異能アピールしないほうがカワイイ彼女たち2
二章 死に至るわけでもない病 ⑨
「あのさぁ…………カイチョーって、こー言っちゃなんだけど……………アレだね」
獅子原も薄々感付いているのだろう。
「昔のあたしにちょい似てない?」
「言いたいことはわかる」
昔、と。あれは先月、文芸部へ相談しにきた獅子原が思い出される。個性を履き違えた彼女は口を開けばウェアキャットウェアキャット。思春期に翻弄され完全に迷走していたため適切な治療を施してやったわけだが。
「いいか、私はヴァンパイアの誇りを持ってだな──」
悪夢再び。口を開けばヴァンパイア女が降臨していた。
よもや生徒会長ともあろう人が思春期イップスの沼にハマるなんて。しかし、振り返れば片鱗はいくつもあった。
「けっ、何がヴァンパイアの誇りよ。かっこつけちゃって恥ずかしいったらないわ」
「かっこつけ、だと?」
何を根拠にと言いたげな会長の、羽織っている外套を指差した朔先輩。
「六月も近いのにこんなもん着てる時点でナルシスト確定でしょーが。伯爵かっての」
「んなにっ!?」
「喋り方も偉そうで気持ち悪いし……今気付いたんだけど、あなた歯並びが綺麗すぎる上に色も不自然に真っ白。さては歯列矯正とホワイトニングしてるわね?」
「しちゃ悪いのか?」
「うっわー、ヴァンパイアだからって歯を見られること意識してるんだこいつ」
「意識しちゃ悪いのかー!?」
容赦ない朔先輩だが、僕の思いをほぼ全て代弁した形になる。
うぅ、と喘ぐ声に目を向ければ、獅子原が胃の辺りを擦りながら悶えていた。いわゆる共感性羞恥。似たようなキャラ付けを実践していたのが彼女。一部は現在も進行中だけど、それがどんなに痛いことか客観視できたのだろう。
「おえぇ……」
ついにはJKが漏らしちゃいけない嗚咽。
「安心しろ。お前よりよっぽど重症な患者だ、あれは」
「そ、そう? ってか病気なんだ……」
「ああ。若年性ミューデント中二病、略してミュー二病」
「名前もあるんだ」
「今命名した」
治療法は未だに確立されていない。
そしてこの病が恐ろしいのは、えてして自覚症状に乏しいところ。
「あ、ありえない……斎院朔夜、なんて無礼な物言いをする女なんだ、貴様は…………!」
動揺を隠しきれない彼女がおぼつかない足取りで向かったのは、部屋の隅に設置されていた小型の冷蔵庫。そこから取り出したのは銀色のパウチ。中身は血液だが、震えの止まらない手でそれを口に持っていく姿は、教育上よろしくない何かを想起させたので。
「会長、それ別に嫌なこと忘れられる成分は入ってませんからね?」
僕は注意する。なぜか会長は潤ませた瞳でこちらを見た。
「古森翼……まさか君まで、この女の味方をするつもりなのかい?」
「朔先輩のご無礼は謝罪しますけど。あなたの方にもいかがなものかと思う部分が……」
「何を言いたい?」
「単刀直入に申し上げるなら、その…………」
痛いキャラ付けは控えた方がいい。中二病は卒業した方がいい。今まで優しさとは無縁の生き方を選んできた僕が、オブラートなんてモノを使いこなせるはずもなく。
結果として、
「吸血鬼アピールしない方が、会長はかっこいいと思います」
最大限に日和った台詞になってしまった。