俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた 1
2‐2.ボディガードの苦労
「今日から、トウジ――手代木くんが、私のボディガードになります!」
「は?」
初のボディガードとして、一緒に登校した俺とりりさ。
そのままクラスに入った途端に、りりさがなぜかクラスメイトに向けて宣言した。
状況がわからず、俺はぽかんとする。
クラスの男子たちも『なんの話?』みたいな顔をしている。
しかし女子――特にりりさと仲の良い女子たちが集まってきて、良かったねとか、やっと決めたんだーとか言ってる。
「お、おい、りりさ、なんのことだ」
「あ、前からねー、私の生活困ることばっかだから、誰かついてあげたほうがいいんじゃないって、女子たちの間で話してたの」
「そういうことは先に言え」
「いま言ったでしょ。女子についてきてもらおうか考えてたけど、痴漢の被害もあるから男のほうがいいって」
「こんなに話が通ってると思わないだろ……」
どうやら、周りにもある程度話がついていたらしい。
知らなかったのは俺とか、関わりが薄い男子たちだけのようだ。
「手代木くんにしたんだ、おっきいもんね」
「幼馴染なんだって? ぴったりじゃん」
「ちゃんとりりさを守れよ手代木くん!」
名前もうろ覚えの女子たちから、代わる代わる好き放題言われる。
背中をばしっと叩かれた。別に痛くはないが、話したこともない女子たちに親し気に話されて、なんと返していいかわからない。
「人気者だな、お前」
結局りりさに対して、そんな当たり障りのない感想しか言えない。
「まー? 人徳? 人柄? 的な?」
確かに人柄によるものなのだろう。自分で言っては台無しだが。
「いやぁ~。まさか手代木君にとられちゃうとはね!」
バレー部の――ええと、たしか三笠という名前の女子が、にやけながら言う。
「サイアク、アタシが男装してりりさのボディガードやろうと思ってたんだけどさ!」
「みーちゃん、危ないからそれダメって言ったでしょ!」
三笠はバレー部だけあって身長が高く、確かに男装には向いているかもしれない。
「いやでも、こんなデッカい宝物がついてんのよ! 男なんかに渡すわけないでしょ! ああ、悔しい! 私が男だったら、絶対りりさを離さないのに!」
三笠がりりさに抱きつく。
それとなく胸も揉んでいた――こいつも一種の痴漢では?
「ちょっとぉ、みーちゃんやめてよぉ!」
「はあぁ~、いつ触っても最高……!」
「セクハラだよ! 助けてトウジ!」
りりさは嫌がっている――わけではない。冗談めかして俺の名を呼ぶ。
女子同士の他愛無いやりとりにも見えるが、とはいえ名前を呼ばれてしまえば、ボディガードとして動かないわけにはいかない。
「――はいはい、そこまで」
俺はりりさと三笠の肩に軽く触れ、二人をひきはがす。
「女同士でも、今はセクハラになるんだろ?」
「むー、友達同士のスキンシップなのに、厳しいわねぇ」
三笠は唇をとがらせる。なんか文句を言われるかと思ったが。
「でも合格!」
「合格って……」
三笠がサムズアップして認めてくる。
お前が決めるのかよ。上から目線だなあ。
「りりさはとにかく変な虫が寄ってくるからね! キミがそうやってしっかり守ってあげんのよ! がんばりなさいよ!」
「言われなくてもそのつもりだが――」
「ま、私は更衣室とかでりりさの宝物、堪能させてもらおっかなぁ~!」
舌なめずりをしながら、りりさににじり寄る三笠。
――やっぱりコイツも警戒対象にするべきなんじゃないか。
「おまえたち、なに騒いでるんだー。HRやるぞー」
などとやっていると、担任がやってくる。
りりさははいっ、と元気良く手を伸ばした。
「先生! 例のヤツ、手代木くんに決めましたっ!」
マジかよ。先生にまで話が通ってるのか。
「ああ~、ボディーガード、だったなあ。じゃあ、美濃と手代木は、登下校一緒になるんだな」
「はい、そうです!」
なんでそんなに元気が良いんだ。
