ロード・トゥ・エンデュミオン
第一章 ②
「できないまま
「そんなおやつはとっくにお
「
そして、そのまんま
「……あのー、つかぬ事をお尋ねするんだけど、何でアンタがこの子のご飯を作って面倒を見る事が当たり前の世界になっているの?」
「ふぐっ!? い、いやそれは……っ!!」
「そして何でまた意味もなくこんなにイライラすんのかものすごーく疑問なんだけど!!」
「俺は何でいきなりお前がビリビリし出したのかを尋ねたい!!」
3
『天ぷらにすれば何でも
『あのオクラもピーマンも! チャーハンの中からみじん切りにしたピーマンを取り除いていたうちの子が、半分に切ったピーマンをそのまま食べてしまうなんて信じられません! (三九歳、女性、主婦)』
『個人の感想であり全ての方に効果を保証するものではありません』
登校中の騒動も終わり、インデックスや
公園のベンチに座り、ここのところ
「……我が家には必要のないバイブルみたいだな」
何しろ彼の同居人の好き嫌いのなさと言ったら、『お湯を入れたカップラーメンを三分待てずに硬いままバリボリと
しかし納得がいかない顔をしているのは、隣に座っている少女。
「むっ、駄目だよとうま! 衣食住は人間の生活の基本。常に向上心を忘れないようにしていただきたいものだね!!」
「ならば
「ちなみにとうまは今日の晩ご飯はどうするつもりなの?」
「えー? うどんの消費期限やばくなかったっけ? 適当にデコレーションして鍋焼き風に……」
「それは三日前に食べたし!」
「じゃあ夏っぽく冷やしうどんに」
「五日前のお昼ご飯がまさにそんな感じ!」
「ああもう!! 完全記憶能力が無駄に発揮されてやがる!!」
この少女、インデックスは一度覚えたものは絶対に忘れないという、特殊な才能を有している。それを利用して、世界中にある一〇万三〇〇〇冊もの魔道書を一字一句
「でもあらゆる情報を完璧に記憶できるんだったら、冷やしうどんを食べながら豪華すき焼きセット八〇〇〇円を思い浮かべれば幸せになれるんじゃね?」
「そ、そんな虚構の幸福を追い求めたってお
「じゃあお
「それは妖精に
言いかけたインデックスの言葉が途中で断たれる。
原因は真っ白な
学園都市の一角から
ビルより高く、雲より高く。
「ひゃあ!? さ、さっきから一体何なの!?」
「ロケットだろ。第二三学区から打ち上げているなんて思えない光だよなー」
あまりにも噴射光が
飛行機雲のような噴射煙はいくつも束ねられ、まるで天まで届く塔のようにそびえていた。
「学園都市だけじゃなくって、世界中の発射場で打ち上げラッシュが続いているんだとさ。金星の探査コンテストをやってるんだって。四〇〇基ぐらいがエントリーしているって話だぜ。EUみたいな複数の国家の連合体プロジェクトから地元商店街の地域活性策まで、来るもの拒まずらしいぞ」
とはいえ、やはり技術の面では学園都市に
何しろ、中と外では技術レベルが二〇~三〇年は違うと言われているのだから。
後は物量作戦に出た他の国々に、学園都市が技術だけでトップランクをキープできるか。そういったインテリジェンスじゃない戦いしか残っていない。
しかし、それにしても、
(……勝ったら勝ったで、一体何がもらえるんだ?)
新発見した金星の山とか小惑星とかに名前を決められるというのもそうだが、一番乗りという『記録に挑戦』以外に何かメリットがあるとは思えないのが、
これは、地球の技術を一変させる未知の新物質の採取とか、岩陰に隠れている宇宙人と接触して世間話をするとか、あまりにも分かりやすい『目的』がないからかもしれない。
『生物の死骸が地中で分解されると石油になる。つまり石油が変化した物質が見つかれば、過去に生き物がいたって事にもなるよね』みたいな痕跡を探すのが超重要らしいのだが、その痕跡が見つかると何が得られるのだろうか? お
(……『歴史的な発見』以外の、具体的な実益があれば分かりやすいんだけどなー)
でも、そんなのが見つかったら見つかったで宇宙開発は華々しいロマンから生々しい闘争へと変貌するかもしれない。
と、そんな風に思っている
彼女が言うには、
「かっ、科学サイドはついに近代西洋魔術の根幹たる星々の一角を掌握しにかかったっていうの!? 惑星の組成を変質させる事で魔術の基礎構造を破壊しにかかるだなんて……。でもこういった『時代』に対応する形で私達もきっと変貌していくんだね!! 黒船新時代の到来なんだよ!!」
「もしもし?」
勝手にわなわなさせておこう、と気を遣った
「……でもまー、四〇〇基ってマジか。スペースデブリとか超ヤバそうだな。金星から金星エネルギーが照射されているとしたら、そろそろデブリの山に
4
結局、目下最大の問題は晩ご飯を何にするかなのだった!
「……その日のご飯の食材を、作る段になってからスーパーで調達しようっていう時点で、何もかも計画的じゃないよな」
「まったくとうまがだらしないのが全ての元凶だよね。この私の完全記憶能力があれば家計簿いらずっていうのにさ!」
「その完全記憶能力で照らし合わせてみろ! どう考えたって元凶は
そんな訳で『体育会系のために!!』という名前の、えらく直球なスーパーマーケットへ突入する
ご近所で『飲み干す者』の異名を持つ白いシスターのご来店に、試食コーナーを管理するおばちゃん達が一斉に退避していくのが見え隠れしているのだが、当のインデックスの興味はそちらにないらしく、
「と、とうま! もうすぐマグロの解体ショーが始まるってチラシが貼ってあるんだよ!」
「一〇〇パー無理だよ!! 手の出しようがねえ!! まかない料理に使うトコだけでも財布が崩壊する。つーかどの辺が体育会系のためになんだ!?」
「でぃーえっちえーっ! 今夜はでぃーえっちえーなんだよ!!」
「それだけ欲しいならサプリメントで