第一章 ⑤

 少女とて、その禁忌を知らないはずがない。だが、あふした言葉は止まらなかった。


『好きだから、君に生きてほしい』


 青年は、その身を貫く信仰によって何も返すことができなかった。


『そう』と少女はつぶやき、


『どうあっても、死ぬ気なんだな』と竜に問うた。


『……ああ』

『なら、私も一緒に死ぬ』

『しかし、君は……』

『この街に来てわかった。竜の味方は、世界のどこにもいない』


 だから、私だけは。


『私だけは、最後まで君の味方でいる』


 少女の顔を見て、青年は驚いた。

 さっきまで彼女の身を焼いていた怒りや、醜悪なぞう、許されない恋心、そういったものがそこにはなかったのだ。

 人はそれを悟りと呼ぶのかもしれない。あるいは諦めとも。

 竜には、その区別がつかなかった。


『君と一緒に永年王国へ行く。そこなら……君を愛しても許されるか?』

『ああ、永年王国であれば、きっと』


 永年王国には、あらゆる禁忌もルールも存在しない。真に自由な場所なのだ。

 人の国を後にする時、少女はものが落ちたような様子だった。

 今の少女であれば、きっと神はお救いくださる。

 そう思ったから、竜は少女とともに島へ帰り、いずれ訪れる滅びを共に迎えることにしたのだった。

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