俺たちが幼馴染の関係だと知らないヤツが聞いたら――どう考えても、付き合い始めたカップルだろ。噂されるに決まってる。
すでに事情を知らない男子たちが教室の隅で、こっちをちらちら見ながらなんか言ってるじゃないか。
「ああ、わかった。それじゃあ手代木、ホームルームのあと、ちょっと来なさい」
「へ、俺……ですか?」
なんで俺。
「取りに来てもらいたいものがある。あと、席替えもするからなー。ほうら、お前たち、席につけー」
事情がまるでわからない。
りりさを見ると、万事とどこおりなしとばかりにサムズアップをしてきやがった。いや、説明をしろ、お前は。
こちらのことをちゃんと考えない大雑把さ、おおらかさ、昔となんにも変わらない。
「これからがんばれよ、手代木ぃ」
仕事がだるいのか、中年の担任は俺の肩に手を置いて、軽くほほ笑むのだった。
ホームルームの後、俺が倉庫から運ばされたものは。
りりさ専用のアイテムであった。いつの間にこんなものを。
「はぁ~、これで授業がラクになるわぁ~♪」
後ろの席のりりさが、これ見よがしに言う。
俺が座っている椅子――その背もたれの部分には、なんと後ろの席につながる筆記台が接続されていた。
りりさは、自分の胸のせいでノートもろくにとれなかったが、俺の椅子を土台として斜めに配置された筆記台によって、教科書やノートも置けるし、ノートをとるのも簡単になる――ということらしい。
「教頭先生がDIYで作ってなぁ」
担任が言う。マジかよすげえな教頭。
――まあ、りりさのための筆記台は構わないが。
問題は、座っている俺のほうである。筆記台と椅子が接続されている――実質的に、りりさの机と、俺の椅子をセットで使う状態だ。
椅子を下手に動かせないし、りりさの筆圧が、椅子を通じて伝わってくるのも妙に落ち着かない。
あと筆記台が背中を圧迫して姿勢が辛い。背もたれも気軽に使えない。
「トウジ、もうちょっと頭下げて」
「お、お前なぁ……!」
そして、さらに言うなら。
この特別製筆記台は、構造上、俺がりりさの前に座らなくちゃならないのだが――俺の身長がデカすぎるせいで、後ろの席ではりりさが黒板を見られないデメリットが発生した。
おかげで、俺が強制的に、一番前の席になる。
ついでに言うと、それでも見えないとなると、このようにりりさからかがむように指示される。
仕方ないことなのだが、なんとなく屈辱的ではある。
最前列で目立つ中、このやりとり。授業中の居眠りはもう無理だろこれ。
「……その筆記台、書けそうか」
「うん。問題なし! トウジがでっかい以外は!」
「…………」

筆記台そのものに問題はないらしい。
これでりりさは、授業の集中できることだろう。俺が集中できなくなるデメリットと引き換えだが。
(しかし、こんなものまで用意してあるなんて)
俺の知らないところで、りりさは根回しを済ませていたらしい。
普段のボディガードが必要であることを教員たちにも周知させていたり、こんな筆記台をDIYしてもらっていたり。
行動力とコミュ力に、驚きを隠せない。胸が大きすぎてなにかと支障があるから、普段から助けてくれる男が必要だ――という認識をあっという間に共有できた。
りりさのいう『青春の謳歌』のために、彼女は労力をまったく惜しんでいないようだった。
(まあ、おかげで普段から一緒にいても、変な噂は立ちそうにないが――)
それはりりさ自身のためであり。
そして、俺のためでもある。役割が周知されていれば、常に一緒にいられる。
どころか、これから先、りりさがなにかあった場合、他の教師や友人が、率先して俺を呼んでくれることだろう。
さしずめ、保健係ならぬ『りりさ係』といったところか。
学校全体でそのような認識になることは、ボディガードとしては非常にありがたい。ボディガードの仕事がスムーズに進むだろう。
「ねー、トウジー、まだちょい見えないー」
「…………」
とはいえ。
後ろからシャーペンで小突かれるのは、ちょっとだけムカつくが。幼馴染だからってもう少し遠慮しろ、お前は。