第二章 佐天涙子のドロドロ血祭りパラダイス☆ ③
まずほっぺたを押しつけた床が自己主張をしてくる。他に見えるのはスチール製の机がいくつかと戸棚、それから部屋の壁。残念な事に、出入り口のドアは見えない。視界に捉えるためには身をひねる必要があるが、
(まずいっ、
ぐちゃり、という粘ついた液体の感触が側頭部から伝わってきた。
でもって人は、本当に心を不安に支配されると当たり前の前提こそ信じられなくなってしまう。自分の記憶すら疑ってかかる羽目になるのだ。
つまり、である。
(あれ……? 部屋のドアってどうなっていたっけ。鍵とか)
お
だけど今は両手で胃袋の辺りを押さえる訳にもいかない。
例えばロックは壁に
というか、
(鍵がかかっているかいないかで、外に出るまでの時間が変わっちゃうじゃん! 内鍵は比較的簡単に開く仕組みだとしても、この状況だとドアに飛びついて金具をひねって鍵を開けるまでの三秒すら惜しいっ。あれ、あれ、あれれ?
その
全然甘かった。
「メンテ中で組み立て前の風力発電の内部ユニットに死体を詰め込むやり方も便利だったんですけどねー。気づかれなければ一八時間くらいぐりぐりごりごり回転運動で潰し続ける事によって、人体くらい髪も骨も肉も臓器もない完全ペースト状態にできたのに」
「……、」
「なのにうっかり死体を作り過ぎて
明日の犠牲者どころじゃねえ。
ていうか多分あれ、画面に映っているのは
「一三歳の質量くらいなら
テレビの放送終了後にちょっとえっちな映像が流れ出すどころじゃねえ!?
「清掃ロボットは中古ならネットで購入できるから、この辺りで即決かなー?」
「……、」
「……人間くらい全方向から押して潰して清掃ロボットの中に丸ごと詰めちゃえば違和感なんて分かりませんし、後はゴミ処理関係の溶鉱炉にでもぶち込めば一丁上がり、と。うーっ。リサイクル活動に熱心な
「ッッッ!!!???」
まったく、自分が向かう末路なんて断片であっても聞き取るべきじゃない。このまま進んだらなんかもう口裂け女やひきこさんの犠牲者より悲惨な死に方になりそうだ。
万に一つも、脱出で手間取る訳にはいかない。
事を起こす前に、ドアまでの距離や
でもさっきも言った通り身をひねって
だとすると、
(すっ、スマホ……)
スカートのポケット、そのわずかな重みが妙な存在感を放ってきた。
(そうだスマホがあればっ! 体全体をひねらなくても、腕だけ振ってドアのある方を撮影すれば
ヴぃーっ!! ヴぃヴヴぃーっっっ!!
止まった。
当たり前の話は、だからこそ足場を崩されると一気に不安になる。だから
(だっていうのにとにかくうるせえッ!! あっ、ああ。気づかれる……。
どうすれば良い? ここから何か正解の選択肢とかあんのか!? 頼めば何でも答えてくれるこっくりさんとかさとるくんでもビビって様子見を決め込むんじゃないか、この状況ッッッ!!!!!!
とっさに出てくる豆知識がもうおかしかった。もっと真面目にお勉強しよう、と頭の引き出しが偏りまくった都市伝説マニアはこっそり猛省する。反省も何もバレたらここで人生終わりだが。
無言、であった。
デスクトップのパソコンまわりから再びこちらへ歩いてきた
ぱんっ、と。
軽く、腰の横を
反応したらおしまいだ。目を閉じて必死で震えを殺す
「あっ、しまった。素手で触っちゃいました。これじゃあ指紋が……」
「……、」
指紋。
端的に、自分の置かれた状況を再確認させてくれる不穏なワードだ。
「ま、どうせ全部消えてなくなるんだから構いませんか。永久に。残留思念の方も、ロボット使ってカーボクリーンで繰り返し磨けば読み取り不能になりますからね。こう、コンピュータを処分する前に何十回もランダム高速の書き込みしてハードディスクを潰していく感じで」
あっさりしすぎだ。
手慣れている感じが逆に怖かった。
とにかく
ややあって、
恐ろしく冷たい。
「……位置情報系はどうしようかな?」
頭になかった言葉だ。
「ここ数時間分のログをササッと消しておけば、授業中に電源を切ってそれっきり、っていう風に見えるかもですけど……」
一撃で
この手での分野で
(もうこの一七七支部、表に黄色い〈!〉の標識でもつけとけっ!!)