「必要悪の教会」特別編入試験編
第一話 ③
ピラフに入っていた小さな
『くそう、こんな暗いトコに閉じ込めやがって……』
『しっ。これだって聞こえているかもしれないですよ。ああは言っていましたけど、実際の採点方式がどうなるかなんて分かんないんですから』
『この通信方式もアレよね。どこまで適用されているのかっていうか、心の声まで筒抜けになっているのかしら』
実際にはそこまでの出力はない訳だが、わざわざ口に出して教える必要はない。
フリーディアはピラフの中から刻んだイカを掘り起こしながら、仕事を続けていく。
「ほらほら、地下って言っても別に酸欠で死ぬ訳じゃありません。無駄口
自家生産の不安や恐怖で潰れてしまうようならそれまでだ。
そもそもにおいて、『
「私が入った頃に比べれば、まだまだ簡単な方だと思いますけどね」
『ちなみにお尋ねしても?』
「動力の壊れた潜水艦に乗せてそのまま
ちなみに試験は年々、簡略化・低難易度が進んでいるとされる。
……組織の方でも、わざわざ世界中からスカウトしてきた有用な戦力を自分の手で死なせてしまう無意味さに気づいたのかもしれない。
とはいえ。
これでも十分、
5
地下駅の明かりが落ちた瞬間、天草式十字凄教の面々の思考も一気に切り替わった。
明かりを得る方法、少ない光量で視界を確保する方法、そもそも目に頼らない方法。
例えば、光に集まる虫のような人形が大量に設置されていたり。
例えば、暗視効果を逆手に取るような
例えば、炎に反応して爆発する可燃性ガスで満たされていたり。
「二時間三〇分でここに集合しろ!
「あ、あの、誰がどのルートを進むかはどうやって……」
「早い者勝ち!! そこの
ふわふわ金髪の
それぞれの先端に炎とはまた違う、
「迷路の基本って、壁に手をついて常に同じ方へ曲がり続ける事でしたっけ?」
「基本はね。でもどこかでループしたりワープしたら意味はなくなるけど」
テレビゲームの用語みたいな話だが、局所的環境であれば実際に似たような現象を起こせる事を、普通の人達は知らないだろう。
この放棄された路線の上で、仕事を終えて家路につくビジネスマン達は。
「なお面倒臭いのは、それを回避して進めっていうんじゃなくて、全部引っ掛かって確かめろってトコよね」
「正直な話、制限時間内に全ての見取り図とトラップリストを完成させられると思います?」
蛍の光を増幅させたような淡い光に照らされながら、
「無理でしょうね」
「やっぱり……」
採点は加点式。安全に迷宮を歩くための地図作り。何より『完成させなければ失格』とは一言も言われなかった。
となると、第一に必要なのは、
「迷路やトラップも大事だけど、まず押さえなくちゃならないのは『出口』。スタートの地下駅から別の出口までの安全なルートを一本でも
「でも……」
「『向こう』が悠長に待ってくれる保証はない」
ガコン……という音が、緩やかにカーブするトンネルの先から聞こえてきた。
何かが近づいてきている。
しかし人間ではない。トンネル全体を小さく揺らすような振動は、明らかにもっと大きなものだ。
思わずトンネルの壁側に寄りながら、
「電車はない、って言っていたわよね」
「彼女の言葉を信じるなら、ですけど」
「ねえ!!」
どう呼びかけて良いものか、
『何でしょう?』
「ちなみにトラップってのは、ぶっ壊して安全を確保しても良い訳なの?」
『方法はお任せします、とお伝えしたはずですが』
うしっ、と
そして。
緩やかにカーブするトンネルの先から、『それ』が現れた。
6
日本と違って、欧州の外食は基本的に時間を長くかける。食前酒から始まってデザートがやってくるまで、最終的に二時間、三時間と
つまり。
テーブルを陣取って優雅に『仕事』をこなすのにもうってつけだ。
『げえ!? 悪趣味、悪趣味!! 何よこれ、拷問具ベースですか!?』
『ああ、地下にある水車なんてろくな使い道を思いつかないわ……』
追加で頼んだコーンポタージュをスプーンでかき混ぜつつ、フリーディア=ストライカーズは鉱石ラジオから聞こえてくる女性のものらしき声に耳を傾ける。てっきりポタージュはマグカップに入ってくるかと思ったが、予想に反して本格的なスープ皿がやってきてしまい、状況はややピンチである。
「うえっぷ……。どうですかー、脱落者はいませんかー?」
『集団戦だから問題なしですよね。誰か一人でもクリアできれば全員合格のはず』
「ですけどね」
でも、そんな根性だと実戦で倒れる。
いつでも仲間が助けてくれるとは限らない。状況によっては、一時的に仲間をも疑ってかかる必要が出てくる場面にだって直面する。
(甘っちょろいなあ。こんなのに『フリーパス』なんて与えて大丈夫なのかね)
相手ができる人間だとイラつくくせに、頼りないとそれはそれで困るという、典型的に厄介な思考に陥るフリーディア。
一面クルトンまみれのコーンスープに若干の
「
『ようは陣取りゲームと一緒で、いかに自分の色に染められるかって事でしょう。そんなの理屈じゃ分かっていますけど……ザザ……』
? とフリーディア=ストライカーズはわずかに眉をひそめる。
鉱石ラジオをスプーンの先端でつつき、雑音の原因について少し考える。
7
『それ』の正体は、血のように真っ赤な物体だった。
ぬらぬらと光を照り返すその質感は、木とも鉄とも違う。どこか脂めいたものを連想させる。
形状については、厚さ五〇センチ、直径三メートルほどの歯車。
それが三つ四つと、ひとりでにゴロゴロと近づいてくる。
「車輪刑……。処刑用の刑具をモチーフにしているんですか!?」
『それ』は言葉を交わさない。
代わりに、行動で示された。
ブォ!! と、その回転数が一気に増す。スリップするタイヤのように地面を削り取った直後、弾丸のような速度で一斉に