「必要悪の教会」特別編入試験編
第一話 ②
「ここをクリアできれば、晴れてあなた達には『フリーパス』が与えられる手はずになっているはずです。ええ、報告会での演説? ま、そんなのは建前ですからね。実戦で使い物になると分かれば何でも使うのが我々『
真っ赤な色の、スーツとドレスの中間みたいな派手な服を着たフリーディアは、しかし
「ああ、大丈夫大丈夫。ロンドンは世界で初めて、それはもう耐震基準なんて言葉ができる前から地下鉄のトンネルを掘りまくった街ですから。あっちもこっちもミルフィーユみたいに線路が重なっていまして。ええ、今はもう使われていない路線や地下駅なんてのも、両手の指じゃ足りないくらいあるんです」
彼女の声は
これは魔術というよりは詠唱法の一つ、といった方が近いかもしれない。人間は、雑踏の中から特定の人物の声だけを拾って聞き取るものだ。逆に言えば、意識を
『……、』
何かしらの質問や反論が、数種類の男女の声で返ってくる。
通信機器というよりは
もっとも。
心臓部である『鉱石』は、全く別のものに差し替えている訳だが。
「『地下鉄迷宮』。……現代のダンジョンは得体のしれない
またもやいくつかの質問。
フリーディアは赤身を寝かせて熟成させた牛肉から茶色いソースのついたナイフを離すと、銀色の先端でテーブルに置かれた数枚の写真を順番に差す。
(……やや震えるようなテノールが
コンコン、とテーブル端の鉱石ラジオをナイフの先端で軽くつつく。
心臓部には『持ち主を次々と殺す』として有名な貴金属が使われていた。因果を
(ちえ、
彼女も彼女で、『古い巨人』などと言われるのが死ぬほど嫌いな、典型的なこの街の住人らしい側面を持っていたりもした。
もちろん、これは本来『保護観察』みたいなもので、テスト中に天草式の面々が行方を
大きなダイヤルを二回、三回と軽く小突きながら、フリーディアは唇を
仕事は仕事だ。
添え物のポテトにフォークをゆっくりと突き刺しながら、イギリス
「シャッターの暗号は簡単な数価の変換で解ける程度のものです。地下駅構内の所定の位置に着くまで編入試験が始まりませんが、ここで手こずるようなら素直に回れ右する事をおすすめしますよ」
3
特に通信機器をつけてもいないのに、ヘッドフォンをつけているように、体感的には頭の中心から女性の声が響いてくる。
『ミッション自体はシンプルです』
今は使われていないはずだが、地下駅の通路には蛍光灯の白々しい光で満ちていた。やはり国家と結びついた宗教は違う。
『その地下駅は複数の路線と
ふわふわ金髪の
蛍光灯をあてにするな、という事だろう。
試験開始と同時に、いきなり暗闇に包まれる可能性も考慮した方が
『当然、「
なかなかに嫌らしい構成だった。
いっそ『魔術的に高度で複雑なトラップが山ほど』と言ってくれた方が
試験開始か、あるいは任意のタイミングで全ての照明を落とされれば、そのリスクも倍増してしまう。
「(……と、俺達をビビらせれば余計なタイムロスを狙える。ホントに『魔術以外の
舞台は廃止された地下駅と入り組んだ複数の路線。
配置された多数のトラップ。
……となると、所定の時間以内に迷宮を抜け、目的地まで
甘かった。
『あなた達にはその地下鉄駅を中心に半径二キロにある全ての道をマッピングしていただきます。ええ、全てを。単純な道順はもちろん、トラップの配置、危険域、動力供給の経路に至るまで。その中を安全に歩くために必要なものを全て』
「……、」
つまり。
全ての
逆だ。
全ての
『ちなみに採点は加点方式を採用します。つまり、安全のために必要な項目が図面に書き込まれていれば書き込まれているほど、点数は上がる。一定に達しない場合は残念ですが、我々はあなた達を受け入れる事はできません』
「悪趣味め……」
ふわふわ金髪の
『制限時間は開始より三時間。今回は集団戦を織り込んでいますので、人員の分配はそちらに任せます。大人数で確実にトラップを解除していくか、少人数で迅速に広範囲を捜索するか。方針も含めてそちらでどうぞ』
教皇代理のポジションにいる
背後にいた五〇人前後の男女が、音もなく二、三人ずつのグループへと分かれていく。
「図面とやらは?」
『白地図なんて便利なものを渡すとでも? 自分で何とかしてください。紙の代わりになるものを探すもよし、スプレーで壁面に大きく描くもよし、頭の中で完璧に記憶するもよし。実戦は全ての準備を整えてもらってから始まるものではない、と学んでくださいね。他に質問は』
「いつ始まる」
『すぐにでも』
答えがあった直後。
地下駅全域の照明が一斉に落ち、一面に漆黒の闇が下りる。
4
『
(……さて。ここから三時間が勝負か)
基本的に今回の試験は全自動で行われる。
フリーディアに任されているのは天草式のサポートや魔術的なトラップの管理ではなく、むしろ試験に参加する天草式の監視の方が強い。
呪いの貴金属、なんて方式で通信ラインを
(脱走が怖いなら、試験自体をイギリスの外でやりゃ