第2話 初めてのダンジョン ①
目が覚めたらベッドの上────であってほしかったけど、やっぱりダンジョンの中だった。
ダンジョンの中で気を失ったらほぼ死ぬと聞いていたのに、どうやら生きているようだ。
というか、気を失う前に色々スキルを獲得したという変な声が頭に直接響いていた。
あれは本当だったのだろうか?
《困難により、スキル『スキルリスト』を獲得しました。》
ん? スキルリスト?
すると目の前に不思議なウィンドウが現れる。
映画とかで見たことがある宙に浮いたウィンドウで、どうやら俺の視界に張り付いてるみたいで視界を動かしてもウィンドウは全くズレない。
そこには七つのスキルが書かれていた。
『ダンジョン情報』『周囲探索』『異物耐性』『状態異常無効』『体力回復・中』『空腹耐性』『スキルリスト』の七つだ。
おそらく俺が倒れている間に『体力回復・中』『空腹耐性』を獲得したのだろうな。
ということは、俺が倒れていても、俺の意思と関係なくスキルを獲得するんだ。
一眠りしたからか、頭がすっかり
ひとまず冷静に現状を分析する。
俺はなぜか分からないが、ダンジョンの中に入れたのだと思う。
その証拠にダンジョン情報によって、このダンジョンの名前が『ルシファノ堕天』というとこまで分かっている。
次は、何かが起きる度にスキルというのを獲得していることについて。
これはとても便利で、中でも『空腹耐性』のおかげなのか、気を失って起きたはずなのに空腹感がまったくない。
さらに『周囲探索』のおかげなのか、周りが認識できるようになった。これはとても不思議な感覚で、第二の自分がパソコンの画面から俺を中心としたマップを見てるかのような感覚。何とも言えない感覚だけど、おかげで周囲の状況が手に取るように分かる。
気絶していたのに無事だった理由としては、たまたま周囲に魔物がいなかったからだ。
それと空気に『絶大毒素』『絶大
獲得したスキル『状態異常無効』がなければ、死んでいたと思うとゾッとする。
ということで、この安全圏がいつまで安全なのか分からないので、道を進もうと思う。
ひとまず出口は見あたらないので、出口を探しながら進んでみよう。
暗闇にも少しずつ慣れてきたが、霧のせいか中々目視はできないな。不思議と空に浮かぶ星々や遠くのお城は見えているんだがな……。
《困難により、スキル『暗視』を獲得しました。》
うわっ!?
急に視界が緑色に変わって、めちゃくちゃ見晴らしがよくなった。
これなら歩きやすいし、岩とか魔物とか目視できそうだ。
後方には道がないので、前方に続いている道を慎重に歩き始める。
昔、ダンジョンに興味があった俺は『ダンジョン入門書』というのを読んでいた。
ダンジョンにはトラップと呼ばれるモノがあって、踏むと魔法が発動して飛ばされたり、大爆発が起きたり、様々なデメリットが発生すると書かれていた。
目視でトラップを見分けることは不可能って書かれていたので、ダンジョンを進むのが少し怖くなるが、トラップは低難易度ダンジョンにはほぼ出てこないと書かれていたので、ここがEランクダンジョン117なら問題なさそうだ。
それでも心配なのでゆっくり進むと、小さな池が見えてきた。
『空腹耐性』があるものの、喉は渇いたので水が飲めるのは非常に助かる。
近づくと、直径三メートルくらいの小さい池で、
それにしても暗視のせいなのか、池の色が変に見えるけど、喉を潤したい一心で池の水を手ですくって飲み始めた。
…………めちゃくちゃ変な味がする。
喉が渇いていなかったら、とても飲みたいと思えない味だ。
《危機により、スキル『体力回復・中』が『体力回復・大』に進化しました。》
は? 危機!? どうしてだ!? 周囲探索で敵っぽいものは全く見当たらなかったんだけど!?
周りを
もしかして虫型か?
全身を探してみても、小さな虫は見つからない。
…………となるとだ。もしかして、この池の水か?
