第三章 黒い陰謀と障壁の消失 Enemy _Use_XXX. ⑩
叫んで、しかし違うと
ボヒュッ!! と。
右のストレートに左のフック。並の乗用車くらいなら高層ビルの屋上まで吹っ飛ばすほどの豪腕を、
特殊な能力じゃない。状況への対処を丸投げした幸運や神頼みでもない。
守る。
助ける。
その範囲には彼女がさらった
そう。
言うまでもなく、上条当麻は血まみれだった。
無傷なんてありえない。脇腹の傷だけではない。衝撃波に打ちのめされ、刃物のような破片を全身にいくつも浴びて。思い出したように体のあちこちから赤黒い血が
「……大丈夫」
一〇秒でも、五秒でも、一秒でも構わない。
もう少しだけ。
もしも、この体が動くなら。
「お前が一生お箸を使えなくたって、全部奪われて
ひたすらに鈍い音が。
右の拳が、突き刺さっていた。
頬に鈍い一撃を受けたまま、『暗部』の刺客は最後に何を思ったのだろう。
悲鳴の一つもなかった。
誰よりも普通に憧れていた少女は、そのまま真下へすとんと落ちた。
8
強大な能力者を拘束するというのは、『どこまで』やれば良いのかという点で非常に難しい問題ではあるのだが、今回に限って言えば両手の人差し指というトリガーが明確に分かっている。
(……
しゃがみ込んだまま、わずかに
できるはずの事ができなくなった少女。
もしもなくした記憶に固執を続けていれば、
(何をしてやれるんだろうな。俺みたいなただの高校生に)
「とうまっ!!」
「うわ何それ、アンタもうサンタ衣装でもないのにそこらじゅう真っ赤じゃない!?」
そうこうしている内に、他の少女達が集まってきた。
インデックスを抱えてビルの壁面から降りてきた
「そっちこそ。よくもまああれだけの状況で
「ああっもう、髪もコートも
さらに清掃用ロボットに黄色と黒の工事用ロープを掛けて引きずり回す
「そいつに
「ガラス式信管など非電気トラップの有無を確認するまで
いつの間にかクローン少女が働きたくないサラリーマンみたいなアクションを覚えている。
となると、だ。
「これ頼む」
「単純出力ならともかく繊細な作業という点においてミサカが戦力外通告されるのは心外です、とミサカはがさつな
「ならサイバー攻撃のベンチマーク対決でもやってみる? ミサカネットワークで全員分の脳を
「ではお
「乗った。……けどこれ本人のラッキーカラーじゃないと意味ないんじゃなかったっけ?」
言い合いながらも、結局は二人で頬を寄せて同じ画面とにらめっこしていた。実際には一つの機材の中でパスコードクラックを競っているのかもしれないが、
そして横からインデックスが口を挟んだ。
「それ、五八〇五一じゃない?」
「そんな当てずっぽうで何とかなるはずが……ええっ噓お!? 何で解析結果が五八〇五一になっちゃうのお!?」
「オカルト少女のオカルトな部分が本領発揮しております、とミサカは怪奇現象を前にぶるぶる震えます。占星術や姓名判断は数学や統計学が使われているとは聞きますが、具体的に今何が起きたのでしょう?」
ドーナツもーらいっ☆ という言葉と同時であった。自転車で運ばれてきたホイップクリームだらけの毒々しい一品がそのまんまインデックスの胃袋に収まった。……これであいつはあっち側だ。日陰に
スマートフォンは情報の宝庫だ。
彼女の単独犯ならここで事件はおしまいだが、何かしらの利害で他人と結びついているなら、
が。
開いた画面に目をやる事もなく、
「ほら」
「?」
「何があったか知らないけど、中を
だろうか。
だったら
他人のスマホの中身を
何の変哲もないデジタルな文字列の並びに、思春期の生々しい人間味が
アルバムの中にはかなりの写真が並んでいた。しかし不思議と、金髪少女は一人もいない。最初は友達の写真だけ撮っているのかと思ったが、やがて今さらのように気づいた。ウィッグとカラーコンタクトで人相を隠していたのだ。
アルバムの中で、一番多く映っている少女と同じだ。