第二章 高嶺の華にギャップは用法用量を守って ①
「どうぞ、お茶です」
「あ、どうも」
彼女はそのまま机を挟んで俺の対面に座る
「それで……俺は生徒会に誘われているってことでいいんですか?」
「正確には強制的に所属させようとしているんだけどね」
つまりは、生徒会役員への従属。
いくら生徒会副会長とはいえ、一般生徒をどうにかするなんて権限は持ち合わせていないと思うのだけど。
「もし断るなら、今度こそあなたの恥ずかしい写真を撮って脅しの材料にさせてもらうわ」
「だから、それじゃ俺に対する脅しにはなりませんよ?」
「そうだった……」
なんだろうか、この人から漂う苦労人感は。
「……
「そうね……お願いしていい?」
「はい」
ひよりが部屋を出て行くのを見送って、
「……詳しく説明するわね」
「あ、はい、お願いします」
「まず、どうして
「え? 急にどうしてそんなセクハラを?」
「そういう話じゃないわ」
違ったか。
「じゃあ、えっと……
「あの子の名誉のために言っておくけど、それも違う」
「残念」
「さっきから色々と正直過ぎないかしら」
「それが俺のいいところだと思っているんで」
俺は女性に
紳士である俺は女性の前では常に正直者でいたいのだ。
「で、
「……ポンコツなのよ」
「ポ、ポンコツ?」
「そう。それも超が付くほどのね」
ポンコツ、つまりは間が抜けているというか、天然が入っているとか、そういう意味で使われることが多い言葉。
本来は壊れた機械などに使われていた言葉だが、人間に対してもあまりいい言葉としては使われていない。
どう考えても
「あの子はね、勉強はすごくできるの。運動もできるし、カリスマ性だって高い。はたから見てもそう思うでしょう?」
「そりゃまあ……」
そう、それが
勉強だって常に学年上位三人以内に入っていると聞いているし、その完璧超人っぷりは他者の追随を許さない。
「でもね、ポンコツなのよ」
「……」
普段のイメージがあるせいで、
しかし
そんな人が言うのだから、誰の言葉よりも信用できる。
しかも
となると、もう疑う余地がないわけで────。
「その……どうポンコツなんですか?」
俺がその言葉に疑問をこぼしたのと同時に、生徒会室の扉が開いた。
部屋に入ってきたのは、話の中心人物である
「
「ありがとう、ひよりちゃん。
「どうも、
「おお、君は
「まあ、ちょっと色々ありまして」
「ふむ。ともかく歓迎しよう。我が生徒会室でゆっくりしていくといい」
ずいぶん歓迎してくれているようだけど、
「ねぇ、
「ん? ああ、そうなんだ。昨日は水泳の授業があっただろう? だから着替えの手間を省くために制服の下に水着を着て学校に来たんだが、帰りに
「……何か困ったことがあれば、私を頼ってって言わなかったっけ?」
「……あ」
「あ、じゃない! もう! 他の生徒に見られたらどうするつもりなの!?」
「大丈夫だ。ここにいる
「見られてるじゃないの!」
ここで俺は、
その正体は、もちろん彼女が群を抜いて優秀な人間という部分も大きいけれど、今目の前のやり取りがすべてを表しているように思えた。
「……
「ええ……そうよ」
水泳の授業に替えの下着を忘れる。
そんなのは別に珍しい話ではない。
そう、確かに珍しい話ではないのだが、
常習犯ともなればなおさらまずい。
「
「はい。年に一度の会長選挙ですよね」
「そう。生徒会長は、立候補した人間、または推薦された人間から全校生徒による選挙によって選ばれる。だからこそ、生徒会長となった人間は全校生徒の模範となる存在でいなければならないの」
「つまり、パンツを
「そう、パンツを
「いえ? 話をしていただけです」
そんな、この俺が下着をパンツって言い換えてわざわざ
「でも下着ってちょっと言い方がお上品過ぎる気がするんです。できれば皆パンツって口に出して言いましょうよ!」
「
「あれ、まず殺すところから始まってない?」
顔面に深々とひよりの拳が突き刺さる。
ありがとうね、いつもの愛情表現。
「おい、ひより。あまり暴力はよくないぞ?
「ああ、いいんです。こいつはこれが好きなんで」
「何? そうなのか。じゃあこのままでいいか」
「はい、放っておいてあげてください」
待て待て待て。
俺はすぐに陥没した鼻を摘まんで引っ張り出し、抗議の声を上げた。
「待ってください! 一応いつも痛いんですから! 俺はMっ気はあんまりないんですよ!」
「全然ないってわけじゃないならいいじゃないのよ」
ごもっとも。
痛いところを突かれたね。正拳突きだけに。
「まあ、俺のことはいいんです。それより
「〝俺〟の話にしたのはあんたでしょうに……」
ひよりの冷静なツッコミが刺さる。
いけないいけない。自分以外美少女しかいないこの部屋の空気が
これでは冷静な話なんてできやしない。
落ち着くためにも、ここで一つ深呼吸しておこう。
うん、やっぱり空気が
「……話を戻すわね?」
「ここにいる
「……まさか、不信任決議案が出ると?」
「そのまさかよ、
生徒会長の座に就く者が、その資格を持ち合わせていないと判断された際に突き付けられる決まり事────それが生徒会長不信任決議。
最終判断権を持つ教師によってこれが行使されてしまえば、