行間 四
学園都市には頂点の新統括理事長の下に、一二人の統括理事がいる。
それぞれ得意とする領分は違いつつも、常に他のメンバーの利権を奪えないものかと狙っている面々だ。そういった複雑な対立構造が新たな『武器』を求め、表から裏から様々な新技術の開発を促してきたという知られざる歴史もある。もちろんここで言う『武器』とは、単なる刃物や銃器だけに限らない。大人の世界でパワーバランスの奪い合いをしている老人達にとっては、正義や慈善だって使い捨ての弾丸でしかないのだから。
「……やれやれ。馬鹿が頭一個突出したようだけど」
暗がりで
彼女は統括理事ではない。その一人、老人の下についているブレインだ。
「元レスキューの精鋭か。一体何がどうしてここまで
そういえば、
強引な手に出たという事は、出ざるを得ない理由でも抱えていたのか。
レスキューはただでさえ過酷な職業だし、学園都市の場合は難易度が全く違う。薬品、細菌、電磁波、それ以上に得体の知れない次世代技術や、能力者自身の暴走まで。人口過密の大都市には、信じられないほど大量のリスクがちりばめられている。
もちろん、だ。これらの真実が表に出る事はない。まず第一に、学園都市は安心して子供を預けられる理想の街でなくては経営が成り立たないからだ。預けた子供が死んでも責任は負いませんと書いてしまっては客が集まらない。
知られざる現場に挑み続けてきた、一人の人間。
それがどうして金や政治の世界に迷い込み、多くの怪物を蹴落として一二しかない席の一つを独占し、多くの人を悲劇の奥底に沈める『暗部』へ執着するに至ったのか。これについては、同権限を持つ統括理事・
さて、と女子高生は息を吐いて、
「ここで介入する場合としない場合でのメリット・デメリットはそれぞれレポートにまとめておいた。まあ、どちらも正解とは言い難いのはいつも通りといった感じだけど。何にせよ痛みを伴う選択になるから好きな方を選べ」
学園都市の『暗部』を一掃する。
そんな話にしたって、統括理事にとっては己の利害と照らし合わせるだけだ。もちろん、一二人で『暗部』に関わっていないVIPなど一人もいない。一番温厚で裏工作をしない
ダメージの少ない者は歓迎し、ダメージの大きな者は反対する。
『暗部』の一掃キャンペーン自体がどうなろうが関係ない。その大波、揺さぶりに乗じて自分以外の統括理事がどう
そういう意味では、
あいつは『暗部』側に偏って多くの利権を貪り過ぎた。一掃をきっかけに経済基盤が破壊されれば、社会的な地位を守るための金のばらまきすらも難しくなるだろう。弱ったところに待っているのは、他の統括理事からの徹底的な攻撃だ。
「内部にある一二の勢力だけで
初めから相当苦しい戦いだった。
「……とはいえ、まさか外部の組織と手を結ぶとはな。立派な外患誘致だけど。これ一体どうやって決着をつけるつもりなんだか」
だがそれは、彼が一人で独占しているものではない。
少し前から動きはあった。
クリスマスイヴとは面白いイベントが重なったものだと少女は考えていた。
彼女が身を投げている革張りソファの横にあるサイドテーブルには、濃い目のコーヒーと一緒にとある洋菓子が置かれていた。
「生年月日や血液型を基にラッキーカラーを決めてくれるカスタムドーナツ、ときたか」
普通に考えれば、こんな眉唾のオカルトが付け入る隙などなかったはずなのだ。
しかし現実に流行は発生している。
バレンタインにチョコレートを贈ろうといったような、あからさまな企業の介入などはないはずなのに、だ。それでも何かがねじ曲げられている。
基本的に無神論で全てを科学の方程式で解決しようとする学園都市だが、こんな日くらいはオカルトの存在が流入してしまっても不思議ではないかもしれない。
このドーナツ自体に陰謀はない。
これは言ってみれば人の心を測るリトマス試験紙のようなもの。
こんな一芸の商品が
人の心は流れる。
例えば
つまり、
「……兵隊の現地調達もネット経由か。まったく嫌な時代になったけど」
少女はノートパソコンと呼ぶにはあまりに大きな、画板サイズの特殊なコンピュータのキーを
「R&Cオカルティクス。魔術専門の新型巨大IT、ね」