第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ③
「何だ、それは?」
こればかりは、純粋な疑問のようだった。
統括理事にして魔術師。反則技の塊のような
だからこそ、他と切り離してでも集中的に早期撃破を狙ってきた。
油断なく左右の暗殺拳銃を構えながら、
「私はそんなもの知らない。フラスコに仕込んだフィラメントとも違うようだ」
「これだ、聞きかじりで魔術を振りかざす馬鹿者は」
心底
「まさか魔術の世界に一歩でも踏み込んでおきながら、その最終到達地点である『魔神』すら知らんとは。ああ、ああ。ここで詳しい話なんぞしてやらんぞ、この神を知りたければ各々勝手に膨大な歴史を振り返るがよい」
「オティヌス。今すぐあのクソ野郎を殴り倒したい、そのためにはお前の力を借りたい」
「当たり前だ、この程度の小物を仕留められんようでは神の『理解者』など務まるか、人間」
そっと吐き捨てるが、魔女のような帽子に隠された目元はどこか楽しげであった。
そして彼女の分析はインデックスとは似て非なる。
どこか攻撃的で、相手の尊厳を削り落とす害意に満ちているのだ。
「ヤツの使う魔術にオリジナリティはない。結局は『黄金』辺りの使い古しなんだよ。世界最大の魔術結社では、無色透明で形のない『
「実際に出力を保てるなら何でも
「それで一九世紀のヘルメス学でもかじったつもりか、無学め。あれは西側の思想を軸に世界中の神話や宗教を統合された一つの理論での説明を試みるといった主旨の学問であり、理解の及ばぬ言葉や数字は何でもかんでも自分好みの理屈でこじつけられるといった暴論ではない。そもそも神がこうして独立した存在として立っている以上、ヘルメス学だけで世界の全てを説明するのも無理があるしな。それとも貴様はローマ人が勝手に描いたヨーロッパ以外は全部
「シュナイデエ
「遅い」
会話の途中だった。
パキンッ!! という甲高い破壊音が響き渡った。
不意打ちで統括理事が左の銃を使ったはずだが、オティヌスは脚を組んだまま、その小さなカカトで
まず鉛色の少女が真空管から外へ首を出した直後、自らバラバラに砕け散って大量の
「貴様の弱点はストックを総数四つしか抱える事ができず、後から追加して切り替える場合はその名を別枠で切り取らなくてはならない点だ。既存の攻撃手段であれば対処は
「……、」
「馬鹿は追い詰められると自分で解決する事なく、安易な神頼みに走る。貴様もそういったクチだったのだろうが、この辺りが幕だ。安易な力は安易な結末を導く事しかできん。今までどうやって生きてきた? 少しは深く学ぶべきだったな、人生を」
あくまでも尊大に、それでいて核心を
「何を願って魔術に触れた、元レスキュー」
かえって、だ。
少年の方が置いていかれるくらいだった。
「……れす、キュー……?」
「そうだ人間、こいつの射撃にはクセがある。見た目だけなら暗殺拳銃だが、銃口をわずかに上へ上げて狙いをつけるそのやり方はロープを撃ち出す救命銃の構え方だろう。当人に狙いをつけるが当ててはならず、しかも水中で力尽きる前に要救助者のすぐ近く、溺れてパニックに陥った者が腕を振り回せばひとりでに
「貴様……」
君、といった余裕ぶった言い回しが
あの時はドクターヘリの中で女医の手を借りていたはずだが、あれは本人に知識がなかった訳ではなかったのか。
手慣れているが故に、自分の手で処置すると逆に怪しまれかねない。だから他人の手でやらせて、自分のクセや技術が表へ出ないように配慮していた。
「もしもそこで正しい魔法名を胸に刻む事ができたのなら、貴様はいっぱしの魔術師になっていたかもしれない。だが間違えたな。正しい目的さえあれば常に正しい結果がついてきてくれる訳ではない。選んだ方法を誤れば、人を救うつもりで死なせてしまう事さえありえるんだ」
沈黙があった。
誰にも踏み込めない領域があった。
やがて、だ。
本当に小さく、こうあった。
「……助けたよ」
ぽつりと。
そんな言葉が。
合理性だけ考えれば、
だから、
どれだけ奪われて。
どれほど
あるいは安易な力へ手を伸ばした
「多くの人を助けてきた。炎の中でも、薬品の煙に満たされた工場でも、暴走する能力者が泣き喚く嵐の中心であっても。……その後、助けた人達はどうなったと思う?」
答えようがなかった。
幸せになってめでたしめでたしではダメだったのか。
だがこうなった。
「好奇の目にさらされた」
想像を絶する言葉だった。
どろりとした瞳で、異形の銃を構えたまま統括理事は笑っていた。