こちら、終末停滞委員会。3

第2話『縛鎖の探偵』 ①

 バザールでのパニックが収まった後、ばくの探偵は大人しく樹木騎士団に捕縛された。最終的に死者は0人。あおの学園の医療技術と、mALEEaの機転による所が大きい。


「頼むよ、ことよろずくん。これは重要な任務じゃぜ」


 俺達はマジックミラー越しに、尋問室を見ていた。室内では拘束衣を着た探偵が椅子に座らされている。探偵能力の影響を受けないよう、10m以内には誰も居ない。


「はい」


 俺はエリフ会長から、依頼を受けていた。それは探偵の尋問に立ち会う事。彼女のうそや隠された内面を見通して、会長に報告すること。俺達は2人で、拘束された探偵を見つめる。


「──聞こえるかな、探偵」


 エリフ会長がマイクに声をかけると、探偵は口を開いた。


『は、はじめまして。エリフ・アナトリア会長。……わわ、私は……探偵協会のC級探偵……『はいどうくらい』と申します……。ごご、ごめんなさい……急に、こんな事……』


 ばくの探偵──はいどうくらい。彼女の心は、緊張と焦燥感、そして恐怖でいっぱいだった。スピーカー越しに聞こえる彼女の声さえも、ぶるぶると震えているようだった。


「まず聞かせて欲しい。なぜ、バザールであんな騒ぎを起こしたんだい?」

『ほ、本当に、ごめんなさいっ。探偵協会は、他組織との接触を、よ、良しとしません。私があおの学園の方と話すには、直接出向くしかなくて……探偵である私には、あ、あれ以外に手段はありませんでしたっ』


 エリフ会長が、ちらりと俺の方を見る。


「彼女は真実を語っています。彼女は探偵協会を裏切って、あおの学園に来たみたいです」

「この事件は探偵協会の意向では無い……か。それがい事なのか悪い事なのか」


 エリフ会長はほんの少し考えてから、マイクの通電ボタンを押した。


「よし。端的に、君の目的を教えてほしい」


 探偵の心臓が跳ね上がる。凍りつく程に恐怖を覚えながら、口を開いた。



『──数日以内に、この次元は滅びます』



 俺とエリフ会長は、一瞬、言葉を失いかけた。


りよう次元の人々によって、この次元は跡形も残らないでしょう』

「……りよう次元? それは誰?」

『あ、すいません。探偵協会によって付けられた、とある次元の通称です。私達が今いるこの次元は「桜次元」と呼ばれています。「桜次元」から離れた位置に「りよう次元」があります』

りよう次元』と呼ばれる他次元の人達が、俺達の次元を滅ぼしにやってくる。

 はいどうくらいは、それを警告するためにあおの学園に来た……という事なのだろうか?


りよう次元のしかばねへい達は、東京の上野を狙ってきます』

「……上野? そんなところに、何があるって言うんだ?」

『──不忍池しのばずのいけの、鉄の心臓』


 俺は思わず、あっ。とつぶやいた。


「前にその報告書、テル先輩の研究室で見たことがあります」


 エリフ会長はリンフォンを操作して、その報告書のダウンロードを始める。


「でも会長。確か『鉄の心臓』って、あおの学園の研究でもその正体は不明のはず──」

「……いや。そんな事は無いよ」


 エリフ会長は、妙に納得したようにうなずいた。


「一五枚羽以下の学生には、虚偽の報告書しか閲覧出来ないように設定されている。それだけあおの学園でも、重要な機密終末なんだ。……ほら、これ見て」


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【No,1000『鉄の心臓』】──Stage 1:『始まりInitium

○性質──旧神


○詳細──東京都台東区上野の不忍池しのばずのいけに沈む、全長5mの心臓。未知の金属で構成される。非常に広範囲に及ぶ反現実性を持ち、基礎次元が放つ現実性の波を遠隔の次元から秘匿する。

