2章 ②

 過去回想を終えると、


「だ~か~ら~、原因を調べないとどうにもならんと言っているだろ~!」


「ふ、『不可能はない』って……あれだけ自信満々に言っていたくせに!」


 我が姉妹の口論は、まだ続いていた。


「ふ、不可能じゃないも~ん! 時間と準備が必要ってだけだも~ん!」


 などと子供のような言い訳をしつつ、末妹の剣幕にひるんでいるゆう姉さん。


「む~、こうなればやむを得ん」


 びしりと指先を相手に向けて、


かえで、おまえも実験に協力しろ!」


「なっ……」


「実験データが集まれば、いずれ完全に、女の身体からだに戻す方法も見つかるだろう」


「いずれ!? そんな……」


「それが元の姿に戻る、一番の早道だ」


「くっ…………ぐ………………!」


 わなわなと拳を握りしめ、立ち尽くしたまま歯を食いしばるかえで


「わかりました……それしか手がないのなら……私、なんだって!」


「ウム、素直でよろしい。んじゃあさっそく実験だ!」


 ぱぁっと笑顔になったゆう姉さんは、かえでの股間を指さして、


「まずは、その状態を治してみよう」


「……な、治せるんですか? 時間がかかると……」


「『確実に二度と生えないようにする』のには時間がかかるという意味で、再発前の状態に戻すだけならすぐにできると思うぞ」


「! 方法は……」


「それは………………」


 ゆう姉さんは、おもむろに腕を組んで、なにやら思わせぶりに考え込んだ。


 やがて口を開き、


「……あきに聞きたいところだな」


「えっ? わたし? なんで?」


 急に話を振られたわたしは、自分の顔を指差し当惑する。


「専門家でもなんでもないのに、なにを教えられるっていうんだ?」


 わたしの問いに、姉さんは、わずかに頰を赤らめながら、ぼそりとつぶやいた。


「でっかくなったちんちんを、ちっちゃくする方法」


「………………………………」


 ぜひとも一緒に考えて欲しい。


 これ、どう答えりゃいいの?


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~~~~」


 腕を組んでうなるわたし。


 悩める理由はもちろん『知らないから教えられない』ではなく。


『知ってるけど、めっちゃ教えにくい』である。


 わたしは、たっぷり三十秒以上悩んでから、ひとまずの時間稼ぎを試みた。


「……それで、その……ちいさくすると……戻るわけ? 完全な女の身体からだに」


 ションボリしたちんちんが残っちゃいそうな気がするんだけど。


「たぶんな」


 と、ゆう姉さん。


 時間稼ぎにもならなかったが、そう言われたら覚悟を決めざるを得ない。


「……いいだろう、教えてやろうじゃないか」


 重々しく切り出した。


「全長二十センチオーバーにまで巨大化した怪物……そいつをしずめる方法をな」


「変な言い方しないでください!」


 ストレートに言うともっと怒るじゃないか。


 わたしは姉さんを見て、いたって真面目な口調で言う。


「『困難だが確実な方法』と『簡単に試せるが確実ではない方法』があるんだが──」


「とーぜん確実な方だなっ!」


 そう言うだろうと思った……。


 わたしは、これから始まる会話をおもい、心を曇らせる。


「じゃあちょっと部屋の隅っこまで来てくれ」


「なになに? なんだというんだ……?」


 わたしは姉さんの肩を抱くようにして、かえでから離れる。


 そうして、おもむろにスマホを操作し、とある画面を姉さんに見せた。


「なんだ? これは?」


「わたしが所有しているえっちな本の電子書籍だ」


「高校生がこんなの持ってちゃだめだろー!」


「マッドサイエンティストにだけは言われたくない! わたしだって苦渋の決断だったんだぞ!」


「初恋のお姉ちゃんにこんなものを見せつけてどういうつもり???」


「口頭で説明するのがどうにも無理だから、マンガを通して教えようとしているんじゃないか。『こうするとちいさくなるよ』と──」


「は~~~~~~?」


 ゆう姉さんは、赤面しつつ『ちいさくする方法』を読み進める……。


 真顔で一言。


「だれがやるのコレ?」


「姉さんに決まってるだろ、元凶なんだから」


「無理無理無理無理! ぜ~~ったい無理ぃ!」


 半泣きで拒絶するゆう姉さん。


 いみじくも、えっちな本みたいな台詞せりふだった。


 我々のやり取り、えっちな本をぜんぜん読まない健全な方には、ま~ったく伝わらないかもしれないが……が! 補足説明などはしない……ご了承いただこう……。


 依然として半泣きの姉さんは、ぐすっと鼻を鳴らして、


「…………ち、あきがやれば?」


かえでに説明するのは姉さんだからな?」


「こんなんどう説明すればいいんだよ! 殺されるわー!」


「それがさっきまでのわたしの気持ちなんだって!」


 しばしそのままもめていると、


「あの……不穏な会話が漏れ聞こえてきて、すごく不安なんですが……」


「ひえっ!」


 急にかえでに声を掛けられて、びくっと肩を跳ねさせる姉さん。


「ななな、なんでもないぞっ! 困難な方法とやらがガチのマジで超困難だったから、違う方法にしようねっていうだけで……!」


「そ、そうですか……なるべく早くお願いします……その……苦しくて……」


 そりゃあ苦しいだろう。


 さっきから結構な時間、かえでの股間はフルパワーを維持している。


 実はひそかに期待していたのだ。


『そのうち自然にちいさくならんかな?』って。


 皆さんもよく知るとおり(万が一、よく知らないのなら申し訳ない)、ふいに大きくなってしまったときの基本的な対処法はこれだから。


 でもだめっぽい。


 一向に衰える様子がないよ。


「仕方がない……『簡単に試せるが確実ではない方法』をやってみよう」


「ど、どういう方法です?」


 かえでは『今度は私も聞きますからね!』と言わんばかりに、顔を近づけてくる。


「そうだな、幾つか方法は考えられるが……」


 今度のは、本人に言っても問題ないだろう。


 わたしは、うん、と、うなずいて、人差し指を立てる。


「目をつむって大嫌いな人の顔を思い浮かべるんだ」


「『大嫌いな人』………?」


「そう、見るだけでゲンナリしちゃうようなやつの顔を思い浮かべて……心を曇らせる。効果があるかもしれない。確実じゃあ、ないけれど」


 そんなソフトなアドバイスを、かえでは真剣に聴いていた。


 彼女は、わたしを真っすぐ見つめながら……しばし考え込んでいた。


 ギュッと両目をつむって、


「やってみます」


 大嫌いなやつの顔を思い浮かべているのだろう。


 興奮状態だったかえでの顔が、おそらくは怒りによって、さらにったように赤く染まっていく。


 やがて……。


「ど、どうですか……? 消えましたか……?」


 かえでの股間に、変化があった。


 あった、のだが……。


「…………………………………………」


 あまりの出来事に、わたしは返事さえできず絶句してしまう。


 代わりにゆう姉さんが、震える声でつぶやいた。


「な、なぁ……もっとでかくなってない?」


「は? そんなわ、け……」


 かえでは、目を開けるやそのまま硬直してしまう。


 りんみたいな顔色でだ。


 処置が完全に逆効果になるというわけのわからない状況で、ゆう姉さんは不思議そうに問うた。


「おまえ、いったいなにを想像して──」


「知りませんっ!」

刊行シリーズ

私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない(3)の書影
私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない(2)の書影
私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えないの書影