第一章 ファミレス同盟 ③
それを言葉にするならば、『孤高』というところだろうか。
クールで、そっけなくて、だけど
それが俺の中で思い浮かべる
彼女の方から誰かに話しかけた姿を見たことがない。……とはいえ。俺も
それ以外はこのファミレスぐらいでしか見たことがないし、俺が見た範囲では友人と談笑している様子はおろか電話すらもしていなかった。例外があるとすれば、店員さんに注文をする時ぐらいだろう。
「……それって、俺に質問してる?」
「他に誰がいるの」
そりゃそうだ。
「……ああ、ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど。見てた動画が終わってヘッドフォンを外してたら、聞こえてきちゃって」
「いや、こんなとこで電話してた俺も悪いし……」
そもそも
「家族仲だけど……母親とは……そんなに悪くない、かな。良好な親子関係だとは思う」
「母親とは、ね」
思わず、「しまった」と内心で冷や汗をかいた。
この言い方だと「母親以外とは仲が悪い」と白状しているようなものだ。
厳密には新しい父親や義妹との関係は悪いというわけではない。向こうから歩み寄ろうとしてくれていることは伝わっているし、それに俺が応えられていないだけ。
しかし、
今のは俺の不注意だったとはいえ、きっちり拾ってくるとは。
「ほんとごめん。急に変なこと聞いて」
俺の警戒心が
「別にいいよ。母親以外と微妙な関係なのは事実だし」
「そっか」
それから数秒ほど無言が続いたが、またすぐに
「…………私さ。家族とあんまり
「えっ?」
彼女にとっては地雷だと思っていた家族に関する話題が出てきたので、思わず驚きの声を漏らしてしまった。そんな俺の反応を見て、色々と察したのだろう。
「さっき、家族のことで質問しちゃったでしょ。私だけ踏み込むのは公平じゃないし」
「別にそんなこと気にしなくていいだろ」
「そういうの私が気にするんだよね。
「あ、それ俺も」
同意の言葉が反射的に、口をついて出てきた。
「そうなの?」
「自分の家でさえ持て余してるのに、他人の家にまで口を出せる余裕なんてないだろ」
「あははっ。理由までおんなじだ」
────
思わずそんなことを考えていた自分に、一瞬遅れて驚いた。だけど、
「へぇー……そっか。
「あれ? 俺の名前……」
「知ってるに決まってるじゃん。クラスメイトなんだから」
意外だな、と思った。
俺から見た
…………俺は俺で、まだ名前を
「それに、行きつけのファミレスに、いつも決まった席にいるやつがクラスメイトだったら、嫌でも覚えるでしょ」
「ああ、それは確かにそうだな」
仮に
いつも同じ席にいる、いつものあの子。それがクラスメイトだったら印象に残るだろう。
「……じゃあ、この店に通ってる理由も同じか」
「そーだね。たぶん、同じだと思う」
「「家に居づらいから、店で時間を潰してる」」
せーの、でタイミングを合わせるまでもなく、俺たちの言葉は完全に一致した。
思わず噴き出してしまう。そしてそれは、
「気が合うじゃん」
「そうだな。気が合う」
思わず笑いが
「お待たせいたしました。チョコレートアイスになります」
そのタイミングで、注文したアイスが運ばれてきた。
「きたね。アリバイ作りのデザート」
「無駄な出費だと思うよ。我ながら」
「無駄じゃないでしょ。私たちにとっては心の安寧を買うための必要経費じゃない?」
「……ほんと、つくづく気が合うな」
その後も、チョコレートアイスを完食するまで
スプーンを持った手よりも口を動かし続けていたせいだろうか。食べる速度よりもアイスが溶ける方が速かった。正確に時間を計測したわけじゃないから分からないが、食べ終えるのにいつもより時間がかかった気がする。
「俺、そろそろ帰るわ」
「そ。だったら、私も帰ろうかな」
伝票を持って二人で立ち上がりレジに並ぶ。今度はかち合って譲るようなくだりは発生しなかった。店を出ると、当然のことながら日は沈んでおり、包み込む闇に
「せっかくだし、家まで送ってくれない?」
その提案の意味が分からないほど鈍くはない。
「帰宅時間が引き延ばせて助かる」
「どういたしまして」
いつもの家路とは正反対の道を、
見慣れないアスファルトの道。見慣れないビル。昨日までなら通りかかることもなかったであろう道を、こうして
……ああ、まったく。本当に不思議だ。
昼間までは
俺なんかとは違う世界の人間だと思っていた。
今日も明日もこれからも、特に関わることのない人間だと思っていた。
だけど今は、こんなにも近い。
おこがましくも、彼女のことをとても身近な人間だと思える。
それはきっと────
家族とあまり
家族という、死ぬまで逃れられない呪縛に
俺と同じ人間がいた。そのことに、とても安心しているんだ。
「
「さっきも電話で伝えたみたいに、バイト帰りに飯食ってるとか、バイトで疲れたから休憩してたとか……色々だな」
「でもそれ、さすがに毎回だと厳しくない?」
「実はそろそろ限界かなと思ってる。参考までに
「『私の勝手でしょ』で押し通してる」
「強いなぁ……」
「こうでもしないと、やってらんないから。昔からそうなんだよね。普通に昼間に出歩いてても、向こうは私が変なことしてるんじゃないかとか、疑ってくるようなことばっかりだったし。基本的に信用されてない感じ。まあ、トラブルに巻き込まれたら、お姉ちゃんに迷惑がかかるから仕方がないけど」
夜に出歩いているから信頼を
信頼されてないから、こうして夜まで家の外にいるようになった。
……それなら確かに、無理やり押し通すしかなくなる気がする。
「そっちの方が大変そうだな」
「かもね。けど、家に居づらい気持ちは一緒じゃん?」
「そこには同意する」
「
「そうだな。明日もバイト入ってるし」
「ふーん。そっか……」
「だったら、提案があるんだけど」
「提案?」
「どうせなら、今日みたいにお