第一章 ファミレス同盟 ④

 なるほど。確かに今日、話してみて意外と気が合っていたのは事実だ。

 それにいつもより時間が過ぎるのが早く感じた気がする。

 ……正直、数時間も一人で時間を潰すのもこれはこれで大変だったりする。話し相手がいれば、一人でSNSやサイトの巡回をしたりするよりも有意義な時間を過ごせるかもしれない。


「それに……なるになら、話せそうだからさ。愚痴とかも」

「愚痴? 何の」

「色々だよ。学校のこととか、プライベートのこととか────家族のこと、とか」


 言われて、思わず噴き出してしまった。


「家族の愚痴か。いいな、それ」

「なんでウケてんの」

「ごめん。そういう発想はなかったから」


 家族に対する後ろめたさ。居づらい家。

 たまになつに話したりはするけれど、やっぱりそれでも言いづらさはある。

 愚痴として存分に吐き出すことができる相手なんて────家に居づらいという気持ちを共有できるみやぐらいしかいないだろう。


「愚痴を言い合って、聞くだけ。それ以上、先には踏み込まない……っていうのはどう?」

「うん。いいな。俺たちのスタンスにも合ってるし」

「そっか。じゃあ、決まりだね」

「おう。同盟締結だな」

「同盟か。いいじゃん、それ。せっかくだし名前でもつける?」

さつちよう同盟みたいな?」

「なんでさつちよう同盟?」

「何となく浮かんだ。前世は幕末にでもいたのかもしれん」

「幕末て」


 みやはふっと小さく噴き出した。


なるって思ってたより面白いやつだね」

「まあ、幕末は置いといて、俺たちの同盟に名前をつけるとしたら……ファミレス同盟、とか?」

「いいんじゃない。シンプルで分かりやすくて」


 ファミレス同盟。俺たちの関係を一言で表すラベルができたことで、この状況がしっくりと来るようになった……気がする。


「ここがうち


 店を出てから五分もかからずの場所にあるタワーマンションの前で、みやの足が止まった。


「ありがとね、送ってくれて」

「どういたしまして……ってか、すっげ。いとこ住んでるんだな」

「居心地が悪いから、あんまり意味ないけど」

「そりゃそうか」

「そうだよ」


 スマホで時間を確認してみると、時刻は二十二時を越えていた。

 ここから帰るといつもより帰宅時間は遅くなることは間違いない。


「帰ったら何か言われそうな時間だな。言い訳としてはどうする?」

「私の場合は『ファミレスで友達とおしやべりして、帰るのが遅くなった』……かな」

「ついでに俺の方は『女友達を家まで送って遅くなった』……ってところか。そっちは『帰りは友達と一緒だから変なトラブルに巻き込まれる心配はない』も付け加えたらどうだ?」

「いいね。それ採用」


 無論、二人だからといって安心はできないし、絶対にトラブルに巻き込まれないとは限らない。だが、夜遅くに女子高生が一人で歩いているよりはマシ。……そんな理屈を、いちいち説明する必要はないだろう。


「最後に連絡先交換しとかない?」

「確かに。必要になるかもしれないしな」

「必要なら電話でお母さんに説明してあげようか」

「やめてくれ」

「冗談に決まってるでしょ」


 みやってこんな冗談もとばせるんだな。

 そんなことを考えている間に、連絡先の交換が終わった。


なるってアイコンの画像、設定してないんだ」

「特にこだわりとかないからな。みやは……」


 メッセージアプリにみやはくのアカウントが追加される。名前の左横に表示されているアイコンは、真っ白な猫が映っていた。


「……猫、好きなのか?」

「好きだよ。飼ってみたいけど、ママが許してくれないから動画で満足するようにしてる」

「教室とかファミレスでいつも見てたのは猫動画か」

「猫動画は家でしか見ない。顔、緩んじゃうから」


 あの拒絶たっぷりのクールフェイスが緩むところか。ちょっと見てみたいな。


「教室とかファミレスで見てるのは映画」

「へぇー。オススメとかあったら教えてくれよ。部屋に引きこもる理由がほしい」

「オススメか……分かった。家に帰ったら何か考えとく」

「ありがとな。……んじゃ、この辺で解散するか」

「……だね」


 まだしやべっていたい。みやも同じことを考えていたのか、どこか名残なごり惜しい空気が流れる。


「じゃあ、おやすみ。なる

「ああ。おやすみ、みや

「「────明日の放課後、いつもの店に集合で」」