俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた 1
2‐3.筋トレのために
「服が見たい」
学校を終えた帰り道、りりさがそう言い出した。
なぜそんな宣言をするのか、俺にはわからなかった。
「見ればいいだろ」
「もー! 察しが悪いなぁ、付き合いなさいってことよ! ボディガードとして!」
「あー、なるほど、了解」
そういえば、外出時も付き添う約束なのであった。
りりさと共に学校を出て、通学経路あるターミナル駅へ。駅と直結したモールへと向かう。さすがにターミナル駅だけあって人が多い。
(……視線が)
りりさに向けられる視線は、ここでも電車内と似たようなものだ。
すれ違う誰もが、りりさのスタイルに驚いた顔をする。まあ、それだけならまだしも、明らかにいかがわしい目的で近づこうとする男がいるから始末が悪い。
俺がりりさに寄り添い、睨みつけると、舌打ちをしてから距離をとった。
(治安わるいな、オイ――)
胸が大きいというだけで、こうも男の視線を惹きつける。
一人で歩いていたら、そんな男たちへの対処だけで気が遠くなるだろう。ボディガードをつけたくなる気持ちもよくわかる。
迂闊にりりさの隣を離れられない、と思った。
「あれ、りりさ、服屋はこっちだろ」
「あー、うん、今日はね、ちょっと違うの」
りりさが向かったのは一般的なファッションの店ではなく、スポーツショップだった。
「服って、もしかして……」
「そ、筋トレに使うウェアを探したくてさ」
「なるほどな」
医者から筋トレを推奨されている、と言っていた。
「ほら、やっぱりウェアがお気に入りのヤツだとテンション上がるじゃん? 筋トレもはかどるってもんよ!」
両方の拳を、胸の前で握って気合を見せるりりさ。
――胸を強調しているポーズになっているのは、言うべきではないのだろう。
「そりゃ、いいけど……あるのか? りりさのサイズが」
「それを! 探すの!」
いかに伸縮性にすぐれたフィットネス用ウェアだったとしても。
人すら攻撃できる、りりさの胸の質量に耐えられるものがあるだろうか。サイズのあわないウェアに無理やり詰めても、悲鳴をあげるのはウェアのほうだろう。
「かわいくて胸も収まるウェア……あるかな……あってほしい……」
「服選び、大変そうだな……」
Sカップが着れる服、どうやって探してるんだ?
一番、調達するのが疑問なのは下着であるが――もちろんそんなことは聞けるはずもない。
「えーとね、お母さんの知り合いが、ファッションの会社に勤めてる人で……私服とかは、そこで特注オーダーメイドで、作ってるんだけど……」
「特注って……そんな金あるのか?」
「ない……お小遣い飛ぶし、私服も全然足りない……」
俺はファッションに疎いから、よくわからないが――。
高校生の女子というのはもはや、オシャレしないと死ぬような生き物なのではないだろうか? りりさが『高校生活を謳歌したい』というなら、学生らしいオシャレだってその中に含まれるはずだ。
こんなところも、胸のせいでなかなか自由にならない。
「でも、私服はまだしも、ウェアはオーダーメイドできないから……」
「探すしかないってことか」
「マジしんどい……でも、かわいいウェアで筋トレして、胸とスタイルを守らなきゃ!」
女は着るものでモチベーションが上がるらしい。
スポーツショップには、たくさんのウェアやトレーニングギアが並んでいた。せっかく来たし、俺も自分の筋トレのためになにか買うか――などと適当に眺めていると。
「―――――」
りりさが、明後日のほうを見ていた。
彼女の視線の先にあるのは、トレーニングウェアではない。フィットネスコーナーの隣にあった水着のコーナーだ。
競泳水着が並んでいる。
「…………」
りりさは、見たくないものを見るような、けれどそれでいて強い憧れがあるものを見るような、そんな顔をしていた。
一言で表すなら、未練だろう。
りりさは、水泳の強い中学に行きたかった。
けれど、中学では水泳をやっていない。ずっと気になっていた、その理由。
聞いてもいいものか迷っていたが――そんな顔で競泳水着を見つめられたら、どうしたって気になってしまう。
「りりさ」
「えっ! あっ! ごめ、聞いてなかった、なに⁉」
「中学で水泳、やらなかったのか?」
「…………」
りりさが、わずかに唇をとがらせて、顔をそむけた。言いたくない、という顔。
「あんなに水泳、好きだったろ。でも今はやってない。それなのに競泳水着なんて眺めてたら、さすがに気になるだろ」
「――トウジに言っても仕方ないよ。誰にもどうしようもできないから」
「でもよ……」
りりさが心の中で、また水泳をしたいと叫んでいるようにしか見えない。
「今の俺は、ボディガードだから、な。聞いたら、なにか力になれるかもしれないだろ」
「……別に、本当に大したことじゃないし。ていうか、察しが付くでしょ」
りりさは、競泳水着のコーナーへ。
そのまま水着を、自分の身体に当ててみせる。
「ほら、見たまんま。私の胸、どうしたって競泳水着に収まらないよ」
制服を着ていてもよくわかる大きな胸。
その質量は、どうしても競泳水着からはみ出してしまう。そもそも水の抵抗を最小限まで抑えるために、体にフィットしたデザインになるが――。
りりさの胸にフィットする競泳水着などあるはずもない。それこそオーダーメイドで作るしかないだろう。
「最初はさ? ちゃんと着れたんだ、でも――」
そうして、りりさは教えてくれた。
どうしてりりさが、水泳部をやめたのかを。