プロローグ おすそわけ ③

「聞きちがえたかな? なんか先生とも言われたような……?」


 彼女は油を差しそびれたロボットみたいにぎこちない動きで、ゆっくりと俺の方をかえった。けいかいするようにこちらを見つめる。


「先生のクラスのにしきゆうなぎです。こんばんは」


 俺は誤解を解くためあわててフルネームで名乗る。


「ニシキユウナギ?」


 彼女はカタコトになりながら俺の名前を復唱する。


「今きようたくの前に座っている男子です。先生、わかりません?」


 申し訳なさそうにしようかいを加える。

 すると彼女はぐっと顔を近づけてきた。


「あの、てんじよう先生。なんか、近くないですか」


 れいな顔がいきもかかりそうなきよにあってまどってしまう。

 しようを落としていようとも美人は美人である。

 きんきよから大きなひとみでジッと見つめられて、俺は息をするのも躊躇ためらわれた。


「────ッ、にしきゆうなぎ!? え、にしきくん!!」


 俺の正体に気づいた先生がよろけるように飛び下がる。勢い余って、彼女のサンダルの片方がげてしまう。


「え、先生、サンダルが……」

「ひ、ひとちがいですッ!!」


 転がったサンダルに構わず、てんじよう先生は自分の部屋にげこんだ。

 どこにいても彼女のかがやきがかすむことはない。

 れてしまうまぶしいがお、息をむほど美しい容姿、元気をくれる明るいふん

 そんな太陽のような美人をちがえようもない。

 おすそわけに部屋を訪ねてきたおとなりさんは──俺の担任であるてんじようレイユだ。