第1話 入学 ③

 この水晶は潜在能力を調べる水晶で、触れるとそのランクに応じた光を放つ。FランクからSランクまで七つの色に分けられていて、Sが赤、Aはだいだい、Bは黄、Cは緑、Dは青、Eは藍、Fは紫だ。


「あれ……? 箱がない……? 裏かしら」


 受付周りをアタフタ探しているお姉さんが小さくつぶやいた。


「ライセンス付与箱を持ってきますので、こちらで少々お待ちください」


 受付のお姉さんが慌ただしく、受付の裏に消えていく。

 待っている間に久しぶりに水晶に手をかざしてみる。

 水晶は──────黒い色に染まっていく。

 これが俺がレベル0と言われる所以ゆえんだ。

 潜在能力は色があるからこそ、ランク付けされるのだが、俺は黒色────つまり、色がないと判断され能力なし、レベル0というわけだ。

 それにその予想は正しく、俺のレベルはいまだ上がったことがない。

 そんなことを思いながら、水晶に長時間手をかざし続けていた。

 真っ黒な闇が水晶から不気味にあふれると、どんどん大きくなっていく。まるで俺の心を見透かしたように。

 俺はただただあふれる闇に複雑なおもいに駆られていた。

 レベルが0から上がらないという絶望を示す闇。

 あふれてくる闇にどんどん飲み込まれていく。部屋中が闇に巻き込まれているとも気付かずに。




「お待たせしまし────あれ? 誰もいない? もしもし~あれれ? さっきの生徒さん……帰っちゃったのかな?」


 彼女は誰もいなくなったカウンターで大きくためいきいた。


 ◆


「う、うわあああああああああああああ!」


 地獄に落ちる────という言葉を思い出すくらい、真っ暗なところから落ちていく感覚。

 一体何が起きているんだ!?

 たしか、受付で水晶に触れていたはずなのに、気が付けば暗闇の中、ただただ落ちている。

 何も見えない。全身に感じるのは高い場所から落ちていく感覚だけ。


「な、何だ!?」


 急に足首をつかまれる感覚から、足元を見つめるけど、暗闇で何も見えない。

 次の瞬間。視界が一気に広がる。

 落ちていると感じていたのだが、ちゃんと地面に立っていた。


「こ、ここはどこだ!?」


 必死に周囲を見渡してみても、薄暗い景色で遠くがよく見えない。空の上には星々が輝いているので夜っぽいけど、全体的に霧がかかった景色に思わず息をんだ。

 さらに追い打ちをかけるのは、はるか遠くにお城のようなものが見える。現実からあまりにもかけ離れた風景にあつられる。


《困難により、スキル『ダンジョン情報』を獲得しました。》


 えっ!? ダンジョン!?

 そ、そうか! この不思議な景色はダンジョンの中だったんだ!

 覚悟はしていたのだけれど、初めて入るダンジョンに何もかもが不安で仕方ない。


《スキル『ダンジョン情報』により、『ルシファノ堕天』と分析。》


 ルシファノ堕天? このダンジョンの名前か? そんな名前は聞いたこともないけど、俺が向かうはずだったEランクダンジョン117ではないのか?

 ダンジョンは全て数字で管理されているはずなのに、ここには名前が付いている?


《困難により、スキル『周囲探索』を獲得しました。》


 今度は何だ!?

 声が聞こえた直後から、か周りがより手に取るように分かる。

 そこで感じるのはあまりのまがまがしさ。耐えられないかんが俺を襲う。あまりの衝撃に、その場に自分の胃の中のものを吐き出した。


《困難により、スキル『異物耐性』を獲得しました。》


 また……また新しいスキルというのを獲得したんだ。そもそも『スキル』って何だ? 聞いたこともないぞ?

 その時、かんとはまた違う痛みを感じた。

 全身を襲う激痛に、声すら出せずその場に倒れた。


《困難により、スキル『状態異常耐性』を獲得しました。》


《困難により、スキル『状態異常耐性』が『状態異常耐性・中』に進化しました。》


 だ、誰か…………助けて…………。


《────『状態異常耐性・大』に進化しました。》


《────『状態異常耐性・特大』に進化しました。》


《────『状態異常無効』に進化しました。》


 頭に不思議な言葉が何度も鳴り響いて、俺はそのまま気を失った。

刊行シリーズ

レベル0の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です3 ~探索ランキング1位は謎の人~の書影
レベル0の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です2 ~探索ランキング1位は謎の人~の書影
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