始 化け物 ②
巨大な龍の形をした炎は、高さにして数メートルはあった。もはや消火活動も意味をなさない中、少年少女は熱さに耐え顔を上げる。
そのうちの一人、大人びた顔付きの少年は、炎が出現したあたりの空間をじっと
「……化け物め」
二本の触覚を頭から生やし、顔は黒く塗り潰されていて見えない。二足歩行で、一見普通の人間と大差ない姿をしているが、体長は三メートルを超え、
明らかに自然界には存在しない生物だ。先程の炎を撃ったのもこの
その
「こちらは問題ない。……各員、状況を知らせろ」
『おう隊長。こっちは無事だ』
『私も無事だよー。あっついけど当たってない』
数人の声が返ってきて、少年はホッと息を吐く。声の調子から考えても
通信の向こうから、少しふざけた声が聞こえる。
『いやぁしかし相変わらず
『やっぱりあれ
『
『おー、じゃあ今日はしっかり楽しめそうだなぁ』
その声にやめろ、と少年は軽く制す。
「終電後とはいえターミナル駅だ。いくら人が少ないとはいえ、早めに片付けたい」
『冗談だっての。堅いなぁアズマは』
終電後の
「
鋭い瞳でそう言った少年の背後で炎が上がった。先程の化け物が発した炎だ。池袋駅で停車していた
今まさにホームを燃やし、それ以前に何人もの乗客を死に追いやった、その化け物の名は。
「《勇者》……」
【シャアアアアアアアアア!!】
「時間がない。──最低でも五分以内に仕留めるぞ」
それぞれ返事が戻り、彼の作戦指揮のもとに少年少女は作戦を開始した。
【ガギィイイァ! アアア──ゴギグアア──】
「
誰に言うでもなく、アズマは
全員が警戒する。その「何か」は渦を巻くように出現──水だ。直径が数メートルもある水の球体が複数、空間に出現していた。
その球体は形作られてすぐ、全員が予想した通り前方に射出された。全員がそれぞれに可能な回避を取り、水球はホームに衝突して反対側の線路を吹き飛ばす。
相当な威力がある水球らしい。
「警察が来るまで三分といったところか──それまでに片を付ける」
まるで泣き叫ぶように
「《勇者》は基本的に皆
『分かってる。あいつらの心臓部、でしょ』
砲撃音。
ほぼ同時に化け物の側頭部が吹き飛んだ。その隙にと、アズマは腰に提げていた刀をすらりと抜く。通信の向こうで少年の笑い声が聞こえた。
『ハハ、相変わらずお前のそれは見応えあるなぁ』
「
美しい──そして醜い刀だった。銀色の
一瞬目を
「『卵』は左胸前部、ちょうど人間の心臓に当たる部分」
『おっけー。アズマが近いね。
少年は誰よりも早く単身で突っ込んだ。瞳に映るのは明らかな異常を持つ化け物。
耳に届くのは、その心臓の鼓動。
刀を振り抜いた。少し遠い化け物の肉体に、的確に
【ギャア──アアアア!】
突き立てられた方は目を見開き、何かをかきむしるような動きをしている。
「さっさと死んでおけ。──誰かを殺すその前に」
【ダ、レ──ギ、ガ、ナニガ──】
最後に何かを言おうとする化け物の肉体から、構わず彼は刀を抜いた。およそ通常のものとも思えない刀の先端に、小さな球形の何かが刺されていた。まるで生き物のように
ザッ、と球形の心臓を踏み潰し、少年はその動きを止めた。
それと同時に
凡庸な、どこにでもいる高校生の顔だった。そんな「彼」に、少年は視線すらやらない。
憎らしく。それでいて無関心に──まるで最初から、そこに何もなかったかのように。
人間と《勇者》が分かり合うことなどありえない。
《勇者》とは