たしか、変な味がしていたんだが…………。
俺は恐る恐る池の水をすくって、隣の岩にかけた。
ジュワッ────と音を立てて岩はみるみる溶けて跡形もなく消え去った。
「ええええ!? この池の水って猛毒だったのかよ!」
思わず、溶けた岩に向かってツッコミを入れてしまった。
普通の湧き水だと思って飲んだけど、状態異常無効がなかったら…………。
ダンジョン内ではもっと慎重にしなくちゃいけないと改めて思った。
猛毒の池の水はもう飲まないことにして、さらに道を進む。
両脇が大きな山になっていて、道が段々細くなった。とてもじゃないが、山を登れるとは思えない。絶壁に近いからだ。
道が曲がりくねっていて、山に
俺は岩の陰に隠れて、恐る恐る進んでいき、その存在を遠目から確認する。
そこにはゲームやアニメに出てくるような恐竜ティラノサウルスに似た魔物が、恐ろしい
ダンジョンは命懸けとよく聞いていたが、その理由がようやく分かった気がする。
スライムやらゴブリンやら最弱魔物から戦って徐々に強くなるのが普通だというのに、ティラノサウルスは見た目だけでも超強力魔物なのが分かる。
この先を進むにしても一本道しかない。
さすがに戦えるはずもないので、ティラノサウルスがいなくなるまで一旦引き返そうとしたその時。
俺は足元にある木の枝に気付かず、踏んでしまった。
バギッ────と静かな周囲に木の枝が折れる音が鳴り響く。
もちろん、ティラノサウルスの鋭い眼光がこちらを向いたのは言うまでもない。
これはまずい!
そう思った時には、既に来た道を全力で戻っていた。
しかしティラノサウルスは俺を見逃すはずもなく、巨大な
巨体が走る音が段々と近くなって、全身から
《危機により、スキル『速度上昇』を獲得しました。》
言われなくても分かるわ!
あんな巨体の魔物に踏まれたり
ただ、速度上昇を獲得したおかげで、走る速度が明らかに上昇した。
それでもティラノサウルスを
《危機により、スキル『速度上昇』が『速度上昇・中』に進化しました。》
《────『速度上昇・大』に進化しました。》
《────『速度上昇・特大』に進化しました。》
《────『速度上昇・超絶』に進化しました。》
少しずつ距離が離れていくのを感じる。明らかに俺の走る速度が速くなっている。
気付けば、完全にもといた道に戻ってきていて、池がある場所にやってきた。
もちろん速くなったのはいいことだ。これならあの巨体からも逃げられるだろう。
だがしかし、それも逃げ道があればの話だ。
獲得したスキルのおかげで距離を離せるようになったのに、まさか逃げ道がもうないという現状に絶望が訪れる。
振り向いた俺の視界に映ったティラノサウルスは、そろそろ食べられると言わんばかりに
く、くそ……このまま戦うか? でも俺に戦うことができるのか?
こんなところで死ぬわけにはいかないので、ティラノサウルスと戦う覚悟を決める。
何となく俺がピンチの時に新しいスキルを覚えるから、あのティラノサウルスと戦えば、何かしらの新しいスキルを獲得するかもしれない。
そう思うと、自然と口角が
グルァァァァアアアアア!
目の前で大きな
いやいやいやいや! いくら何でもこんな魔物を倒すとか無理だろう!
ティラノサウルスが勢いよく跳び上がり、俺を踏みつけようとする。
それを横に跳んでギリギリ避ける。
ティラノサウルスが一歩一歩大地を揺らす中、俺は必死になって避け続けた。
何とかしなければ、このままでは死んでしまう。
そう思いながら無我夢中で避け続けているうちに、ティラノサウルスがこちらに跳んでこなくなった。
「ん? どうした? もう疲れたのか?」
俺もずいぶんと息が上がっている。このままでは
《危機により、スキル『持久力上昇』を獲得しました。》
これは助かるっ……!
少し上がっていた息が正常に戻った。
これなら持久戦に持ち込んで、位置を変えて逃げ切ることもできるかもしれない。
それにしても、ティラノサウルスがこちらを
一体どうしたんだ…………?
その時、俺の後ろから水の流れる音が聞こえた。
水?
周囲探索で周囲を確認すると、ちょうど俺の後ろに先ほどの猛毒の池があることに気付いた。
あれ? もしかして、ティラノサウルスもこの猛毒は怖いのか?