな? それでビル一棟分の全員が押し潰されるんだから人生とは不思議よね)
もう一本、左手の人差し指を向けるだけで
しかし直後だった。
そのままの態勢で彼女は左手を振った。よそへ。おどけたような拳銃のジェスチャーだが、
清掃用のロボットからお尻を浮かせ、ブーツを履いた自分の足で地面を踏む。
遊びの時間は終わった。
イレギュラーが、手品師のリカバリーシナリオで丸め込める領域を超えつつある。
「……何しに来たんです?」
脅威は、少年の形をしていた。
血まみれの
誰もが笑い合うクリスマスイヴには、絶対似合わないその単語を。
すなわち、
「リベンジ」
5
冷静な訳はなかった。
ナイフで刺された、という事実だってどうやったって消えてなくならない。
相手は。
涼しい顔して、平気でこれをやる人種だ。
脇腹の傷については雑に消毒して糸で縫っただけ。流れ出た血を補充した訳ではないし、じくじくとした痛みも常に意識を
それでも
自分が倒れていた間、状況を
そして。
ありえない理不尽から
ハッタリでも何でも
なけなしの意地と勇気をかき集めろ。
今は、弱い所を見せても何一つ
だから。
そうならないためにも、絶対に。
「狙う相手を間違えているのでは?」
こちらと向こう。
二ヶ所へ同時に人差し指を差し向けながら、サンタ少女は静かに笑っていた。
本当は、少年の呼吸なんか詰まっていた。
ナイフよりも恐ろしい、絶対の切っ先を
「敵を倒すか仲間を助けるか。どっちが優先かを考えれば、こんな所で遊んでいる暇はないと思いますけどね」