1章 ②
「遺伝子をいじって性転換させたのだ!」
すごいでしょ、のポーズで、ぺたんこな胸を張る
見ていてとても
「そ、そんなバカげたことができるはず……」
「できるとも! いつも言っているだろう──この超天才マッドサイエンティスト、
「……そうですか」
諦めたらしい。
「では、私たちに断りもなく、そのような施術をした理由は?」
「よくぞ聞いた! ひとつめは、崇高なる実験のためだ。人類の進歩のためだ。ヒトの遺伝子を操作し、あらゆる病や寿命を克服し、姿形・年齢・性別すらも自由自在、果てには生命創造さえ
さすが
普段のわたしなら、高らかに
「ククク、
「……………………………………」
今日は
妹は、ピキピキと表情を引きつらせながら、
「ひとつめ……ということは、ふたつめ以降があるんですね? それはなんですか?」
「ふたつめは……」
「愛する弟妹……つまり、おまえたちのためだ」
「わたしたちの……?」
「な、なぜ……こんな悪魔のような実験が、『私のため』になるというんです?」
そして、よく覚えていて欲しい。
なにせ『お姉ちゃんっ子』のわたしでさえ、理解不能で首をかしげたのだから。
「いや~、おまえたち、最近仲が悪そうだったから──」
善意しかないイイ笑顔で、邪悪なる科学者は、いたって無邪気に言い放つ。
「性別を逆にしてやったら、仲直りできるかなって♪」
「「どういう理屈!?」」
声を
我ら双子による、久方ぶりの共同作業だ。
「ふむ、さっそく効果があったようじゃないか?」
「ねーよ」
「ないです」
再び、今度は否定の言葉が
姉さんの言い草があまりにも意味不明すぎて、男時代の乱雑な口調が出てしまいましたわよ。
ただひとつだけわかったのは……本当に悪気はなかった、というコト。
姉さんの場合、悪気があるなら、堂々と『悪気があったぞ!』と宣言するだろうから。
だからといって、許せるかというとそんなわけもなく。
「そんな……そんな……わけのわからない理由で……っ!」
なのに
「ほんとにわからんの?
「まったく、一切、これっぽっちもわかりません」
「ありゃ~? ワタシにしては珍しく、
「は?」
「こりゃいかん、まったく伝わってないよーじゃないか。んじゃあ説明するけども、
重要そうな説明が突如としてシャットアウトされた。
「そんなどうでもいい話はやめましょう」
「ムグゥ……ムグゥゥ…………」
「やれやれ……
なぜか頰を紅潮させた
「そんなことよりも……」
「戻れるんですよね? 元の
「戻れないぞ?」
あまりにもアッサリとした返事だった。
わたしも
「…………………………えっ?」
ぽつり、と、
「……じ、自分に不可能はないって……」
「そのとおり、ワタシに不可能などない。ンンっ、こう言い直そうか──実験に満足するまで、戻してやらんぞ、と」
ホラな。
これ以上なく、イジワルそうな笑顔でだ。
「クックック……そうだなァ、十分なデータが集まるまで……少なくとも数年は、その姿で生活してもらおうか!」
「相変わらず性格が最悪ですね……! いますぐ戻してください!」
「やだ」
「くうっ……!」
歯を食いしばる
このふたり、わりといつもこんな感じで
今日のはさすがにやりすぎだ。
わたしは
「ぬあっ! ち、
両足をジタバタさせる
「
「べ、別に泣いてません!」
いまにも泣きそうじゃないか。
わたしは真面目な顔で、姉さんに向けて言う。
「実験なら、わたしがいくらでも付き合うから。
「さもないと? ふんっ、なんだというんだ?」
「嫌いになるぞ」
「…………えっ?」
「もう姉さんの好きなクリームシチューを作ってやらないぞ」
「クッ……ぐ……ぐ……し、しかしだな……せっかく苦労して……」
「もう二度と口を
「ぐぬぬぬぬぅ~…………!」
しばし悔しそうに
「……や、やむをえん……
「ふぅ……」
わたしは抱き上げていた姉さんを地上へと下ろしてやり、
「やっぱり姉さんは、優しくて
「ふふふふふ、まぁな! まぁな~!」
着地した姉さんは、くるりと反転して向き直るや、わたしの顔に指を突きつける。
「だが
……うーん。
「なぁ……
「ふんっ、こもっているとも、特大の恨みがな! おまえたちを性転換させた理由、その三だ!」
指を三本立てた姉さんは、ぽっと頰を赤らめて、
「
「は? なんの……いつの話だ?」
「八年くらい前かな」
「子供の頃の話じゃないか! そんなん覚えているわけないだろ!」
「ワタシはよーく覚えているぞっ! なぁにこのきゃわわな生き物ぉ~♡ って、衝撃を受けたからな!」
「忘れろそんな恥ずかしい記憶!」
「思い返せばあの頃から、
「おまえの初恋はワタシだろがー!」
「そんなこと言われても!」
どう返したらいいのかわかんないよ!
「だいたい、いまの話と性転換実験になんの関係が???」
「フハハハハ女の姿では、とても恋愛などできまいっ!」
「逆恨みか!」
「うるさいうるさいうるさぁい! この裏切り者め! ふんっ、
「美少女にしてくれてありがとう」
「ワハハハざまぁ! それが聞きたかっ────えっ、ありがとうって言った? 突然女にされたのに?」
「男だった頃からちっともモテてなかったし、よく考えたら別に状況は悪化してないなって。むしろ女になったことで、
「前向きすぎて怖……」
青ざめて
「つまり、わたしの夢は、いっさい損なわれていないってことだ。なにひとつ方針は変わらないってことだ。ふふふ、思惑が外れて残念だったな」
「ま、まさか
「そうだ」
「女の子の姿で?」
「そう、超美少女の姿で」
「女の子と?」
「ああ、モテモテ高校生活を送ってみせる!」
改めて我が夢を宣言すると、姉さんはしばし
「おまえ性別変わっても、なんっも変わっとらんな!」
そう吐き捨てた。