第三章 黒い陰謀と障壁の消失 Enemy _Use_XXX. ⑨
「記憶をなくした、もう二度と元には戻らない。それがどうした。……俺はここまで
なら、何だ?
これはどういう事だ。一体、二人はどこで分岐した?
痛みを知らない外野が奇麗ごとを言っているのではない。
実際にいる。
「きっとさ、理由になんかならないんだよ」
「……ま、れ」
「何かをなくしたり、奪われたり。確かにそれは
「黙れェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
ゴッッッ!!!!!! と。
空気というより、地盤が
警笛などなかった。
先頭部分に追加で装着された大量のレンズやセンサーを見る限り、おそらくは無人制御。クリスマスセールに特化した貨物列車だろう。しかし有人であったとしても構わない。
空気をねじ曲げ、引き裂くようにして、八両編成の鉄塊が容赦なく
しかし。
それでも。
「いろんな人を見てきたよ。記憶をなくした後も」
右へ一メートル。
わずかに足を動かす、それだけで。
その少年は、あらかじめ敷かれていた致死のレールの範囲外へと簡単に逃げ切る。
壮絶な破壊音も気にせず、彼は
「エリートの
なら。
それなら、自分はどうしたら。
気持ちを変えたところで、世界の方がすり寄ってくれる訳じゃない。
シビアな現実は揺るがない。
ここまできてしまった以上、もう『暗部』からは戻れない。血まみれの道なんか振り返るだけで吐きそうだ。『だから』恨みの気持ちが必要だったし、前だけ見ていれば『いつか』学校の友達と気兼ねなく笑い合えるなんて荒唐無稽な未来を追いかけられると信じられた。
実際には。
最初の一人を殺した時点で、もう絶対に無理だと分かっていたのに。
そこで諦めてしまったから、二人目も三人目も
「ああ」
めきり、と。
おかしな音があった。
それは
「だから、もしもお前が一人で勝手に思い悩んでいるのなら。もしも何の形もないものに縛られて自分からチャンスを棒に振ってきたのならさ」
だとしたら。
本当の音源は。
彼女は見る。ある一人の少年が、その右の手を静かに、しかし強く握り込んだ事を。
拳の形を作り出した事実を。
そして少女は耳にした。
その言葉を。
「……そんなくそったれの幻想は、ここで
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一歩だ。
脇腹を刺されて、
だけど。
それでも。
(……終わらせる)
これ以上罪を重ねたって彼女の望むものは返ってこない。この戦いが終わった後に待っているのは、どうしようもなく
小細工抜き。
互いの底は知れた。これ以上言葉の応酬で
十分過ぎるほどに。
だから。
二人の間には、最後の合図なんかいらなかった。
「もうここで! 絶対に終わらせるッ!!」
真正面から。
右と左。拳銃のジェスチャーを作った二つの指先が、
どうしようもない敵。
住んでいる世界の違う人間。
それでも。
ようやく。
初めて。
醜悪で暴力的な本音を全部さらけ出しても許される、気兼ねのない友でも見つけたような顔で。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
二人して、
地面が隆起し、千切れたガス管が露出した。
炎と衝撃波の中を、身を低くした少年が歯を食いしばって
灰色の
全てを覆い尽くそうとする。だけど実際にはそうならない。
それでも全力疾走し、灰色のカーテンの向こうに消えようとするサンタ少女へと飛び込んだからだ。
『暗部』なんて実体もないものに
そんな末路など絶対に許さない。
そういった
「不死身ッ、ですか!? あなたは!!」