◯来歴──旧人類ののこした資料にも、その来歴は不明とされている。この事から、旧人類よりも前の時代に栄華を誇った文明の造った装置であると推測される。

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 俺は、首をひねった。


「……よくわかんないんですけど。『基礎次元』っていうのは、俺達の居るこの次元のことですよね? それが放つ……波……? これつまり、どういう事なんです?」

「端的に言うと──鉄の心臓は『他次元の脅威から、我々の次元を隠す』のさ」

「隠す? でも他次元の人たちも、普通にその辺に居ますよね?」


 境界領域商会とか、探偵協会とか、他次元に存在する組織のはずだ。彼らは普通に、地球上でも迷惑千万に活動していると聞く。


「隠れ家系バーを想像して。地図に載ってなくても、客は来るだろ?」


 鉄の心臓は、俺達の店(次元)を地図から隠す機能があるわけだ。なるほど、いちげんさんや迷惑な客はずっと減るだろうが、店の位置を知る者は訪れる。


「ボクたちの次元は、他次元に比べてずっと長命だからね。その理由は、この『鉄の心臓』が大きな部分をになうと言われている」


 そう言えば、なんか前に言ってたな。この次元は、寿命だって。他次元に比べるとヤバイ客が来づらいから、均衡を保ちやすかったのかもしれない。

 エリフ会長は険しい表情で、マイクのボタンを押した。


「教えてくれ。りよう次元』は、『鉄の心臓』を破壊しようとしているんだ?」

『「りよう次元」が崩壊の危機にあるからです』

「……なに?」

『ここから先は、少し早口でしやべります。


 その発言は、うそではない。俺にはそれが分かる。はいどうくらいの心に、恐ろしい程に強い覚悟があることには、初めから気がついていた。それと同量の恐怖も。


『あなた達は、はる彼方かなたの外次元に存在する「星のくじら」をご存じですか?』

「……いや、知らない」

『「星のくじら」はの速度で走る生命体です』


 いやいや待てよ。確か物体は光速よりも速く走れないはずだぜ。そんな事を言える雰囲気ではなかった。現実に反するから反現実。無茶苦茶なのは当然なのだ。


『「星のくじら」は、1秒に数万の次元を滅ぼしながら、外次元を回遊しています。そして、その本能はただ一つ──知的生命体の居る次元を目指すこと』

「い、1秒で数万の次元を滅ぼす……だって……?」


 俺は思わず、りながら笑ってしまった。今まで幾つかの終末と戦ってきた。こいつはやばすぎるだろっていうのも居た。けれど星のくじらは──圧倒的に格が違う。


『「星のくじら」の針路に「りよう次元」があります』

「……なるほどね」

『「りよう次元」が生き残る方法はただ一つ。「星のくじら」の進行ルートを変更すること』

「つまり、ボクたちの次元を餌にして?」

『はい。「星のくじら」がゴール地点を桜次元に変えれば、りよう次元は生存します』


 なるほど──話はつながったね、とエリフ会長は顔を青くしながらも、気丈に笑った。


「そのために『鉄の心臓」が邪魔なのか」

『「鉄の心臓」の効果が無ければ「星のくじら」は近くの桜次元を目指すはずですから』


 1.『りよう次元』の兵士達が、俺達の次元を攻めてくる。

 2.それは『鉄の心臓』をこわすためである。

 3.『鉄の心臓』をこわされたら『星のくじら』の進行ルートが変更される。

 4.その場合『星のくじら』は俺達の次元を標的に定め、跡形もなく破壊する。


(なんてこった。ガチでヤバいじゃないか)


 正に終末の危機だった。この事件で下手を打てば、必ず宇宙は崩壊する。俺は背中に冷たいものが流れるのに気がついた。それは死の恐怖にも似ていた。


「それは……なるほど……えげつないな。だが1つ分からない。もう1つ、聞かせてくれ」


 エリフ会長は声を震わせながら、つぶやいた。



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