こちら、終末停滞委員会。3

第2話『縛鎖の探偵』 ②

廃道昏はいどうくらいくん。…………君は、それをボク達に忠告してくれた……? 君は別次元に所在する組織──探偵協会の探偵だ。この一件に関しては……全くの部外者じゃないのか……?」


 ばくの探偵は、今にも泣きそうな顔をしていた。おびえながら、──小さく笑った。


『私……この次元の出身なんです……』

「えっ」

『生まれは石川県の、金沢の方なんですけどね……。片町の近くの、公営住宅なんですけどね……。15歳になって、探偵能力が発現して、探偵協会に保護されるまでは……この次元で暮らしていたんです。普通の……とっても普通の女子高生として……』


 はいどうくらいの心に映し出されるのは、郷愁だった。子供の頃に両親と行った、金沢城でのお祭り。友達と雪の中を歩いて、食べ歩きをした記憶。大好きな人たち。


「それ……だけ? それだけが……理由?」

『──だって、故郷じゃないですか』


 探偵は笑った。周囲の人々に強制的に殺人事件を起こさせてしまう、宇宙の不条理そのものは──どこにでも居る少女のように、泣いていた。


『だから……そのために使おうと思ったの……私の……最後……』



 探偵の胸を、真っ赤なくいが貫いた。


「……くらいさん!」


 俺が叫んで、思わず部屋に入ろうとする。しかし俺の腕を、エリフ会長が握っていた。


『これは……「の探偵」の探偵能力……。思ったより……遅かったね……』


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【D-289『の探偵』】

○探偵ランク──B¯(要監視級)


○探偵能力──の探偵が名前を記憶した生物は、密室で殺害される。その殺害方法は『巨大なやりが胸を貫く』というもの。赤いのような鮮血が舞う事から、の探偵と呼ばれる。

◯運用方法──四方をコンクリートで囲まれた部屋に軟禁する。運用する際は、部屋のスピーカーから、対象にする人物の本名を48時間にわたって流し続けること。

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「行っちゃ駄目だ、ことよろずくん。──彼女は、こうなることをわかっていた」

「……それはっ」


 ──俺だってわかっていたさ。だって俺は、彼女の心をずっと見てたんだ。その恐怖が報復に向けられている事を知っていた。逃げられない死を覚悟しているのも知っていた。


『探偵協会は……ゥッ……裏切り者を……ごほっ……許しません……』


 つぶやく度に、彼女の体を真っ赤なやりが貫いた。まるで彼女を罰するかのように。巨大な穴を開けられた肉体から、おびただしい量の血液がこぼれる。


『お願いします……エリフ・アナトリア……会長……。私の……故郷を……家族を…………まもって………………ください…………。あなた以外では…………救えない…………』


 エリフ会長は、目を見開いて、彼女の死に様を見つめていた。まるで、この光景を脳に焼き付けるように。会長の細い腕は震えていたが、視線は覚悟に染まっていた。


「──約束するよ。君の勇気を無駄にはしない」


 探偵は笑った。さつりくと報復を確信しながらも、故郷をまもろうとした少女は。


『最後の日にね……タイムカプセル……お友達と、埋めたの……。いつか、皆と……集まろうって……。私……私はもう……行けないから……。行けないから……。だか……ら……』



 数十本のやりが、探偵の体を貫く。彼女はいとも容易たやすく、絶命した。


「──フォン。聞いていたね」


 エリフ会長は──その小ささに信じられない程の強さを秘めた少女は──すでに戦いを始めていた。終末を停滞させるために。託された荷物を運ぶために。


『はい会長。裏は取れました。日本近郊に不審なポータル波を観測していると、ことちように確認しました。彼らは至急、我々に協力を要請したいとのことです』


 リンフォンから流れるシモン先輩の言葉に、俺は驚く。なんて仕事の早い人なんだ。


「了解。すぐに彼らを招いて……いや、ボク達が赴くべきか。連中、あおの学園を目の敵にしてるからね。こういうところは、譲歩しないと」


 つぶやいて、会長は俺を見た。


ことよろずくん。君にも来てもらうよ。──世界が終末を迎える危機だ」

「はい! もちろん!」


 俺はうなずくと、早足で歩き出す会長と部屋を出る。鮮血のを咲かせた探偵の遺骸を、最後にちらりと見て。その表情を、決して忘れないと胸に刻んで。


 ──かくして、あおの学園の総力戦が始まった。


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