プロローグ ③

「!?」


 バッ! と、高速でスカートの前を押さえるかえでが、鏡越しに見えた。


 彼女の顔は、耳先まで真っ赤っかだ。


 わたしたちが子供の頃には、わりとよく見た表情。


 大きくなってからは、まったく見なくなった表情。


 いつもなら、かえでの潔癖症をすこしでも刺激した瞬間、実力行使で黙らされるからな。


 か今日は、そうしてこない。無言で蹴りを入れてこない。


 どうしてだろう? ……いまのわたしが女だから?


「その姿で……破廉恥なことを言わないでください」


 かえでは赤面したまま、抗議してくる。


 抗議してくる──だけ。


 顧みてみれば……今朝のかえでは、わたしに甘い気がする。


 さっきからずっと椅子に座ったまま、まったく動こうとしないのも謎だ。


 がある?


 さっきかえでが口にしていた『取り込み中』というのはなんだ?


 というか、もしやこいつ……女の子には優しいの?


 つらつらと気になる項目が脳裏を流れる。


「ああ、もう」


 かえでいらたし気な声とともに、わたしの頭に布が降ってきた。


 手に取ってみると、ジャージだった。部屋着として、かえでがよく着ているものだ。


「それを着てください。中身が最低の愚かものとはいえ……年頃の女性を、いつまでもそんな姿で居させるわけにはいきませんから」


 腹が立つほどカッコいい。


 女性として扱われてみて、はじめて、妹がモテる理由を実感できた気がする。


「……ありがとう、かえで


 顔全体が熱い。はじめての感覚だった。わたしは奇妙なりをごまかすように、


「じゃあ……お言葉に甘えて」


 わたしは、ぶかぶかの寝間着を脱ぎ捨てた。


 瞬間、


「なっ──」


 驚くべき事態が発生した。


「ななな、なんでここで脱ぐんですか!?」


 かえでが、声を荒らげて狼狽うろたえたのだ。


「な、なんでって……」


 わたしはあまりの衝撃に、ぽかんとしてしまう。


「……着替えるために?」


「自分の部屋で着替えてください……!」


「美少女になった自分のはだかを、大きな鏡でじっくり見たいんだけど」


「へ、変態!」


 かえでは、クールでしいイメージをすべて投げ捨てるような勢いで、


「出ていってください! いますぐ私の前から消えてください!」


 涙目になって、わたしを扉に向かって、グイグイ押してくる。


 かえでにとって、よっぽどの事情があるのだと言わんばかりに。

「ちょ、ちょ、ちょっと……!」


 わたしは困惑しきりで、されるがままに────



「「あっ」」



 一目で。


 わたしたちは、すべてを察した。


 いまやわたしも、かえでも、同じものを見ていた。


「ぁっ……ぁっ……ぁぁ…………」


 かえでの美貌が、羞恥に染まる。


 きっとわたしも、同じような顔で、同じような声を漏らしている。


「……ぅ……ぅ……ぅぅぅ~…………」


 視線の先は、制服姿のかえで


 妹のスカート、その前部分が、



 見たこともないほどに、大きく盛り上がっていた。



 わたしは一瞬、ひゅ、と息をみ。


「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」


 かえでとともに絶叫をとどろかせたのである。



 わたしたちにとって、が続く日々。

 その始まりだった。

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