こちら、終末停滞委員会。2

第1話『転校生、登場!』 ②

 早速新しいクラスメートたちにドン引きされてしまったが、仕方がない。


《あれが……終末『ささやき屋』。未来予知が出来るんだっけ》

こい先輩の下で働いたらしいけど……危ない人、なのかなあ?》


 学友の心中を占めるのは、多くが疑惑や恐怖だ。終末が珍しいのだろうか? 確かメフの話だと、協力的な人型終末の多くが研究所ラボに送られるため、露出は少ないらしい。


《……ことよろずこと。──私が見張っておかなければ》


 強い敵対心。それは教室の最前列に座る、りんとした背筋の少女のものだ。


《あ? なんだアイツ、アタシのご主人ちゃんにらんでね?》

られる前にるか。刑務所でもめられたら終わりって聞くし》


 Lunaさん、学校を刑務所と同質と捉えてんのか。怖いよ。後でやめさせなければ。


「さて、銃痕について。君はどこまで知ってる? 転校生──ことよろず

「あ? え? お、俺に聞いてます? 俺を、当ててるんですか?」

「そーだよ」


 教師の質問に、感動で涙が出た。教師に問題を当てられている!


《怖っ!》


 田中教諭はおびえながら笑顔を崩さなかった。大人だ。


「銃痕って、あおの学園が持つ終末『銃痕の天使』のギフトですよね? 学園に入学した生徒に、特殊な銃を与えるって聞きました」

「その通り。もうもらった?」

「まだです」

「入学して1~2週間前後でもらえると思うよ。枕元にサンタみたいに置いてある」


 そんな感じなんだ。普通に楽しみだな。


「銃痕の天使があおの学園生に銃痕を与える理由には、幾つか説がある」


 田中教諭は、黒板に文字を書き始める。チョークが削れる音にちょっと感動した。


「まず一つ、生存戦略の説。俺達に力を与える事で、自らの安全を確保させている。実際、あおの学園は銃痕の天使を高いセキュリティで保護している。俺たちが利用されてるってワケ」


 それは確かに、かなりありそうな説だ。だとしたらかなりこうかつだ。


「もう一つは──それ自体が、終末の持つかつぼうだという説だな」


 かつぼう


「終末は、強いかつぼうを持つ。かつぼうのために存在し、その願いによって世界を滅ぼすんだ。それが故に、終末なんだ。願いを持たない終末は、一つとして存在しない」


 田中教諭は、俺の目をぐに見てそう言った。それは、銃痕の天使の説明でありながら、俺自身への説明でもあるからだ。きっと、色々な報告で俺の状況を聞いているんだろう。


(終末はかつぼうを持つ。……じゃあ、俺は?)


 俺の終末『ささやき屋』にも、何かかつぼうがあるんだろうか?


「まあそもそも、かつぼうを持たない生物はほとんど居ないんだがねえ。近所のおじちゃんから、駅前でエッチな仕事してるねーちゃんまで。誰もが心の奥底に恐ろしい程に狂気的な、自分しか理解出来ない強い願いを持っているものさ。──銃痕はその仕組を利用している」

「そうなんですか?」

「そうなんです。銃痕のエネルギー源は所有者のこんぱく流動体だ。こんぱく流動体は持ち主がかつぼうかなえようとする時に活性化する性質があるんだな。銃痕はそれを利用してるってワケ」


 俺がだまされた女神『霊魂アキュムレータ™』の一件でも、それと近い原理を聞いた気がする。女神はこんぱく流動体を劣化させないため、捕らえた人々に異世界で冒険する夢を見せていた。


「さて、つまり──銃痕はどういう武器になる? 委員長」


 委員長と呼ばれた少女──ファム・ティ・ランは、りんとした背筋で立ち上がる。

 さっきから俺をにらんでた女の子だ。Lunaさんはいまだにメンチを切っている。


「自分の不便な武器、ですよね?」

「その通り。俺が口をっぱくして言ってる事だな」


 そうなのか? ニャオの『シャムシール』もメフの『八脚馬チヤルクイルク』もすごい便利そうに見えるけど。


「銃痕はかつぼうの具現化だ。だから自分の心と向き合い、理解を深めていくことで、実戦でも使える『便利』な能力を作っていくのさ。それが『銃痕』の授業の主な目的ってね」


