俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた 1

2‐1.一緒の登校

 高校で再会した幼馴染、美濃りりさ。

 彼女は二次性徴期ということを差し引いても、信じられないくらいに胸が成長してしまっていた。日常生活に差し支えるほどに。

 それでもりりさは、楽しく高校生活を謳歌することを諦めていない。

 そのため、幼馴染で気心のしれた仲である俺――手代木トウジを、ボディガードに指名したのである。

 そのボディガード、一日目だが――。


(やっぱり、迫力が……)


 朝、駅で待ち合わせをして、一緒に電車に乗る。

 満員電車の車内で、りりさの胸の質量は、おそろしいものがある。制服を押し上げる脂肪の塊は、りりさ自身の頭よりデカい。

 もちろん、りりさが満員電車に乗れば、意図せず周囲の人に胸を押しつけてしまうので、彼女自身も気を遣って、出入り口に顔を向けて誰にも当たらないようにしている。

 結果、電車のドアに、りりさの胸が押しつけられる形になるわけだが――。


「どこ見てんのー?」

「いや、別に……」


 りりさがにやにやしながら聞いてくる。

 制服越しであっても、ドアに押しつぶされて変形していく胸に、どうしても目が行ってしまうのだった。

 しかしそれは、他の乗客も同じである。

 りりさに寄り添うように電車に乗っていると、よくわかる。りりさの常人離れしたプロポーションが、どうしても人目を惹きつける。

 もちろん男が自然とりりさを見てしまうのは、気持ちとしてよくわかる。一方で大抵の男は見てはならぬとばかりに、露骨に目をそらしたりしている。

 まあ、さすがに胸をじっと見ているとバレたら、周りの反応が怖い。

 一方で女性もまた、りりさを見ている。単純に驚いている幼女、ついつい見てしまう女学生、なにやらりりさを見て小声で話している年配のおばさん。さまざまである。

 なんなら女性のほうが同性だからか、遠慮なく見てくる比率が多い。


(こんなのが、毎日かよ)


 ボディガードを雇いたくなる気持ちもよくわかる。


「今日は――いないみたい」


 りりさが、小声で俺に言ってきた。いない、とは痴漢のことだろう。


「そうか」


 俺の返事は必然、硬くなる。裏を返せば、普段はいるという意味だからだ。

 毎日痴漢にあっているとも聞いているし、ボディガードとしては気が抜けないにもほどがある。


「トウジのおかげだね。見た目怖いから♪」

「犯罪防止になるなら、威圧感ある見た目も大歓迎だな」

「私は好きだよ? 頼りになるね」


 どこまで本気なのか、イタズラめかしてりりさが言う。


「そりゃどうも」


 満員電車の中、小声で囁きあう。

 なんの変哲もない、ただの通学風景。

 こんな些細な日常でさえ、今までりりさは送れてなかったのだと考えると――ボディガードくらい、いくらでもやってやる、という気分になる。


「トウジの身体、すごいよね。筋トレしてるの?」

「おう、してるぞ。中学の時は先輩からしごかれて、毎日してた」

「えらーい♪ さすが。私もさ、お医者さんにしたほうが良いって言われてるんだけど、なかなかやる気にならなくて……」

「お医者さん?」


 聞き逃せない単語が出てきた。


「あー、ほら、胸がね、これでしょ? ママがさすがになにかの病気じゃないかって、一応、病院に行ったんだけど……」

「大丈夫だったのか?」


 確かに、日常生活に支障があるほどのバスト。

 俺は詳しくないが、胸が異様に膨らむという病気もあるのかもしれない。


「うん♪ 健康診断でも異常なし! 特に病気とかじゃないって」

「よ、良かったな」

「ふふっ、健全な発育をしています、だってさ」


 そのサイズはむしろ不健全――いや、やめよう。

 俺が不健全な目で見ているだけだ。ボディガードをやっているのだから、よこしまな考えは捨てないと。


「でも、先生がさ、そのままだと胸が重すぎて、骨や関節を痛めるかもしれないんだって」

「まあ、そうだな……」


 両胸の重量はたしか11キロと言っていた。

 常に体に赤ん坊二人分の重量が乗っているようなものだろう。


「だから、先生にめっちゃ筋トレしろって言われてんの。とにかく足腰を痛めないようにスクワットして、良い姿勢を保つように背中を鍛えて、あと、おっぱいが垂れないように肩と胸の筋トレもね!」

「サボってるんだろ」

「そうなんだよ~! 先生の考えてくれたメニュー、鬼なんだよぉ~!」


 りりさがわざとらしく泣く。

 胸のせいで大変なりりさではあるが、どうやら味方もいるらしかった。会ったこともないがそこまで親身になってくれる先生も珍しいだろう。

 ところで胸が大きい症例は、何科にかかるのだろうか。やっぱり外科?


「というわけで、トウジも死ぬほど筋トレしてね。私もモチベーションにもなるから」

「別に、一緒にジムでしごいてやってもいいんだぞ」

「うう、トウジも鬼だぁ……」


 りりさがうへえ、という顔になる。


「お前の健康のためだろ。その胸……今でも重そうなのに、垂れてきて重心が下がったら……」


 不安定な位置に、胸の重さがかかってしまうと、全身への負担も変わってくるだろう。

 転倒の危険も増えるかもしれない。


「ひえええ、考えたくもないよぉ! 今もがんばって下着と筋肉でなんとか支えてるんだからぁ!」

「じゃあ、がんばらないとな」

「はい……ガンバリマス……」


 とはいえ、再会してから、りりさの姿勢の良さは気になっていた。

 サボっているなどと言うものの、実のところ、りりさも健康維持のために努力をしているのだろう。元々運動が好きだったはずだし。

 11キロの脂肪を持っていると、それでもなお足りないということか。

 日常を送るだけだというのに、彼女が抱える荷物が多すぎる。

 りりさは朝から、はあとため息をつくのだった。


 一緒に登校して、クラスに到着する。

 とりあえず朝のボディガードの役目はこれで終わりかと思ったら、りりさが開口一番、クラスメイトに向けて。


「今日から、トウジ――手代木くんが、私のボディガードになります!」


 などと宣言しやがった。


「は?」


 いきなりなにを言い出すんだ、りりさは?

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