第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ②

うそだ……」


 まさか。

 古代の図書館とか遺跡の奥深くとか、そういう話とは違う。


「冗談じゃない!! そんなのうそだ!!」


 道端に銀行の通帳を放り出しておくどころじゃない。そんな誰でも見られる場所で無造作に置いてあるとでも言うのか!?


「普段は自由に泳がせて『次の波』へ自動投資するアルゴリズムがを掘り当てたが、私が一人で独占してしまうとすぐにアシがつきそうだったんだ。なので、いっそ大量にばらいて迷彩を仕込む事にした。ほら、物騒な拳銃を海の外から取り寄せて使うよりも一〇〇均で大量に売られている包丁を選んだ方が『安全』なのと同じ理屈だよ。普及というのはそれだけで追跡者をかくらんする」


 インデックスは別の所に注目していた。

 というより、もしもおかのりが本当に魔術を使っているのであれば、かみじようとうよりもさかことよりも、ここは彼女が本道だ。


「……出エジプト記?」


 一〇万三〇〇一冊以上の魔道書を完全記憶した魔道書図書館、禁書目録。

 彼女の口が全てをあばく。


「ううん、聖化発声どころじゃない。適当なドイツ語の末尾にelをつけるだけで、その場その場で適当な天使を作っているっていうの!?」

「最小衝突理論とでも呼んでくれ」

「そんなのっ!!」

「そういう集中法があるのか、実際にオカルトとやらが機能するのかはあまり興味がない。ようは、現実に使える技術が手元にあればそれでい。この状況の打開に使えるならば」


 迷いがなかった。

 学園都市の能力者だって、暴走の可能性くらいは常に頭の片隅でちらついているだろうに。『力』との付き合い方が確立していない証拠だ。おびえがないのは赤ん坊と同じで、まだ熱したやかんに一度も触れた事がないからだろう。

 そうなったら最後。

 痛い目を見る、程度では済まされない事まで想像は及んでいないのか。


「ふざけた手法だとは私も思う。しかし実際、歴史が証明しているらしいな。神の子を無視して天使崇拝が過熱していた時代には、聖書に一度も登場した事のない天使が人の手で粗製濫造されていたらしい。歯止めを掛けたのは教皇ザカリアス辺りという話だとか」


 ジャココン!! というバネけのような音が響き渡った。


「なに、あれ……?」


 さかことが、悪夢でも見るような声でうめいていた。

 左右の袖から飛び出したのは、暗殺用拳銃に近い。注意しなければてのひらにすっぽり収まって見逃してしまうほど小さな、二つの銃身を持ったカードサイズの拳銃。霊装と呼ばれる魔術の道具。鋼の銃身の代わりにあるのは真空管にも似たガラス容器であり、その中には人差し指にも満たない小柄な少女が左右二つずつ、計四人も封入されていた。

 頭の上に光輪をいただく神秘の少女達が。

 超常を操る二丁拳銃。

 先にインスピレーションを与えたのはまい殿どのほしだったのか。それとも彼女にそういう制御法を教えたのが統括理事のおかのりだったのか。


、PbとAuの間、すなわち経路7に架空の端子を設けよ」


 ささやいた途端、ガラス容器の一つが明確に変化した。密閉空間の中にたたずむ少女の髪や衣服、そして何より頭上の輪が、男の声に応じて変化したのだ。

 輝くような、白の光へと。


「っ、来るよとうま!!」

「襲いかかる光を目で見て対処できるならやってみろ」


 笑って。

 真空管の少女が、ほどけた。

 ばくだいな光の塊となって、透明な銃口から解き放たれる。

 ガラス管の外、外気に触れると同時だった。


 そのまま真正面から、壮絶な一撃が突っ込んできた。


     3


 おかのりは学園都市の統括理事だ。

 そのくせ科学サイドの中では勝てないと早々に見切りをつけた彼が手に取ったのは、よりにもよって外の世界にあった魔術。

 まったくひどい反則だ。

 であるならば。

 こちらがヤツの知らない反則に手を伸ばしたとしても、文句なんか言わせない。


!!」


 ひょっこりとかみじようの上着の中から現れたのは、わずか身長一五センチほどの金髪少女だった。魔女のような黒い帽子に、特徴的な眼帯。体を覆うような分厚いマントを羽織ってはいるが、その割に下は水着のように肌が多い。

