第三章 黒い陰謀と障壁の消失 Enemy _Use_XXX. ⑯
被害者と加害者の関係をひっくり返す。そういう風に印象を操って大衆を味方につけて捜査を
となると今、
じくりと、今さらになって刃物で刺された脇腹の傷が自己主張を始めてきた。
今は専門的な知識はいらない。ただ実体験から得た考えに従えば良い。
そう、
「医療機関だ」
怖いに決まっている。
プロの専門家を頼りたいに決まっている。
だとしたら、
「自分の体に傷をつけるにしても、感染症の恐れのない清潔な環境で、きちんとした知識を持った医者の手を借りたいはず。絶対バレない安全な傷をつけるためにな。あそこは複合ビルだろ? だったらクリニックとか、急病人の手当てをする医務室とか、あるいは……」
ビタリと、少年の意識が何かを見据える。
断言があった。
「あるいは最低でも救急箱!! 駐車場は地下か? 車のドアで指を挟んだりトランクに詰め込むはずだった荷物を足の指に落としたり、意外と細々した
最後まで叫び終わる前に、
殺菌消毒の面ではやや劣るが、元からある固定の施設職員を金で買収するよりも移動式で現場から消してしまえる携行式の方がのちのちアシはつきにくいのかもしれない。
下りのスロープを駆け下りて、コンクリートで固められたサッカーグラウンドよりも大きな空間に飛び込んでいく。
しかし、
「なっ、ないよ?」
インデックスがあちこち見回しながらそんな風に言った。
コンクリートの柱の根元には消火器が、側面にはAEDを収めた金属ボックスが取り付けてあるのだが、
「救急箱なんてどこにもないけど。もう持っていっちゃったのかな?」
「……、」
読みを間違えた?
信じられないくらいの金持ちなら主治医くらいいつも隣に引き連れているかもしれないし、あるいは統括理事は
ただ、
「救急箱じゃないかもしれない」
「何だって?」
「屋上はヘリ空母みたいになってるって言ったでしょ! だったらドクターヘリくらい
最初に最上階フロアをくまなく爆破したのはどうして?
エレベーターの滑車を破壊して使用不能にする事で、
なんて事をしてくれたんだ。
お前達のせいでこの
「……考えたものだけど、まだ足りない」
いくらボタンを押しても今のままでは永遠にやってこないが、そんな事は関係ない。彼女はエレベーターシャフト、天高くに開いた地獄の口を見上げて好戦的に笑ったのだ。
「学園都市を
そう。
彼女は学園都市第三位の
12
一息だった。
鉄筋コンクリートの壁よりも、四方を太い鉄骨で囲まれたエレベーターシャフトの方がかえって磁力を使いやすかったのかもしれない。幸い、ワイヤーが千切れて落ちたはずのかごが邪魔する事もなかった。どうやら駐車場の下に、ボイラー室など別の施設があるらしい。
都合七〇階建て。
実際にかかった時間は、一分もなかっただろう。
屋上側のエレベーターのドアは破壊する必要はなかった。自作自演の爆発のせいで、ギアボックスごと内側から外側へ大きくめくれ上がっていたからだった。
そこはヘリポート、で良かったのだろうか。
地下駐車場とほぼ同じ───つまりサッカーグラウンドに匹敵する───面積は灰色のアスファルトで固められ、
複数のVTOL機を抱えていると言っていたが、実際には屋上の縁に三機ほど、映画で見るような戦闘機が並んでいる。ただしその足元には四角く区切られた大きな白線の枠組みがあった。あれは空母などで見られる格納庫用のエレベーター、なのだろうか?
無人で動くと言っていたし、純粋な火力はもちろん怖い。
ただ
灰色の軍用品とは別に、純白に塗られた機体があったのだ。テレビの取材なんかで使う四人乗りではなく、もっと大きなヘリコプターが
ドクターヘリだった。
「
「大事な証拠品よ、スマートに回収しましょ」
ばづんっ!! というくぐもった音と共に、メインローターの根元から黒煙が噴き出した。どうやら回転数か何かをいじってエンジンを破損させたらしい。自力で飛べなければ、ヘリをここから消す事はできない。血まみれの医療機器が現場にそのままなら、統括理事の三文芝居は相当質が落ちる。
スライドドアは開いていた。
相手は笑って
「爆破の前に傷をつけておくべきだったかな。不発に終わった時に言い訳ができなくなるので、まず爆発を見届けたかったんだけど」
「アンタが
「先生くらいはつけたらどうだ。一応これでも統括理事だぞ」