第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ①
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本来、魔術とは世間から隠されて管理されるべき超常のはずだった。
しかしいくつかの大きな戦いを経て、それが難しくなってきたのも事実。
そこへ、新たな災厄がやってきた。
『気になるあの子との相性を知りたくはありませんか? 二人の氏名と生年月日、抱えているお悩みなどを投稿フォームに書き込んでいただければ、プロの占い師集団があなた方の運勢を正確に計算いたします』
現れたのはネットの上だった。
本社ビルがどこの国にあるのかは一切不明。
巨大ITらしく固定の国籍を有しているのかどうかさえ曖昧ではあるが、そもそもこれだけ大規模な資本を持った企業が一体いつ現れたのか、誰にも説明すらできなかった。
『新居をお探しの中でお困りの方、土地や建物を診るという方法はいかがでしょう? モデルルームの間取りさえお送りいただければプロの鑑定士が方位や地脈の流れから日々の暮らしに対して向き不向きを算出できます』
系統としては、占いサイトから始まったのだろう。
人の相談に乗る、という形で数多くの個人情報を収集する。しかも気になる相手との相性占いの場合は本人の同意もなく第三者のプライバシーまで集められるのだから、実に効率的だ。そしてアメーバのように広がっていくこの巨大企業の存在に、俗に魔術サイドと呼ばれる面々は無力だった。
何しろ経験がなかったのだ。
ここまで大々的に魔術が宣伝され、なおかつ相手の正体が全く見えないなどという事態は。
しかもインターネット環境を支配する科学サイド側は、この危機の正体を正しく把握する事ができない。銃器や毒物の製造サイトならともかくとして、占いサイトやオカルトグッズの通販程度で目くじらを立てる展開などありえない。
結果の野放し。
一秒一秒で増殖していくR&Cオカルティクスは、そうしている間にもあらゆる壁を無視して全世界へ矛先を向けていく。
『仮に悪い運勢であったとしても恐れる事はありません。適切な知識をもって対処すれば悪運は退ける事ができます。身近なハーブを使って悪い気を
例えば学園都市。
中と外、科学と魔術。そうした仕切りを無視してインターネットは襲いかかる。
今日一日で、どれだけの人が携帯電話やスマートフォンに触っていた?
表向きはにこやかに笑っていた待ち合わせの風景の中、しかし実際に小さな画面で表示されていたのは何だった?
『tips、簡単な二択問題を一〇回連続で答えるとあら不思議。AIフォームが正確にあなたのお悩みを見抜いて今必要な魔女薬を割り出してくれますよ。合成の参考にしましょう!』
元々超常が根付いていて、力の格差が目に見える形で表に出ている特殊な環境だった。力のない能力者はもちろんの事、コンプレックスを持っているのは大人だってそうだ。生徒が八割で大人は二割。しかも子供達は、明らかに『ただの大人』よりも強大な能力を有している。誰も彼もがその環境に納得しているとは限らない。
もしも、自分に力があったら。
そんな風に思っている人間がR&Cオカルティクスに……魔術という言葉に触れてしまったらどうなるか。
『魔術は決して難しいものではありません。第三世代、彩色機能付きの3Dプリンタがあれば四属性の
情報に触れた者は数多くいるだろう。
その内の何人が実際に手を動かしてしまったかまでは、統計が取れていない。
『軸となる呼吸や
だが『すでに普通の人からズレた』学園都市製の能力者が『全く別の、未知の系統の超常』に触れてしまった場合、激しい誤作動や副作用に襲われる事は容易に想像がつく。その容易な部分にまで頭が回らなかった者は、自室で血まみれになっているかもしれない。
そして、大人の場合は?
あくまでも『普通の人』でしかない人間が初めて自分でも使える超常に触れてしまったらどうなるか。
『もしも不満があるのなら、その人生をご自身の手で変えてはみませんか?』
正真正銘のカオスが始まろうとしていた。
魔術と科学という壁は、学園都市の外と中で明確に区切られるのではない。
大人と子供。
一つの街の中で、マーブル模様のような対立構造が生まれようとしているのだ。
顔も見えない。
どこで笑っているかも分からない、誰かの思惑によって。
『世の理不尽に対しては、理不尽でもって対処する。R&Cオカルティクスは皆様に眉唾ではない正しい魔術を提供する事で、より
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ぼひゅっ、と炎が酸素を
「フォイアエル、AuとCuの間、すなわち経路14に架空の端子を設けよ!!」
「ッ、野郎!?」
投げ込むような炎の塊を
「チッ!!」
舌打ちした
離れた場所に
だがやはり、上等なスーツを着込んだ男は眉一つ動かさない。
「エアデエル、SnとFeの間、すなわち経路9に架空の端子を設けよ!!」
空母の飛行甲板のようだった真っ平らな地面がいきなり不自然に盛り上がり、分厚い岩の盾を作り出す。
これで火、水、風、土。
「まるでテレビゲームみたいな使い勝手の良さだな!!」
「四つに
いきなり
大量の群れは濁流のように形を変えると一度
どんな効果があるか。
詳細まで分析する必要はない。
その正体が何であれ、戦闘機を
そして親指で弾いただけで、音速の三倍もの勢いで空気を焼いて直線的にすべてを破壊し尽くす『
それにしても、
「……どうやって」
ごくりと喉を鳴らして。
戦慄するまま、
「どうやって手に入れた!? こんなモノ!!」
「意外とアンテナが弱いな高校生。今じゃどこからでもアクセスできるよ。とはいえ、クラックサーバーを使った並列大量書き込みで日本語版の最先端ワードに表示されるよう多少背中を押してやったのは私なんだけどな」
ぎょっとした。
言葉の端々にちりばめられている用語は、