2章 ⑦
ふいに、わたしを巻き込む話題が始まった。
「それは……」
説明するのいやだなぁ……みたいな雰囲気で、
「
「一緒に暮らしてるんだ」
ごりっと集団に割り込んでいくわたし。
おもむろに
「姉妹同然の関係」
妹の肩に手を置いた。
「な、
「……………………」
なんで嫌そうな顔すんの?
ついさっきまで騒々しかった周囲は、わたしの登場とともに、しんと静まり返っている。
とうの
さながら、肩に付いたゴミを払うような仕草でだ。
でもって、
「この……
そんな意図が(わたしだけに!)ビシビシと伝わってくるような、言葉の選択であった。
フッ、照れ屋さんめ。
場は再び
「うわぁ~、美少女姉妹ってカンジ~♪」
「クラスに王子様とお姫様が
「エ~、なんで
などなど様々なリアクションが飛び交い始めた。
ちなみに、
女子高生、テキトーすぎんか?
「同じ名字の人がふたりいるから、どう呼び分けよっかーって迷ってたんだけど」
「『
放っておくとその通りになってしまいそうだ。わたしは慌てて、
「やめてくれ」
「えーっ、なんでぇ?」
「それは……えっと……
女子高生に
「だからわたしのことは、ぜひ
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
ぐえー、鼓膜破けそう。
わたしが続けようとした言葉は、女子高生たちの歓声によって、たやすくかき消されてしまう。
「『特別な呼び方』だって! えもーい!」
「じゃーあー、あたしたち下々のものは、
「よろしく
「……あ、あぁ……よろ……しく」
わたしだって『テンションが高すぎる』とよく言われる方なのに……。
集合した女子高生のスーパーハイテンションに付いていけない……。
抵抗むなしく、学校でのわたしの呼称は『
クラスの女子たちの好奇心は一向に衰えず、質問はさらに続く。
「入学式のときの挨拶、あれってどういう意味!?」
「彼ピ募集中なの~?」
「彼女でもおけみたいなこと言ってたよね」
どいつもこいつも押しが強くて
こればかりは、はっきりと言っておかねばならない。
わたしの夢を
「わたしは、いままで恋をしたことがない。だから、高校では積極的に恋愛をしたいと思っているんだ」
「ふむふむ」
「なるほどなー」
傾聴の態勢になる女子たち。
素直でよろしい。
ちらりと見れば、男子たちも聞き耳を立てている様子。
「恋をしたことがないんだから、自分の恋愛対象もわからない。わたしは女だけど……」
元男だから。
「女の子にときめくかもしれないだろ」
「はぇ~」
「それであの挨拶なんだぁ~」
よし、うまいこと挨拶の補足ができたようだ。
「というわけで、初恋探し真っ最中のわたしを、改めてよろしく」
恋人募集中ですよ! ちやほやしてもいいですよ!
そんな意図を込めて言うが、クラスメイトたちの反応は鈍かった。
男子も女子も、みんな
ぜんっぜん当事者意識ないな、きみたち。
全校生徒が、このわたし・
もっともその理由は、すぐに発覚した。
とある女子が、まるでクラス全員の代弁をするかのように、こんなことを言ったからだ。
「それならよかったね、
「ん? なんで?」
「学校で一番かっこいい人と、一緒に暮らしてるんでしょ?」
「………………………………」
「すぐにできるんじゃない? 初恋」
「…………………………………………………………………………………………」
会話中にもかかわらず、わたしは不自然に停止し、六十秒もの間、動けなくなった。
最初の十秒は、あまりにも想定外すぎる発想だったから。
次の四十秒は、
そして最後の十秒は……納得である。
クラスのみんなは、宇宙最高レベルの美少女である
スーパーウルトラ王子様系美少女である
こーれはよくない。よくないぞぉ……。
わたしがクラスでモテモテになるという未来図が崩壊していく……。
額を汗で
そんなわたしをよそに、
「ごめんなさい。少しだけ、席を外します」
彼女は、
「……私と
「彼女が、私にときめくなんて……ありえませんから」
憂いを帯びたまなざしでささやいて、いずこかへと去っていった。
ああ……。めちゃくちゃカッコよく退場していったけど……。
たぶん女子に囲まれて、ちんちん生えちゃったんだろうな。
いやー……おまえ、節操なさすぎんか……?
そんな風に、妹の下半身を心配するわたしの表情は、果たして……。
クラスメイトからは、どのように見えていたのか。
「すれ違い尊い……」
「
「えもーい!」
彼女らには、わたしとはまったく別のものが見えているようであった。
なんだこいつら。
そして、
「おっはよーっ!」
制服を着崩している彼女は、
十五歳とは思えぬ豊満な肢体。
放つオーラは、芸能人顔負けの華々しさだ。
奔放さと育ちの良さが、矛盾なく成立しているその様は、まさしくクラスカースト最上位女子の
めちゃくちゃ見覚えのある彼女は、座っているわたしの前で止まり、すとんっと表情を消した。
皆に背を向け、わたしを冷たく見下ろし、わたしだけに伝わるように──
「ねぇ……あんた、顔貸しなさいよ」
イジメっ子かな?
わくわくしながら、人気のない女子トイレに連れ込まれるわたし。
いまこの瞬間こそが、女子高生二日目、最大の難関。
それはわかっているのだけど、
『ふわぁ~、マンガで見たやつだぁ~!』
『本当にあるんだ……こんな展開!』
という初体験への感動が消しきれない。
きっとわたしの両目は、キラキラと輝いていることだろう。
「……なんか、楽しそうね?」
いぶかし気にしているイジメっ子──という言い方はよくないな。
彼女はきっと、わたしをイジメたくってこんなことをしているわけじゃない。
「そ、そんなことはないぞ」
「ふん、まぁ……いいけど」
こういえば察してくれるだろうか。
彼女は、
「……で、あんた、なんなの?」
わたしたち双子をよく知る、
中学時代、
わたしの頼れる相棒である。