Ⅰ 阿頼耶識 ④

 しきにとって、これはラディアータとの約束に折り合いをつけるためのなのだ。


 りんはそのことをいた。

 そして一番の高笑いを上げる。


「ハッハッハ! こりゃってレベルじゃねえな!」


 それは他の受験生たちにもでんする。

 クスクスとひかえめだったちようしようが、じよじよに大きくなっていった。

 せいけんがないのに、せいけん学園を受験する?

 それはちょっとちがうんじゃないですかね。

 当然のようにせいけんを持つものから見れば、それはわかりやすいほどに明確な格差だ。

 いつしゆんしきを自分たちより格下だと区分けした受験生たちは、えんりよのないけいべつの視線を向ける。

 それはしきに、痛いほどにさった。


「…………」


 それでもしきは、木刀を手にした。

 そして中段に構える。

 周囲のちようしようが一層、強くなったのを感じる。

 それでもいい。

 元からはじをかく結果になるのは承知していた。

 散々、周囲から止められた。

 せいけん使いでもないのに、せいけん学園は無理だと。

 それでも受けた。

 いつかせいけんが宿ったときのためにときたえ続けてきたけんじゆつうでがあれば、それでもいつむくいることができるはずだと思っていた。


 たとえせいけんが宿らなくとも、へんりんでも見たかった。


 ……しかしまあ、だからと言って何なのだ。

 全員が等しく願いをじようじゆできる世界というものは、やはりせいけん社会でもあり得ない。

 しきの最後のきは、いともたやすくらいげきかれた。

 せいけん社会に愛されたりんは、無能なるしきへの興味など、もうこれっぽっちも持ち合わせていない様子であった。


「暑苦しいって言ってんだろ。キメェな」


 虫でもはらうときのような冷たいひとみだった。

 りんは終わったとばかりにステージを降りようとする。

 おそらく彼の人生において、しきはすでに過去のもの。

 自分の成功談を引き立てるスパイスにもならないぼんようなものとして処理されていた。



(やっぱり無理だ……)



 しきふるえながら、木刀に手をばしている。

 しかし木刀にれても、すぐに取り落としてしまう。



いつしよに世界で戦おう』



 ラディアータとわした約束だけを目標に生きてきた。


 でも、その約束は無情についえた。


 自分はせいけんが宿らなかった。

 自身が追いつく前に、ラディアータは不幸な事故で引退した。


 いつしよに世界で戦うことは、もうかなわない。


 ならば。

 せめてこの一戦だけは勝利し、自分の価値を証明したかった。


 せいけんさえ宿れば──と。

 ラディアータがあたいした人間だと、自分を認めたかった。


 でも、それもできなかった。


 何も成し得なかった。

 自分はに求められていない。



(俺はだ……)



 すでに本能が、戦う意志をほうしていた。


 そもそも、とっくに試験は終わっている。

 周囲の受験生たちの冷たい視線が「はやく退けよ」と言い捨てるようだ。

 しんぱんの教師が、試験を終了するために手を挙げる。


 終わりだ。

 しきうでは力を失い、くちびるむことをやめる。


 すべて終わりだ。

 そのことを、しきも認めかけたとき──。


「立て」


 りんとしてすずやかにひびいた美声は、観客席から降り注いだ。

 存在感のあるこわだった。

 それまでクスクスと笑いながらスマホで動画を撮っていた受験生たちも、いつしゆんでそちらに目をうばわれる。


 ラディアータ・ウィッシュがいた。


 観客席の中段。

 数人の教職員に囲まれて、確かにいた。

 しきは目を疑った。

 なぜ、彼女がここに?

 いつからそこに?

 何かのちがい……いや、あの容姿……先日の世界グランプリのときとまったく同じだ。

 それでなくとも、彼女の姿はしきにとってはまぶたに焼き付くほどきようれつな思い出だ。

 周囲の受験生たちもこんわくの声を上げた。


「ラディアータ?」

「なんでラディがいるの!?」


 やがてすさまじいけんそうと化した会場を、しん員の教師がマイクで