第一章 白井黒子は躊躇わない ①
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並より上である事が普通、という言葉の定義のおかしな世界だった。欧風に整えられた街並みはその細部まで安全性とセレブリティが高められており、出入りできる人の数に限りがあるというのにバッグやアクセサリーなどのブランドショップにも事欠かない。交通量の多い駅前の一等地で大勢の客を相手にするよりも、たった一人のお嬢様の『お気に入り』『
中でも一等の名門校、
しかし上流階級の間でも休み時間にウワサ話が飛び交うのは同じなのか、あるいはそういった人々こそ肩書きや評判を人並み以上に気にかけるのか。西洋風の校舎、その廊下ではこんな声がさざなみのように
『あら、まあ、まあまあまあ☆ あれは
『ホワイトスプリングホールディングスといえば全国規模のコンビニ、ドラッグストア、ショッピングセンターとカジュアル路線の怪物でしてよ』
『……第三位の
肩で風を切るとは、こういう事を言うのだろう。
とはいえ
(……まったく。他人のウワサを気にかけたところで己の実力が上昇する訳でもあるまいに、ですの)
故に、
休み時間の人混み。同じ制服を着ていても、その背中ははっきりと切り分けられている。
「おっねえっさまー……?」
遠くからそっと声をかけてみる。
反応なし、気づいていない。ならばこれはチャンスだ。
背後から直接
「おっねえっさまァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんンンウ!!!???」
語尾が不自然に跳ね上がったのは高圧電流で体を貫かれたからだろう。
「分かってた」
「ふふふ、これは以心伝心で相思相愛であると認識してもよろしいですか……?」
「地べたで
冷たい声だがこれもいつもの話。
そして
(……今日は夢の金曜日)
そうなのだ。
そういう話なのだ。
(そしてルームメイトのわたくしは土日の四八時間ずーっとお姉様と一緒! 共・同・生・活!! うふふこの日のための準備は万全ですの。楽しいボードゲームから
「ねえ
「っ、はい!? な、何ですのお姉様?」
「なにキョドってんの?」
どうやら学生寮の部屋のドアは外側からだろうが内側からだろうが
「そういえばアレ知ってる? フォレストライトのクーラーボックス。氷で冷やすんじゃなくて化学冷媒とデカいモーター使って冷やすって話だから、正確には手持ちの冷蔵庫って感じなんだろうけど」
「はあ。アウトドアグッズのメーカーでしたわよね? 壁に囲まれたハイテクな
「あはは。あれあったら
「よふかし」
「でもこう、クーラーボックスサイズならさ、缶の冷たい紅茶でも取り出して。いやいや冷蔵庫ならショートケーキとかも保存しておけるでしょ? もうやりたい放題! 消灯時間になったら水しか飲めないからもう寝ましょうみたいな窮屈生活にはおさらばって話。これぞ寮監への反乱よ!! うー、週末とか眠れなくなっちゃうかも?」
(よ、夜という言葉に一切の邪気がない……。なんかもう、お姉様から後光が見える。余計な計画を企てている自分の
ぶんぶんと
ほっこりムードにほだされてはならぬ!! いつまでも『
「ああそうそう」
「何ですのお姉様?」
「アンタ、ケータイのアカウントクラッシュしたんですって? でもってまだ中のプロファイルの再設定に手間取ってるとか」
「は、はあ。どうもアレ契約キャリアのサービスカウンターまで顔を出さないといけない問題らしくて。外部のSNSメッセージは使えるので、ついつい後回しにしてしまいがちなんですのよね……。ええと、それが?」
「だから音信不通なアンタに
何のための招待制サービスだと思っているのだ。
そして
これは聞くべきではない話、一刻も早く
あとちょっとだけ勇気の足りなかった
「アンタ
音が飛んだ。
光がふわっと広がって目の前の景色が消失した。
「……、」
そして
廊下の真ん中でそっと崩れ落ち、
このまま諦めるのか。今日は夢の金曜日、その先には待ちに待った土日。ドアも窓も密室改造し、土日の四八時間で起こり得るであろう状況を全てフローチャート化して流れを何度も何度も指差し確認して、ピンク色のガスだってセットした。だというのに謎のゲームマスター
とっくに結論は出ていた。
斜めに傾いた少女の唇から、ぼそっと一言こぼれた。
「……ヤッたるわ」
あの究極最強メガネ巨乳を殺さねば、わたくしは先へと進めない……ッ!!