 自分のかつぼうを見つめる、か……。難しそうだなあ。


《うわ、ダルそ~~~~!》


 うちの従者Lunaさんは全力で面倒くさがって、すでに眠気でこっくりこっくりとしていた。少年漫画とか読んでたらテンション上がるトコなのに、少女漫画ガチ勢だからね。




 4時限目の『反現実』の授業が終わった時、俺はヘロヘロになっていた。


異なる法パラレル・ローの五大分類って何!? R値の計算方法とか分かんないよ!)


 知らないゲームの裏技を延々と聞かせられるような時間だった。


(……勉強頑張らないとな!)


 ラノベ主人公のようになるために! でも頑張るのは勉強だけじゃなくて……。


(──友達作り!)


 それって青春の必須事項だ。俺はキョロキョロと辺りを見渡すが、目の合った学友たちは視線をらす。どうにも怖がられているらしい。気まずい。こういうの苦手だ。


「ふうん、君がうわさの地上人か」

「え?」


 俺に声をかけたのは、髪の毛をきっちりとでつけた、切れ長の目の男子生徒だった。


「地上人は貧乏で3食ご飯が食べられないって本当かい?」

「え、どうだろ。俺のここ数年は1食だったけど」

「ふん、哀れだねえ。可哀かわいそうに。それに何だい、そのボロボロのシャツは」


 寮の物置のさいおうに仕舞われているシャツだったので、確かにだった。


(まさかこれ、クラスの嫌味なエリート金持ちにバカにされるイベか!?)


 その青年は、傲慢そうな笑みを浮かべながら、バッグから包みを取り出した。


「──良ければこれ、使ってくれ」

「……え?」

「フルクトゥスに来たばかりで、服も無いだろう? 気にしないで良い。それは月末のバザールに寄付する予定のものだったから」

「あ、ありがとう」


 普通にいいヤツだった。傲慢そうとか思って申し訳なかった。


「おいテメエ! 転校生!」


 次に現れたのは、随分と体格の良い、大きな生徒だ。


「テメエ、終末だからって、自分が俺サマたちと違ェとか思ってんじゃねえだろうなあ?」

(まさかこれ、クラスのガキ大将に転校早々、因縁をふっかけられるイベか!?)


 俺は少しだけ身構えた。ガキの頃はよく化け物なんて言われてきたモンだから。


「俺たち、終末だからとか人種がどうとかで、平等じゃなくなるわけじゃあ無ェからよう! なんかで文句つけられたら、この番長の俺サマにいつでも言えよ!」

「えっ」

「これからよろしく頼むぜえ!」


 い人達なのかよ。


「改めて、僕はアーラヴ。嫌いな者は貧乏人だ」


 Theおっちゃま風の生徒──アーラヴが自分の髪をでながら口を開く。


「だから、財は平等に与えられるべきだと思って活動している。所得の大きすぎる格差は悲劇を生むからね。一人でも多くの貧乏人はこの世から消えるべきだ」


 やつすぎるだろ。


「俺サマはピアクディ・メン。PMって呼べ。座右の名はけん上等!」


 大きな体格の生徒──PMはシャドーボクシングをして俺に拳を向ける。


「本当に大切な物をまもる時にだけ、この拳を振るうと決めているのさ。けんは嫌いだし誰かを傷つけたくないけど、家族のためなら……──上等だぜ!」

「あ、ありがとうございます。俺は……ことよろずことです」


 二人は俺の自己紹介を聞くと、爆笑した。


「あっはっはっはっは!」


 バカにされたのかと思って、顔が熱くなる。


「──もう俺サマたち、友達だろ? 敬語なんて使うなよ」

「──ハハ。その他人行儀、寒々しすぎて笑っちゃったよ」


 二人は美しい笑顔で、俺の背中を軽くたたいた。


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