 北欧の神。

 ダウンサイジングはしているが。

 彼女は少年の右肩に腰掛けると、そのまま細い脚で少年の肩を蹴る。

 それでわずかに刺激され、構えた右手がブレた。

 結果。

 弾道ミサイルすら正確に撃ち落とす、艦載クラスの閃光兵器を掌が正確に捉える。どんなものであっても魔術は魔術。彼の幻想殺しイマジンブレイカーが触れる事さえできれば、その一切は瞬時に打ち消されてしまう。


「っ」


 おかが何かしら指先で操作すると、主を失った真空管に再び滑らかな曲線の塊が生じた。どんな色にでも染まる、少女の形をした何かが。


「足りないな、インスピレーションが」


 吐き捨てるように、尊大に腕を組んで小さな少女は言い捨てた。


「せっかくの超常を自在に振り回せるというのに、やっているのは機械製品で作り出せる艦載兵器と全く同じとは。貴様の魔術が泣いているぞ。とはいえ、胸に魔法名すら刻んでいないのでは泣くモノさえ存在しないのかもしれないが」

、FeとAuの間、すなわち経路12に架空の端子を設けよ」

「それフォイアエルとどう違うんだ?」


 もはや、半ばあきれたようだった。

 しかしおかの狙いはかみじようたちではなかったようだ。赤の塊と化した少女が空気中に解き放たれ、足元の無関係な大地に向かって撃ち込まれた途端、激しい爆発が巻き起こった。

 事実として、オティヌスは眉一つ動かさなかった。


「聖化発声の安易な応用。手触りを知る事のできる身近な金属を用いて不可視のセフィラを想起し、を構成する球体と球体を結ぶ径にキツツキよろしく余計な『巣』を埋め込んで世界のルールを改ざんする。セフィラは天使が守るモノだから、架空の天使を作れば架空の球体を作れるという逆流でも夢想したか。なるほど結構、いかにもわいしような人が己の身の丈に合わせて思いつきそうな術式だ。……本来ならば際限なく広げられる己の想像すら金属だの元素だの現実の枠に収めたがる、堅実でつまらん魔術だが」


 炎と煙でかみじようとうが視界を塞がれる中、だ。

 ぐらりと重力がブレる。


「オティヌスっ、エクスプ何だっけ? ありゃ何だ!?」

「爆発。これについては英語のエクスプロージョンとほぼ変わらんだろ落第生」

「まだ留年って決まった訳じゃねえーし!!」


 てっきり重力関係の魔術かと思ったが、そういう訳ではないらしい。

 ヘリ空母の飛行甲板のようだった屋上の構造体そのものが爆発に耐えられず、砕けたか傾いたかしたようだ。

 煙の向こうから見知った少女達の声があった。

 しかし合流はかなわない。


『とうまっ』

『馬鹿、アンタ落ちたいの!?』


 というか、耐えられそうにない。

 急激に角度をつけていく足場に耐えられず、滑り台のようにかみじようの体が滑っていく。両手でしがみつけるようなものもない。


「くそっ!!」

「意外と慎重派だな、馬鹿げた黒幕。不確定要素の排除が第一。そのために、魔道書図書館なり学園都市製の超能力者なりと私達を切り離しにくるとは」


 肩の上のオティヌスは気軽に言っていた。

 滑り落ちたと思ったが、幸い、いきなり高層ビルの屋上から空中へ投げ出される事はなかった。すぐ下の最上階から外側へ大きくせり出した庭園に転がり落ちたのだ。前もっておかが爆破していたため、テニスコートよりも広いこちらの空間も原形をとどめていなかった。場合によってはここも崩れるかもしれない。

 そしてもう一つの影。

刊行シリーズ

とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
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とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
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とある暗部の少女共棲(2)の書影
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とある暗部の少女共棲の書影
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とある科学の超電磁砲の書影
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